ワクチンの支給については、ユニセフ(UNICEF)と協議する(付録3の「ユニセフとUNHCR間の合意覚え書き」参照)。
31. 一般に、緊急事態でのワクチンの集団接種はしない。これには医学上、組織上の大きな理由がある。予防接種をしても、緊急事態で最も一般的な病気や死亡原因は、治療も予防もできない(はしかを除く)。集団予防接種には多くの人手が必要なうえに、ワクチンは慎重な取り扱いと保冷管理が必要だ。したがって組織的な予防接種は、緊急事態における時間や資源の誤用になりかねない。
32. 緊急状況が安定したら、直ちに予防接種拡大計画(EPI = Expanded Programme of Immunization)を実施する。これは長期的な保健医療計画には必要不可欠である。標準的なEPIは、はしかの他に、ジフテリア・百日咳・破傷風トキソイド(DPT)、経口ポリオ(OPV)、BCG(結核予防ワクチン)のワクチンを含む。ただし、以下の3条件が満たされなければ、いずれのワクチン接種もすべきでないし(はしかは別)、EPIの完全実施もありえない。3条件とは、 1)人口が最低3カ月間は急変しないと予想される、2)ワクチン接種の運営体制が十分整っている、3)適切な期間内に国の予防接種計画に統合できる(付録3の「ユニセフとUNHCR間の合意覚え書き」参照)。
33. 適切な予防接種記録を必ず残す。最低限、個人予防接種カードを発行する。さらに、ワクチン接種(vaccination)の実施状況の分析ができるように、すべての予防接種をそれぞれ中央に登録するのが望ましい。
伝染病管理
◆ 緊急事態では、特に過密な人口、劣悪な衛生環境などによって、伝染病(communicable diseases)が容易に流行する。
◆ 目標は、伝染病の予防、発見、流行防止、治療である。
◆ 難民は、免疫のない病気に感染した時が一番危険である(はしか、マラリアなど)。
◆ 伝染病が集団発生した場合には、直ちに専門家による現地調査と、政府当局、WHO、実施協力機関などとの緊密な対応調整が必要になる。
34. 緊急事態での難民の死亡や罹患の主因。
i. はしか
ii. 下痢性疾患
iii. 急性呼吸器感染症
iv. マラリア(流行した場合)
さらに、特に幼児の場合、栄養失調と感染が相まって死亡率の上昇につながる。
他にも、髄膜炎菌性髄膜炎4、結核、性行為感染症(STDs = sexually transmitted diseases)、肝炎、腸チフス(typhoid)、発疹チフス、回帰熱などの伝染病が難民の間で確認されている。ただし、難民がかかる病気全体をみると、これらの病気が占める割合は比較的小さい。
下痢性疾患
35. 下痢性疾患は、公衆衛生上の大きな問題である。難民緊急事態では、細菌性赤痢(出血性下痢を伴う赤痢を引き起こす)やコレラなどの急性伝染病がよく発生し、多くの死者を出す。伝染病流行の危険ありとされる地域では、できるだけ早く適切な予防措置を取ることが必要不可欠だ。予防措置は以下を含む。
i. 十分な飲料水の供給と適切な衛生設備。
ii. 石けんの供給、身の周りの衛生と水の管理に関する教育。
4 World Health Organization. Control of Epidemic Meningococcal Disease: WHO Practical Guidelines, 1995を参照。