居眠り防止対策については、一部内航船に普及している赤外線活用の警報装置は、価格の問題もあるので、漁船用の安価な機器の研究開発が切に望まれます。(私は、万歩計やペンダント状のもので時間間隔を五分前後で自由に設定できるものが安価でよいと考え、どこかの時計メーカーに試作品のお願いをしようかと思っています)
また、衝突海難の内容をみると、こちら側が操業中や漂泊中に、接近してくる他船に衝突されるケースが多々みられ、大きな目立つ旗の掲示、小型のレーダーリフレクター取り付けが望まれます。
また、居眠りや前方見張りをしていない船舶が非常に多いという現状から、こちら側から音響などにより相手の注意を喚起するために、「おかしいな?」ドスーンと来る前に何か大きな音を出せるものを積んで置きましょう。
(2) 転覆防止
漁船海難の統計分析では、転覆の発生隻数は九六五隻で第三位ですが、この海難に伴う死亡・行方不明者の数は四五二人で第一位であることに注目してください。
転覆海難全体の約八割を五トン未満の漁船が占めており、二〇トン未満の漁船を含めると実に九七・六%の多くを小型漁船が占めています。小型漁船は個々の転覆海難だけをみると表面的にはあまり目立ちませんが、総合的には転覆によって毎年数多くの人命が失われていることを重視すべきです。(漁船転覆海難による死亡・行方不明者の約七四%)
小型漁船については、比較的気象・海象の影響を受けやすいこと、波が打ち込みやすいこと、ブローチング現象を生じやすいこと、船外機付き漁船では舷側での作業時傾斜しやすいことなどが一瞬の転覆に繋がりやすい要因と考えられています。
転覆ではさまざまな要因が複合して発生することが多いが、なんといっても人間の判断の適否が最も重要な要因となっています。
自船の性能を十分知って無理をしないこと、手抜きをせずに安定の維持に心掛けることなど、実際に乗っている当事者の意識が安全のポイントを占めます。
しかしミスを皆無にすることは不可能です。人的なミスを的確にカバーするシステムが必要と考えます。復原性、乾舷の保持、過積載の防止、荷崩れ防止、ブローチングなどへの対応について、基準の設定、ハード面での手当などの具体的措置が必要と思われます。
なお、この視点で今回の第五龍寳丸の事故についてみれば、漁労長の経験に頼るだけでなく、動揺周期の変化や網に過漁獲があった場合のロープの張力変化をとらえて危険状態を早めに知らせる装置(危険レベルの表示や警報音)の開発、設置が望まれるところです。
(3) 浸水、火災、機関故障、推進器障害の防止
最近機関故障が増加しています。機関故障に関しては、最近の機関の電子化、高度化と漁船員との関係に配意する必要があります。
従来に比べ保守、整備で漁船員に期待する部分は少なくなっており、また機関の信頼性向上と相まって彼らがその必要性をあまり感じなくなっている懸念があります。
しかし、発生している漁船の機関故障はささいな原因によるものが多いので、やはり漁船員による日ごろの注意、チェックが基本であることを再認識してください。
その意味では、少なくとも日常的にどうしても漁船員に期待する部分(自己責任)の基木的な点検整備マニュアルを作成・配布することは有効でしょう。
また、これを含め、適時専門家に期待する部分(保険団体などとの連携策の推進も必要)、また鉄工所やエンジンメーカーによる整備や検査などに任せる部分など、機関の保守・整備や検査について全体のデザインを構築して、それぞれの役割、対応を確立することが、関係機関・団体などに望まれます。「小型漁船等エンジンの定期メンテナンス推進」事業があります。漁協、漁業者の活用が望まれます。