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なお、日本の地方税制と違ってその多様性を特徴とするアメリカの州・地方税制においては、連邦における減税に連動して地方税を減税するという現象は見られないが、中期的には地方税制にもその影響が及ぶことが、1986年のレーガン税制改革の際に見受けられた。

レーガン税制改革においては、連邦法人所得税の税率が大幅に引き下げられたが(基本税率:46%→34%)、地方税制については、連邦法人所得税の減税に連動した動きは生じなかった。一方、連邦税からは地方税が控除されるため、連邦税の減税効果が弱まる結果が生じたと言われている。その後、相対的に大きくなった地方税負担に企業が大きな関心を払うようになり、各州は企業からの圧力もあって租税誘因政策を採用することになったが、過度な優遇措置は州税制全体を歪めることになりかねず、全米知事会等においては、州間の格差を是正して州間租税競争の好ましからざる影響を小さくすることが提唱されている。

また、所得課税についても、レーガン税制改革に連動した地方の所得課税の減税は行われなかったが、連邦所得税におけるフラット・タックス化に伴う課税ベース拡大の影響を解消するため、その後の2年間に16州で所得税の限界税率の引き下げが行われた。

日本でも地方分権の進展にあわせて税率設定等において地方団体の課税自主権が拡充されることになると考えられるが、国税だけで減税が行われる場合にあっても、地方税に対する影響に十分留意する必要があると考えられる。

【後出の第二部 前田委員の論文を参照】

 

(3)赤字地方債の問題

公共事業の場合は、地方債で財源が調達されるとしても、将来の世代の住民に利益をもたらす資本経費に充てられることになるが、地方税減税の財源を赤字地方債に求めると、以下のような問題が生じると考えられる。

1]世代間の負担の公平確保の困難性

国はボーダー(国境)を管理する政府であるのに対し、地方はボーダーを管理しないオープンシステムの政府である。国債については、内国債であれば国民が国民に借金し、将来償還の際にも国民が国民に返済するだけで、必ずしも将来世代に負担を転嫁するという関係にはならないという考え方もあるが、地方債については、他の地域の住民が所有する場合には、外国債と同様に償還する際に域外に所得が移転し、将来世代の地域住民に負担が確実に転嫁される。特に人口が減少しているような団体にとって、これは深刻な問題である。

 

 

 

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