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はじめに
 
社団法人 日本青少年育成協会
専務理事 近藤 正隆
 
 文部科学省発表の学校基本調査によれば、全国の不登校生は13万4千人を超えたそうである。増加率こそ鈍化してきたが、その勢いは止まっていない。
 本協会では7年前から「もう一つの進路相談会」という形で、全国各地で不登校生、高校中退者の進路の相談にのってきた。当初は学校に行けなくなった人の進学相談が中心であったので、不登校生、中退生を受け入れている教育機関の先生方に呼びかけ、相談にのっていただいた。
 ところがここ3年程相談内容が変わってきた。第1に相談者の年齢が小学生から40代までと拡がり、第2に、これに伴う「ひきこもり」「大学生の不登校」「出社拒否」「卒業後、退職後のひきこもり的無業者」など相談が複雑になり、第3に自閉症、強迫神経症、摂食障害、対人恐怖、LD、ADHD等かなりの専門的な領域が増加し、社会参加が困難となる人の相談が激増した。
 これら全てが不登校と因果関係があるとは言えないが、その多くは不登校の原因となるか、あるいは不登校の結果、その延長線上にあると思われる。
 そこで本協会では、昨年度から日本財団の支援を受けて、「不登校生の進路と社会参加のネットワークづくり」というテーマで、全国的に社会参加受入れ先の調査、ネットワークづくりのシンポジウム、社会参加希望者の相談会と研修を行っている。昨年5月それを基に「もう一つの進路と社会参加総ガイド」を出版した。ところが厚生労働省による「ひきこもり実態調査」の発表もあって、不登校よりもひきこもりが社会的にクローズアップされ、6月に開催した全国16都市の相談会では、ひきこもりを始めカウンセラーを悩ますような相談が予想以上に寄せられ、上記ガイドブックだけでは対応が困難な例もあった。
 実は一昨年からの活動で、全国的にこれらの困難な問題に取り組んでいる方々と、多数知り合うことができた。そこで折角のこのネットワークを生かして、現在最も深刻に悩み、苦しんでいる方々に少しでもプラスになればと考え、この報告書に加えた。
 本報告書では難しい問題を解決するため、相談者の話を傾聴し、彼等に寄り添い、理解し、長年の経験を生かして努力し続けてきた、諸先生方の貴重な活動や具体的な方法を示している。これだけでも今までにない方向性を示したと考えている。
 更に本書には、これも本年度から取り入れた不登校経験者による「相談ボランティア」の生の声を収録している。彼等はかつて不登校で苦しんだ人たちであり、先輩として、現在苦悩の真只中にいる人達の相談にのってほしいと思い、公募した結果ボランティアとして集まってくれたものである。その中からアンケートに答えてくれた方が何と294名にも上った。
 その彼等のアンケートの中から、相談者にとって必ず参考になると思われる部分を抜き出したものも示している。相談者、読者の方々にとっては、正に「目から鱗」の連続と思われるので、是非御一読願いたい。この「珠玉の一言」をお寄せ下さった相談ボランティアの方々に深く感謝するところである。
 6月の相談会では彼等を研修のつもりで私どもの相談員と同席させ、プロのカウンセラーの対応を学ばせた。ところが相談に来た方々からは「不登校体験者の意見を聞きたい」という希望が多く、図らずも彼等にとってカウンセリングの初体験となった。これが驚く程の大好評で、今まで後ろめたい気持ちで生きてきた彼等には、「人の役に立った」「自分の体験が生きた」という大きな自信になり、社会参加の一歩となった。
 そこで改めてカウンセリング技法を学んでもらうために、約100名の相談ボランティアが全国5ケ所で、昨年夏2〜3日の研修を受け、9月からの相談会では、プロのカウンセラーとペアを組んで参加者の相談にのり、午前のシンポジウムでは彼等が司会からシンポジストまで努め、体験談を語った。これが評判を呼び、東京・京都・名古屋ではNHKのニュース番組やラジオジャパンでも紹介された。
 以上、1年間の活動を極力お伝えしようと考え、まとめたものである。








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