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先ほど岡崎大使からもお話がありましたが、アメリカは「シーレーンさえ守られていればいいんだ」というんですね。これは、確かに海洋国家の論理というか、商売人の立場としては確かにそれでいいわけです。

我妻栄先生は民法の大家ですけれども、彼が大学を出られる頃に『近代法における債権の優越的地位』という有名な論文を書かれたことがあります。これは、「近代法においては、ものを所有するとか支配するとかということよりも契約が大切だ。契約でもって人を雇ったりものを借りたりして商売すればいい。それが近代法の精神だ」ということを喝破された非常に有名な論文です。

ところが、今日の平松先生のお話を聞いていますと、中国のやっていることは、われわれの考えかたとは大分違いまして、領域支配をしないかぎり自分たちはうまくやっていけないんだと言っているような気がします。それは、かつてソ連がやろうとして大失敗した道なんですがね。広い領域を確保しないと自分の安全が確保できないと考える。

けれども、商業国家といいますか、商売をやる国、商売を主力にする国の国民はそういう感覚ではない。気に入った町に行って、そこに拠点を築いて現地の仲間と仕事をすればいいわけですから。それを港湾のネットワークでつないで商売をすればいい。

そのへんの中国の感覚には、われわれには違和感がある。インドネシアやフィリピンが唱えている群島理論についても、ちょっと違和感があったなあという、そういう印象であります。

 

第2回研究委員会(1999-7-12)

布施勉氏「新しい国際海洋法の思想とオーシャン・ガバナンス」

 

小川 どうもありがとうございました。さて、7月の研究会には布施先生においでいただき、国際海洋法の思想と哲学についてのお話をいただきました。参加された方の多くが「目から鱗が落ちた」といわれる名講義(110〜135頁参照)でしたが、本日は布施先生がおいでになっていませんので、まず、川村さんにご解説いただいたあと、防衛研究所の秋元さんに補足をお願いいたします。

 

12:「海は人類の共通の財産」とするパルドー思想の背景

 

川村 第2回研究会は7月12日に、横浜市立大学布施教授においでいただき「新しい国際海洋法の思想とオーシャン・ガバナンス」という話をうかがいました。その中で先生が指摘された国際海洋法の思想についてのお話が、みなさんにとって非常に印象深いものでした。詳しい記録は配布した議事録にあるとおりです。

海洋法の制定の過程で非常に影響力のあった、そして現在も大きな影響力のあるパルドー氏の思想の背景について説明がありましたが、パルドーの考えを一言でいうならば、新しい海洋法では哲学が変わってきていますよということです。人類の共通の財産という法的地位を海に与える。それによって海の平和を維持、海の資源を合理的に開発して持続的に使い人類全体の生き残りを図る。したがって国際協力によって地球全体レベルで海洋の維持と開発を本格的に考えましょうという思想です。

 

 

 

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