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4. 神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティングビデオ
教材作成事業報告
4.1 目的
 これまで、神戸少年の町では、米国のGirls and Boys Townで開発されたCSP教材の日本語翻訳版を使って実践を行ってきたが、米国版ではない日本独自の教材を求める声は高かった。そこで、これらのニーズに応え、神戸少年の町版のビデオ教材開発を行った。この章では、ビデオとマニュアル作成の概要を報告する。まず、神戸少年の町版CSP教材の作成に向けて行った調査を紹介し、改善のポイントを整理したあとに、神戸少年の町版のプログラム作成の報告を行う。
 
4.2. 調査1 神戸少年の町版開発に向けての調査(要約)1
 2005年1月にトレーナー養成講座を受講した専門職(129名)に対して、郵送法によるアンケート調査を実施した。調査の目的は神戸少年の町版開発に向けての改善のポイントを整理することにあった。調査事項としては、「CSPの実施状況」「実施できた、もしくはできなかった理由」「CSPを実施して、もしくは実施する上で違和感のある項目」についてであった。調査事項は93名(72%)が有効回答した。属性としては、児童養護施設が39名(41.9%)と一番多く、次いで児童相談所の36名(38.7%)であった。職種では心理判定員が一番多く26名(30%)、ついで児童指導員14名(15%)であった。
 
4.2.1 実施状況
 26名(30%)が実施したと答えた。実施機関をみると、児童相談所19箇所、保健所2箇所、児童養護施設3箇所、乳児院と情緒障害児短期治療施設1箇所であった。また、実施したケース数は1例〜10例まで、個別とグループでの実施の両方があった。また全ケース数は67ケースであった。ケースの内容としては身体的虐待のケースが多い。また、ADHDやPDD等の発達障害を持つ子ども、もしくは不登校、万引き、暴言等の具体的な問題を抱え、しつけに難しさを抱える親への実施も多いようだ。数は少ないが心理的虐待や精神疾患の母親のケースも報告されていた。
 
4.2.2 実施できた、もしくはできなかった理由
 実施できた、もしくはできなかった理由をみてみると、違いがある。そこで、CSPの実施に影響を与える要因に実施ができた群と実施できなかった群の間に差があるかをカイ二乗検定で分析した。その結果、できそうな親がいるかといった「ケースの動機づけの問題」、親支援を行う体制やコンセンサスを含めた「組織的な問題」、そして「トレーナーの自信の有無」というものが実施に影響を与えているようであった。
 
表4-1 実施できた、もしくは実施できなかった理由
できそうな親の有無※ 43名(46.2%)
必要性のある事例の有無※ 38名(40.9%)
実施することへの組織のコンセンサス※ 33名(35.5%)
きっかけの有無 31名(33.3%)
施設や機関で講座を行う体制の有無※ 29名(31.2%)
動機付けの有無※ 24名(25.8%)
施設内の理解 23名(24.7%)
トレーナーの自信※ 19名(20.4%)
時間の問題※ 17名(18.3%)
施設や機関での講座を行う発想の有無※ 16名(17.2%)
関係機関の理解 9名(9.7%)
前例の有無 5名(5.4%)
CSPに変わるプログラムの有無 3名(3.2%)
法的な基盤整理の問題 3名(3.2%)
法的な強制力の問題 2名(2.2%)
CSPに対するトレーナー自身の好き嫌い 2名(2.2%)
※はCSP実施とのクロス集計のカイ二乗検定の結果、5%水準の有意差が確認された項目
 
1 2004年度の報告書『虐待をする親への親支援専門職講座の開催および調査事業報告書』日本財団助成事業、社会福祉法人神戸少年の町http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2004/00079/mokuji.htmの一部を再掲した。
 
4.2.3 CSPを実施して、もしくは実施する上で違和感のある項目
 CSPを実施して、もしくは実施する上で違和感のある項目を選んでもらった。「欧米人の登場するビデオ」「文化的な違和感」「生活習慣の違い」「ビデオの吹き替えの声や話し方」「CSPの用語」「悪い結果」というものが上位に上がった。
 
4.2.4 神戸少年の町版への改善のポイント
 プログラムの内容というよりも、ビデオ教材の文化的な違いに多くの回答者が違和感を持ったようである。特に、「悪い結果(オペラントの罰の使い方)」に関しては、具体的なものになればなるほど、それぞれの価値観が衝突することもあるようである。例えば「お金」「家事」を結果に使用することについての低抗感があるという記述があった。しつけは私的行為であり、人それぞれの価値観が反映される。日本の文化にあった教材開発(ビデオ)が改善のポイントとして明確となった。
 
表4-2  CSPを実施して、もしくは実施する上で違和感のある項日
欧米人の登場するビデオ 60名(64.5%)
文化的な違和感 41名(44.1%)
生活習慣の違い 34名(36.6%)
ビデオの吹き替えの声や話し方 22名(23.7%)
CSPの用語(言葉遣い) 19名(20.4%)
悪い結果(オペラントでの罰の使い方) 19名(20.4%)
ビデオの内容 17名(18.3%)
子どもに家事をさせること 12名(12.9%)
心理的な面に注目しないこと 12名(12.9%)
ロールプレイ 6名(6.5%)
子どもの権利意識 6名(6.5%)
プログラムの構成 2名(2.2%)
誉めること 2名(2.2%)
子どもの責任を明確にすること 2名(2.2%)
行動に注目するアプローチ 1名(1.1%)
良い結果(オペラントでの賞の使い方) 1名(1.1%)
 
4.3 神戸少年の町版CSPビデオとマニュアルの作成
4.3.1 調査2 ビデオの収録シーン選択のための調査(因子分析から得られた構成概念のモデルとビデオ収録シーンの選択)
 神戸少年の町版CSPビデオとマニュアル作成の報告に入る前に、ビデオの収録シーンを選択するために行ったもう一つの調査を紹介する。
 神戸少年の町版CSPビデオ教材のビデオを開発するにあたり、ビデオの収録シーンを選択するための調査を行った。それはビデオのシーンひとつ一つを大切にしたいと考えたからである。そこで、量的調査を使った調査をCSPトレーナー養成講座を受講した専門職(129名)を対象に実施した。具体的な手続きとしては、各ビデオのシーンを「虐待をした親に見せたいという基準」から評価してもらい、解析を行った。具体的には、因子分析を用いた尺度構成法を用いて教材のビデオに収録すべきシーンの候補を抽出した。尺度構成法を使った理由は、この過程が仮説的モデルを構成する概念の妥当性を実証するのと同時に、その概念を代表する具体的な項目(ここではビデオに収録する場面)を与えてくれると考えたからである。
 
対象と方法
 2005年1月CSPトレーナー養成講座を受講した専門職(129名)に対して、郵送法によるアンケート調査を実施した。
 
表4-3 所属機関
児童養護施設 39名
児童相談所 36名
乳児院 7名
保健所 2名
家庭支援センター 1名
保育所 1名
児童自立支援施設 1名
その他 6名
合計 93名
 
表4-4 職種
心理判定員 26名
児童指導員 14名
保育士 13名
児童福祉司 10名
個別対応職員 9名
看護師 6名
相談員 5名
家庭支援専門相談員 5名
心理士(施設) 4名
保健師 1名
合計 93名
 
表4-5 職歴
1〜3年 23名
4〜5年 13名
6〜10年 19名
11〜15年 14名
16〜20年 6名
21年以上 18名
合計 93名
 
CSPの構成概念の仮説的モデルと予備尺度の作成
 CSPの構成概念の仮説的モデルを作成した。CSPは行動療法のオペラントを基本としたペアレント・トレーニングの原型とも言えるPatterson2のモデルを発展させたプログラムである。CSPでトレーニングされる知識としては、正の強化、強化子、罰、強化子からのタイムアウト、モデリング、消去等であるが、これらをまとめると、「問題行動への介入(Giving negative consequence)」、「スキルを教える(Teaching skill)」、「誉める(Giving positive consequence)」という3つの構成概念からペアレント・トレーニングは構成されていると考えることができる(表4-6参照)。この考えから導き出されたのが図4-1のペアレント・トレーニングの構成概念仮説的モデルである。下にいくほど、具体性が高くなっており、理論の次元から実践の次元となる。このモデルでは実践の次元は具体的な項目になっており、これらが実践の次元での援助を導くものであるのと同時に、教材ではビデオの場面になっている。次に、この仮説的モデルを反映する予備尺度を作成した。仮説的モデルの「問題行動への介入」「スキルを教える」「誉める」の3つの構成概念を反映する親と子どもの具体的なやりとりの場面を上げる項目からなるアイテムプールを基に「問題行動への介入」57項目、「スキルを教える」41項目、「誉める」40項目からなる予備尺度を作成した。回答はビデオ教材の収録場面を選択することを目的とした調査であることを明記した上で、問題行動への介入の場面であれば、「悪い結果(罰)を与える例として、虐待をした親に見せたい場面を評価してください」と尋ね、“非常によい”(4点)“よい”(3点)“悪い”(2点)“非常に悪い”(1点)の4件法で求めた。「スキルを教える」「誉める」においても同様の質問方法を用いた。
 
表4-6  ペアレントトレーニングの3つの構成概念の定義とCSPプログラムとの対応
構成概念 定義 CSPプログラム
問題行動への介入 子どもの問題行動を減らすために悪い結果(罰)を使う方法 「悪い結果」「問題行動を正す教育法」「自分自身をコントロールする教育法」「わかりやすいコミュニケーション」
スキルを教える 子どもに望ましいスキルを教える方法 「予防的教育法」「わかりやすいコミユニケーション」
誉める 子どもの良い行動を促進するために良い結果(強化子)を使う方法 「良い結果」「効果的な誉め方」「わかりやすいコミュニケーション」
 
2 Patterson, G.R.: Families: Applications of social learning to family life. Il: Research Press, 1971


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