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5 わが国の対応の可能性
(1)わが国による規制と防止
 
(a)法的枠組み
 わが国が自ら規制と防止にあたる場合には、国際法上違法な行為とされ規制の対象として確立されているか、あるいは少なくとも規制が禁止されていないものであって、国内法上規制の根拠を充たしているものである必要がある。
 国内法上は、海洋汚染および海上災害の防止に関する法律が、規制の枠組みを整備している。まず、実体法規定として、「投棄」という用語を用いていないものの、それをカバーする「排出」という概念を用いて、規定を置いている。同法第3条5号の定義規定で、「排出」は、物を海洋に流し、又は落とすこと、と定義し、第10条で、廃棄物を「排出」することを禁じ、第55条1項3号で、違反に対する刑罰を規定している(6)。手続法規定としては、刑事訴訟法、海上保安庁法がある。領海外への管轄権の行使についても、排他的経済水域および大陸棚に関する法律で、対処されているが、それを越える海域については、ここでの問題のように、わが国を旗国・登録国・積込み国としないと考えられる船舶の場合には、管轄権は及ばない。
 国際法の視点からは、条約締約国との関係では問題がないが、非締約国との関係で、排他的経済水域・大陸棚について、締約国と同じように理解できるかについては、争いが生じる余地はあるが、国際慣習法化しているとの理解によらなくても、一定の条件のもとに正当化される可能性はあろう。
 
(b)実体法適用の実効性
 (a)で述べたところからも明らかなように、国際法に従いながら国内法を適用して、わが国がここでの問題を自ら規制・防止しようとすることには、限界がある。まず、それが投棄によるものであったとしても、関係国の内水で投棄が行われた場合である、の場合には適用がない(7)。次に、関係国の領海・排他的経済水域・大陸棚または公海で行われた場合である、の場合にも、管轄が及んでいない。ただ、廃棄物がわが国の領海に到達していることを捉えて、これらの場合を、国内犯と理解しようとする立場にしたがうことができれば(8)、一応問題は解決する。しかし、このような解釈的努力をしたとしても、その証明は極めて困難で、現実的ではない。非締約国から積み出された廃棄物がわが国の排他的経済水域で投棄された、の場合は、関係国と紛争の生じるおそれはあるが、国内法を適用することは不可能ではないであろう。また、のうち、非締約国から積み出された当該国の法令上違法なわが国の排他的経済水域で行われた投棄の場合も、同様であろう。のうち、締約国を積出国とする場合は、適用に問題がない。ところが、このの場合であっても、これを実際に適用し防止しようとすると、やはり、立証上問題が残る。
 
(c)執行の実効性
 実体法上適用が可能であるとしても、その検挙は、実際上現行犯かそれに近い場合に限られる。すると、(b)で述べたうち、多少とも現行犯に対する執行の可能性があるのは、わが国の排他的経済水域での投棄である、であるが、その取締りには多大のコストを要するばかりでなく、投棄の行われている場所としての可能性は必ずしも高くはないので、費用対効果が適切か慎重な検討を要する。








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