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81. 貯水時間が長ければ、住血吸虫症(schistosomiasis、またはビルハルツ住血吸虫=bilharzia)の防除も促すことができる。寄生虫は、感染者の排泄物から24時間以内に淡水巻貝に入り込めないか、あるいは感染した巻貝から出て48時間以内に宿主となる人や動物の体内に進入できないと死滅する。したがって、巻貝がタンク内に侵入しない限り、2日間貯水すれば病気の伝播を効果的に阻むことができる。

 

82. 濁水は沈殿によって浄化でき、硫酸アルミニウム(みょうばん)を加えることで大幅に加速できる。よく利用されるのは二槽方式で、第一のタンクは沈殿槽、第二のタンクは浄化水の貯水槽になっている。追加処理(化学的殺菌法など)が必要な場合は、第二のタンクで行ない、必要なら第三のタンクを貯水槽にする。

 

83. 貯水の汚染防止に十分注意すべきである。貯水槽には必ず覆いをかける。覆いがないと、直射日光があたる利点はあっても、汚染される危険のほうが大きい。子どもが貯水槽で遊んだり泳いだりしないよう、貯水槽付近は柵で囲い、必要ならば監視を付ける。

 

ろ過

84. 砂によるろ過は、有効な浄水処理法である。正しく作られ、ろ過(filtration)の速度が遅い砂のろ過器は、二つの機能を果たす。水が砂を通ると物理的に固形物がろ過され取り除かれる。より重要な機能は、藻類、プランクトン、バクテリアなどの生物が、砂床の表面に形成する非常に活発な薄膜で有機物が分解され微生物になることだ。この薄膜は「生物膜」と呼ばれる

 

85. ろ過速度は、砂層の(1)表面積(2)厚さ(3)種類(4)砂面までの水深で決まる。砂の通常の粒径は0.3〜1ミリである。ろ過速度が十分に遅ければ処理水の質が非常に良くなる。

 

86. 技術書にさまざまな砂ろ過装置が紹介されている(章末の参考文献を参照)。ドラム缶と砂があれば、砂を詰めたドラム・フィルターで当面間に合わせることができる。これは保健センターなどへ限られた量の安全な水を供給する場合などに良い。水は5センチの砂礫層上の砂を透過する。200リットルのドラム缶の場合、排出速度が毎時60リットルを超えないようにする。給水栓を使う場合は、排出量と同量のろ過していない水を注ぐ。砂ろ過装置としては、他に緩速砂ろ過器、水平砂ろ過器、河床フィルター、集水用埋設管(砂床が透過性の場合のみ適当)などがある。これらの装置を使えばもっと大量の水の浄水処理に使えるが、迅速かつ効果的な設置は難しくなるだろう。河川を水源とする場合は、川岸の近くに井戸を掘る中間的な措置が考えられる。原水は河川水だが、河床と川岸でろ過される。

 

化学的殺菌法

87. 水の大規模な殺菌処理は、すべての難民緊急事態で必ず実施する。最初に井戸、砂ろ過装置、ポンプ、水道管を浄化する。殺菌と浄化には、ヨウ素または各種塩素化合物が使用できる。塩素系の方が広く使われており、安く、入手も簡単なことが多い。通常、難民緊急事態に最も適した塩素化合物は、次亜塩素酸カルシウムの粉末剤である。大規模な塩素処理には、専門家の助言が不可欠だ。他の浄水処理法と同様、殺菌の際は常時注意を払う必要がある。処理が確実でないなら殺菌の作業をしてもほとんど無意味である。澄んだ水は塩素処理(chlorination)のみで十分な場合が多いが、濁水は化学的殺菌の前に沈殿もしくはろ過、あるいはその両方が必要となる。

 

 

 

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