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なお、高出力機関搭載による船体や他の部分とのミスマッチによる安全上の問題が強く指摘されています。(「小型漁船の高速化に伴う漁船事故事例について」参照)

火災、浸水については、先ずは漁船員による適時の見回り、点検が求められるところです。

しかし一人乗りなどの少人数化、操業への集中など、どうしてもおろそかになることは否めません。従って、これらの危険事象が発生したら遅滞なく漁船員に知らせる安価な警報装置の開発とその設置が望まれるところです。

推進器障害については、海上浮遊物への見張りの強化が求められ、また、網や綱を使用する漁船での絡網、絡索が多いので、船橋と後部作業員との連絡の緊密化が必要ですが、漁具などの構造的な面での安全対策検討も望まれます。

(4) 人身事故の防止

漁船では毎年多くの海中転落や負傷が発生しています。(一九九三〜一九九八年一、四四〇人。年平均二四〇人)

特に小型の漁船では、荒天の影響を受け動揺しやすいこと、滑りやすいこと、作業時の不自然な姿勢・動作などが要因として挙げられますが、一人乗り漁船の増加、漁船員の高齢化、労働の強化、各種省力化機械の導入など労働環境の変化も背景として指摘されています。

現在全漁連が推進している「全国的な漁労現場における問題点の抽出および安全対策の各種事例、アイデア調査」の結果によれば、現地漁協で導入しているものとして、舷側への「手すりの設置」、危険個所への「トラマークの表示」、甲板への「滑り止めの塗布」などの事例がみられ、この種全国規模の調査、資料の全漁協への配布は極めて有効と思われます。

各漁協には、これらを参考にした積極的な導入、これらに触発された独自の検討が望まれます。

 

乗船者の生存・早期救助対策

(1) 海中転落者生存対策

前記六年間の人身事故の分析によれば、漁船員の海中転落者は七六九人で、そのうち六六三人(約八六%)、年平均一一〇人もの人が死亡・行方不明となっています。

毎年最も多くの漁船員の命を奪っている海難が海中転落であることを重視すべきです。

なお、海中転落者で死亡が確認された者四〇五人のうち約九六%もの人が救命胴衣を着用していないという現実がみられます。

また、海中転落事故発生時には、漁協を挙げて、また他の協力を得ての大規模な捜索が実施されますが、救命胴衣類を着用していれば早期救助が期待でき、また言いにくいことですが、不幸にも死亡に至ったとしても遺体の早期発見につながり、多大の捜索費用(休漁による損失を含むとウン千万円と言われている)の軽減化になり、さらには遺族にはお気の毒ですが、遺族の心の整理が付きやすいということも重要な要素と言えましょう。

○救命衣常時着用化の促進

“せめて命だけは…”と、海中転落者の死亡・行方不明者を減少させるためには、救命衣の常時着用が極めて有効な手段であると思います。また小型漁船については、突発的な転覆や衝突などの海難発生時にも海中に投げ出されることとなり、常時着用はこれらの者の救命にも大いに有効でしょう。

ここで皆さんにはオートバイなどでのヘルメットの着用義務化を並べて考えていただきたいのです。

規定された当初は、ヘルメットは頭が重くなる、邪魔だなど着用化には反対し、不満を唱える人が多かったのですが、現在は皆違和感もなく着用されています。

その後の状況をみると、どうせ被るのならと、案外価格が高くてもフルフェースの格好のよいヘルメットを自分で購入しています。

義務化の当初は何れの場合でも反対、不満は聞かれるものですが、何時も着用していることにより慣れが生じ、その安全効果が死亡事故減少で証明されれば定着化することは間違いないと思います。

現在、安全評価室において、「小型船舶用救命胴衣の常時着用化に関する評価検討会」を開催し常時着用化推進策の検討を始めております。

 

 

 

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