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2 平均粒子径の補正
 1項で解析した各飛行番号毎の実測平均粒子径をまとめて表IV-3.5に示す。
 調査紙上に記録された水粒子の痕跡は、実際の粒子径よりも広がった状態で記録されることから、実際の粒子径を測定するためには、粒子径の実測値を補正する必要がある。
 社団法人農林水産航空協会が昭和51年に行った「液剤少量散布における噴霧粒子の落下途中における水分蒸発抑制に関する実験」の結果(微量注射筒により水滴を落下させ、真球として計算した理論上の直径と白色調査紙上の痕跡径を比較した結果、0.5mmの直径の水滴は痕跡径/理論上の粒子径=1.47であること)を採用してデータの補正を行ったところ、補正後の水粒子径の値は0.44mm〜0.90mmの範囲となった。
 各飛行番号毎の調査紙の平均粒子径(補正値)を表IV-3.6に示す。
 
表IV-3.5 各飛行番号毎の実測平均粒子径(単位:mm)
注. ( )内の数字は、飛行番号を示す。
 
表IV-3.6 各飛行番号毎の補正平均粒子径(単位:mm)
注. ( )内の数字は、飛行番号を示す。
 
 表IV-3.6より、次のことが分かった。
(1)散布高度との関係
 散布高度が高くなると平均粒子径が大きくなる傾向を示すものが多い。
(2)散布速度との関係
 散布速度が速くなると平均粒子径が大きくなる傾向を示すものが多い。
(3)ノズル数との関係
 ノズル数の増減と平均粒子径との間に、特別な傾向は見られなかった。
 
 散布高度及び散布速度と平均粒子径との間の関係については、実験途中から降った小雨の影響や回転翼機の飛行方向に対して右斜め前方から吹いた風の影響によりデータにばらつきが出たため、表IV-3.6から示すことはできなかった。
 過去に行った文献調査の結果から、空中からノズル噴射によって散布する粒径は600〜900μm(0.60〜0.90mm)の大きさが必要であることを考えれば、計測した値が0.44〜0.90mmの範囲内にあるのは良好な結果であることが言える。
 
3 散布幅
 ダウンウオッシュ調査では、滑走路センターラインから左右10mの位置に設置したバットに水粒子の落下が観察されたことから、散布幅が20m以上あることが分かった。実験当時は回転翼機の飛行方向に対し、右斜め前方からの風の影響により水粒子が左側に流されることがあり、右側(風上側)のバットに水粒子が落下しない実験ケースがあり、その後に実施した粒子径及び散布幅の調査では、右側(風上側)のバットを滑走路センターラインの左側(風下側)15mの位置に配置換えして実験を行った。
 ここでは、センターライン左側15mに設置したバットへの水粒子の落下状況とセンターライン右側に設置した調査紙に記録された水粒子の痕跡の分布状況から、風の影響を考慮した散布幅について推定を行った。
 
(1)センターライン左側バットの水粒子の落下状況
 センターライン左側の水粒子の付着状況については、表IV-3.2に示した粒子径及び散布幅調査の結果、全ての実験条件においてセンターライン左側15mに設置したバットの水に水粒子が落下したことが観測されたため、センターライン左側の散布幅を15mとした。
(2)センターライン右側バットの水粒子の落下状況
 IV-3-2-3のに示したとおり、調査紙の被覆面積率は、調査紙の測定対象面積に占める散布粒子の痕跡の総面積を百分率で表したものであるから、散布量との間には正の相関関係がある。このことから、センターライン右側(風上側)の調査紙の粒子の付着状況については、被覆面積率の値を用いて検討を行った。
 表IV-3.2a〜eに示した各調査紙の被覆面積率の値から求めた、各飛行条件毎の調査紙上の水粒子の痕跡分布を図IV-3.11acに示す。
 
 同図より、次のことが分かった。
1)散布高度との関係
 散布高度が低いほど被覆面積率の平均値が高くなり、調査紙への水粒子の付着量が多くなる。
2)散布速度との関係
 散布速度が低いほど被覆面積率の平均値が高くなり、調査紙への水粒子の付着量が多くなる。
3) ノズル数との関係
 ノズル数が多いほど被覆面積率の平均値が高くなり、調査紙への水粒子の付着量が多くなる。
 
(3)検討結果
 表IV-3.2及び図IV-3.11acを基に風の影響を考慮して推定した散布幅を表IV-3.7に示す。
 
表IV-3.7 風の影響を考慮した推定散布幅(単位:m)
ノズル数 散布高度(m) 散布速度(ノット)
10 20 30
4 9 - 25(4) 22(6)
14 25(1) 25(3) 21(5)
19 25(2) - -
8 9 - 21(10) 20(12)
14 25(7) 20(9) 20(11)
19 25(8) - -
16 9 - 25(16) 25(18)
14 25(13) 25(15) 19(17)
19 25(14) - -
注. ( )内の数字は、飛行番号を示す。
 
 表IV-3.7より、次のことが分かった。
1) 散布高度との関係
 実験した範囲では、散布高度と散布幅との関係に特別な傾向は見られず、ほぼ同程度の散布幅である。
 散布幅の小さい値については、散布された水粒子が風の影響により散布方向の左側(風下側)に流された結果、測定値が小さくなった。
2) 散布速度との関係
 実験した範囲では、散布速度と散布幅との関係は散布速度が速くなるとやや幅が狭くなる傾向を示した。
3) ノズル数との関係
 実験した範囲では、ノズル数と散布幅との間に特別な傾向は見られない。
 
 以上から、回転翼機からの散布幅は25mと推定し、以後の検討に用いた。
 
IV-3-3 最適ノズル数の検討
 少ないノズル数で油分散剤を散布する場合、流出油量と油分散剤の散布比率から低速度で行う必要があるが、ダウンウオッシュの影響のため流出油が海面上から拡散して海面のみとなり、油分散剤散布が不可能となる。
 このことから、図IV-3.10に示した散布高度−散布速度とダウンウオッシュの関係から各ノズル数毎に各油層厚におけるS-7散布率と必要散布速度との関係を求め、S-7の散布に最適なノズル数を検討した。
 なお、検討に当たっては、実験で用いたノズル数4、8、16個の他に24、32個についても検討した。
 各油層厚におけるS-7散布率と必要散布速度との関係を表IV-3.8abに、各ノズル数−油層厚−散布速度の関係を図IV-3.1216に示す。
 なお、同表中の遭遇油量Q及びS-7散布量は次式より求めた。
 
 遭遇油量Q=B×V×t
Q(m3/s)=B(m)×0.5144V(m/s)×t/1,000(m)
 
∴ Q(m3/min)=3.09×10-2 B×V×t ・・・(1)
 
 一方、Q(m3/min)に対するS-7散布量a(l/min)は、S-7散布率をx%とすると
 S-7散布量a=Q×x
a(l/min)=Q×x/100×1,000
=10×Q×x ・・・(2)
 
(1)、(2)より
 S-7散布量a=10×3.09×10-2×B×V×t×x
∴ V(knot)=a/0.309×B×t×x
=a/7.725×t×x
 ここで、
Q: 遭遇油量(m3 /min)
B: 散布幅 25m
V: 散布速度(knot)
a: S-7散布量(l/min)
x: S-7散布率(%)
t: 油層厚さ(mm)
 なお、S-7の散布率は軽質原油に対しては1.5%、重質原油に対しては4%とした。







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