82. 政府には当然、難民の身体的安全に対する責任がある。特に国内の緊張が高まっている時期は、UNHCRは最大限の努力を払い当該政府に難民保護を促す。当面の目標は、難民が現在の庇護国に安全にとどまれること。最も重要なのは、ノン・ルフルマン原則の尊重である。
83. 最後の手段として、難民が第三国へ移動しなければならない場合がある。こうした移動は、恒久的解決策である大規模な再定住とは大きく異なり、政府の直接要請の結果、あるいは他に難民保護手段がないため必要となる。庇護の可能性がある国に、地域、大使館、本部レベルで、すぐに接触すること。再定住の申し入れ受諾は、当該政府の難民に対する態度に大きな影響を与えうる。事業協力機関(operational partners)の確認をする必要がある。地元NGOに加え、ICRCや国際移住機構(IOM)の支援(旅券などについて)を求める。
84. 難民の生命が脅かされる極度に緊張した状況下では、難民のための「安全地帯」(safe haven)が何らかの形で確保された時もあった。しかしUNHCRの経験では、「安全地帯」の難民は適切な保護を提供されず、引き続き大きな危険にさらされる場合が多かった。したがって正式な「安全地帯」の設置は薦められない。
◆その他のUNHCR援助対象者
85. 関連国際条約で定義される難民(本章7節参照)に加えて、UNHCRは以下のカテゴリーに属する人々にも保護を拡大する権限を与えられている。難民および以下にあてはまる人々は、しばしば「UNHCRの援助対象者」と呼ばれる。
帰還民
86. 帰還民とは、自主的に出身国に帰り、国境を越えた時点で正式に難民でなくなる者をいう。UNHCRは国連総会の委託によって、移動中および出身国へ帰った帰還民を保護・援助し、彼らの問題の恒久的解決策を探る。
無国籍者
87. 無国籍者(stateless persons)とは、いずれの国にも国民とみなされない人をいう。世界人権宣言は、すべての者が国籍を取得する権利を有し、何人も国籍または国籍を変更する権利を恣意的に奪われない、と規定している。無国籍者に関する主な国際条約をこの章の付表1に挙げた。UNHCRは管轄当局に対し、無国籍者の要求を提出したり、国籍法の制定と施行につき国家に技術的・助言的支援を行なう機関となっている。
国内避難民
88. 国内避難民(internally displaced persons=IDPs)は、広義には、武力紛争、内戦、組織的な人権侵害、天災または人災の結果、突然あるいは予期せず、集団で自宅から立ち退きを強いられた後、国内に留まっている者をいう。
UNHCRが国内避難民に関与する際の検討事項
89. UNHCRは国内避難民に関与する際4、主に以下の要件の有無を検討する。
i. 国連総会、国連事務総長、その他の適格な主要国連機関による特別要請。
ii. 当事国、あるいはそれに相当する組織による合意。
iii. 特定の状況下で国内避難民を援助、保護し、解決策を探るうえでの、UNHCR専門技術・知識の妥当性。
iv. 当該活動のための資源が入手可能かどうか。
4 「国内避難民に関するUNHCRの役割」(UNHCR's Role with Internally Displaced Persons, IOM87/97, FOM 91/97, UNHCR, 1997)を参照。