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アメリカの分権型州・地方税制度における多様性の変容

 

大阪学院大学 前田高志

 

1 問題の所在

 

アメリカの州・地方税制は分権型租税システムとしての本質から制度面における地域的な多様性を特徴とする。個々の州や地方公共団体は種々多様な社会経済情勢を背景として、また、それぞれの経済戦略の枠組みの中で、独自の租税政策、租税制度と体系を構築してきた。連邦制という分権システムの下で求められる、地域の自立性、自主性に根ざした行財政運営は当然の帰結として多様な州・地方税制を生み出すことになる。しかし、州や地方公共団体の租税政策の多様性が州際租税競争(tax competition)による部分が大きいとすれば、競争の結果として州や地方団体間の税制の差異はいずれかの水準への収斂の方向に向かうことになる。また、企業活動や資本(人的資源の移動の州際化は州、地方公共団体における税制の調和(tax harmonization)を要請し、それはやはり州・地方税制の多様性を減ずる方向で作用するはずである。

すなわち、近年の経済グローバル化、ボーダーレス化の局面において、国際的な租税競争、租税調和を通じて税制の均質化が一部にみられるように、州・地方税制とりわけ州レベルにおいて税制の多様性が今後も維持されるか否かは不明である。そして、この点における連邦国家アメリカの分権型州・地方税システムの動向とその背景をみていくことは、わが国において今後、地方分権化に対応した地方税制をデザインする際にも大きな示唆を与えてくれるものと思われる。

 

2 州・地方税の多様性

 

現在の州・地方税制の全体像をみると、まず、公益事業収入、酒販事業収入、保険勘定を含む州の1996年度の歳入総額は9,662億9,800万ドルで、連邦政府のそれの約6割の水準となっている。1995年度の地方公共団体の歳入総額は7,574億ドルで、州・地方の歳入純計1兆4,180億ドル(1995年度)は、連邦歳入総額の約9割に及ぶ。1995年度の一般歳入ベースでみると、州税の州一般歳入に占める割合は54.3%で、地方税は一般歳入の38.7%を構成する。次に、州税収構造(同1995年度)は売上税が33.2%、個別消費税が15.5%、個人所得税32.8%、法人所得税6.9%、免許税6.4%等となっており、個別の税目としては売上税と個人所得税が州の基幹税となっている。また、地方税の内訳(1994年度)は財産税が74.8%、売上税・個別消費税が15.0%、個人所得税4.6%、法人所得税1.0%と、地方税レベルでは財産税が税制の根幹をなす。

しかし、税収の構成や税負担水準はもとより、租税制度そのものが州や地方公共団体によって大きく異なり、こうした全体像の数値があまり意味をなさないことは周知の通りである。注1例えば州基幹税の売上税、個人所得税においてでさえアラスカ、デラウェア、モンタナ、ニューハンプシャー、オレゴンの5州には州売上税が存在せず、また、アラスカ、フロリダ、ネバダ、サウスダコタ、テキサス、ワシントン、ワイオミングの7州は個人所得税を課税していない。地方税の場合、財産税は全州の地方団体で課税されているが、ニューハンプシャー州では地方売上税が州内で課税すされておらず、また、個人所得税を課税している地方公共団体が州内に存在する州は24州及びコロンビア特別区のみである。さらにニューヨーク州(の一部の地方団体)とコロンビア特別区のみで地方法人所得税が課税されている。

 

 

 

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