日本財団 図書館


第二部 海外の動向

 

第1章 イギリスにおけるエージェンシー化の進展と課題

 

1. 保守党政権下の行政改革の三つの時期区分とイブス報告

「過去20年間にわたるイギリス行政改革は、ニュー・パブリック・マネジメント型の改革を実現しようとする最も初期の、最も包括的で、首相などの政治的リーダーによって強力に支持された改革であった」1)と言われている。本章では、サッチャー保守党政権の第三期にあたる1988年に導入されたネクスト・ステップス・エージェンシー(Next Steps Agencies;以下NSAsと略す)について、保守党政権下の動向と課題を分析するとともに、NSAsに対する労働党の対応の変化と1997年政権に復帰した新労働党政権のもとでの保守党政権との継続と断絶について、その主要な特色を若干論じることにしたい。

1979年のサッチャー保守党政権の出現は、戦後のケインズ主義的マクロ経済管理改革の最終的な放棄と強力なマネタリズム時代の開始を画するものであった。そのことは厳しい財政改革を意味していた。それはまた、1970年代を通じてきわめて高いレベルであったインフレを抑制しようとする政府の決意を意味していた。したがって、保守党政権は、国内総生産(GDP)に占める公共支出の割合を削減することにコミットした。実際には、きわめて大きな成功を収めたとはいえなかったが、公共支出の増大の傾向に一定程度抑制が課されたと言うことはできよう2)

こうして保守党政権のもとで、1980年代、90年代には、中央省庁の構造と管理の改革をめざすいくつかの重要なイニシアティヴが推進されたが、これらの発展は、行政のより伝統的な官僚制モデルから、総論でも論述したニュー・パブリック・マネジメント(New Public Management;以下NPMと略す)への広範な動きの一部であったといっても過言ではない。ある論者は「イギリスにおけるNPMの中心的教義はコスト削減など『支出に見合う価値』(Value For Money;以下VFMと略す)の重視、官僚制の分解、達成目標と業績給および『管理の自由』を強調する管理スタイル、市場タイプのメカニズムの使用による競争の促進、ならびに公共サービスの消費者のニーズの重視から構成されていた」3)と指摘しているが、これらのアイデアは、保守党政権の行政改革にかなりのインパクトを及ぼしたといえよう。その動向の特徴は、次の三つの時期に分けて説明することができる4)

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION