エージェンシーの比較研究のケースにおいても、構造上の分解と業績上の「契約」は、各国の歴史的背景との関連において検討する必要がある。例えば、「分解」の概念は、大規模で多機能的な官僚制組織をもつ国々においてのみ十分な意味をもつことになる。
このような彼らの示唆との関連で、筆者も各国間の制度的、歴史的、社会的相違とくに政治・行政システムの特質との関連での研究が、今後の課題として重要であると考えている。
4. 改革の成果のテストのための仮説と課題
エージェンシーの最も重要な問題は「エージェンシーが成功するかどうか」の問題である。
これについての評決はまだ出ていないが、しかし、これまでのケース・スタディなどに基づき次のようなテストのための仮説をタルボット達は提供している24)。若干の筆者の加筆もまじえながら紹介してみたい。
(1) 構造上の仮説
・構造上の分割または構造上の分解は、相対的に高い信頼によって特徴づけられ、コンセンサスに基づく交渉の慣習が浸透している政治システムにおいて、一層容易に継続していくように思われる(フィンランド、スウェーデン、オランダなど)。
・政治エリート間の強い敵対性および低い信頼性、またはそのどちらかによって特色づけられた政治システムにおいては、新たな構造上の分解は、各構成単位の自律性を法的に確保する方策を含む注意深いデザインを必要とする。エージェンシーは、政治家や圧力団体から制定法上保護されている必要がある。
・組織上の分解は多次元的属性を含んでいる、エージェンシー化の利点は、その組織の分解が制約されたものである限り、低下するであろう。例えば、エージェンシーに財政上の一定の弾力性を賦与するとしても、中央人事規制や法的決定手続きに従うよう一層強く求められている場合、生産性と質の変革を生み出すようには思われない。
・組織の分解は、エージェンシーと主務省の両方に影響を及ぼす。遅かれ早かれ主務省は自らの役割がどのように変化したかを検討せざるをえなくなる。また立法府も新しい関係を調整するさいに、いくつかの困難な問題に直面することになる。例えばイギリスにおけるエージェンシーの長の議会に対する責任の在り方についての激しい論争は、後述のとおりである(第二部第1章参照)。