(3) 住民ニーズの多様化
上記(1)(2)に述べた環境変化に加え、公共投資に対する住民の意識や地方公共団体に対するニーズにも大きな変化が生じつつある。これまでも、経済白書や建設白書等において、経済の成熟化とともに、物質的な豊かさよりも心の豊かさなどの生活の質の向上を追求する方向になりつつあること、あるいは、消費者の選択の幅が広がり、画一的な生活スタイルが必ずしも受け入れられなくなっていることが指摘がされてきているが、こうした住民意識・ニーズの変化・多様化は、近年、一層加速しているものと考えられる。こうした背景の下で、特に都市部においては、市街地の景観の向上、環境への配慮、バリアフリーの推進、低未利用地の活用による市街地整備などが重視されるようになっている。
2 求められる公共投資の変質
(1) これまでの公共投資
各地域における国土づくり、地域づくりを進めるに当たって、民間主体に委ねることによっては、質量両面において、市民生活上の必要を満たすことが期待できない社会資本等の公共財の整備を推進していくことは、国・地方を含めた行政主体の最重要の任務の一つであることは今さら言うまでもない。戦前・戦後から現在までの我が国における公共投資は、国防上の必要あるいは経済成長や生活水準の向上に伴って顕在化する新たな需要に対応しながら、その整備水準を着実に向上させ、一定の成果をあげてきたと言えよう。
建設省の取りまとめによれば、戦前から現在までの社会資本整備は主として経済成長に資する都市インフラ整備のための投資等、さらに経済成長に伴う公害問題への対応としての生活関連基盤の整備等を重視したものであった(図4)。これは、その当時におけるニーズを反映したものであり、こうしたニーズに適切に対応することにより我が国の公共投資は、地域別の格差や諸外国との格差を認めながらも、一定の成果を挙げてきたと考えられる。以下、自治省において毎年取りまとめている行政投資実績を基に、最近における公共投資の推移、地域別実績等について概観していくこととする。以下に述べる行政主体による投資については、
・厚生福祉や都市計画関連事業が順調に伸びてきていること
・投資全体の約8割が地方公共団体によって実施されていること
・投資全体の約5割が生活基盤の整備の目的で実施されていること
の3点が少なくとも読みとれる。
1] 投資の総額の推移(図5-1、2)
まず、平成7年度の行政投資の総額は、50兆8,944億円で前年度(47兆8,287億円)に比べて3兆657億円、率にして前年度比6.4%増となっている。これは、我が国の平成7年度のGDP(約490兆円)の約1割に当たっており、行政部門における投資額は、我が国経済においても重要な役割を果たしていることがわかる。また、その投資は社会資本整備に充てられていることから、副次的な経済効果も非常に大きなものであるということが言えよう。