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2 今後の動き
(1)各国のAIS基地局整備の進捗状況
 AIS基地局用トランスポンダーを供給しているSAAB社によれば、スウェーデンは自国の沿岸海域をカバーする基地局を整備済み、シンガポールは本年12月までにはシンガポール海峡に基地局6局の整備を完了しVTSとの融合を図る、フィンランドは既に相当数の基地局を整備済みで、今後はスウェーデンとの間のネットワークの接続を行なう予定、その他香港、米国等が整備中とのこと。⇒別添3参照
 
(2)AISネットワーク構築
イ 構想
 船からのAIS情報は、陸上に整備されたAIS基地局を通じ地域NMR(Network Message Routers)で一旦集約、各地域NMRからの情報を中央のサーバーで管理する。右を国家NMR(Network Message Routers)と位置付け、国内的にはコーストガード、海軍、海事局(VTS)など関係官庁とはLAN回線を使用して接続し、船主、船社などとはインターネットで接続する。また国際的には国家NMRを他国の国家NMRと接続することにより、広範囲なネットワークが形成される。この接続には陸上系統を使用する場合、インターネットを使用する場合双方が考えられる。⇒別添4参照
ロ バルト海沿岸のネットワーク構築
 2001年9月バルト海沿岸国閣僚会議でHELCOMコペンハーゲン宣言が採択され、遅くとも2005年7月1日までにはバルト海のAI海域すべてをカバーするモニタリング・システムの構築を目指して、各国に対し国内のAISモニター・システムを構築することなどを要請し、今後の作業の促進のためスウェーデンが主体となった専門家WGの設置を決定した。⇒別添5参照
ハ 国際的なネットワーク
A 地域的なAISネットワークについては、上記ロのようにバルト海沿岸でこれから構築されていく段階であり、全世界をカバーする国際的なネットワーク構想についてはIMOの場では未だ検討がなされていない現状にある。今後、バルト海沿岸のネットワーク構築を通じ実証される技術的要件や運用上の手続きなど一切が国際基準となって全世界に広がって行くものと見られる。
B 現状では、スウェーデンは隣国であるフィンランドの基地局整備を協力しながら、ネットワーク接続作業を進めている由。
ニ IALAの動き
 IALAのAIS委員会の作業予定に、「AIS基地局のネットワークとインターフェース仕様に係る勧告」の準備作業が挿入されており、IMOからの要請を受けとの条件ながら検討が予定されている。本件詳細については本年9月のAIS委員会で概要が明らかにされると考えられる。
 
(3)セキュリティへの活用
イ 米国の考え方
 米国コーストガードのハイ水路管理部長は、AISセミナーにおいて「AISと港湾セキュリティ」と題したプレゼンテーションを行なった。⇒別添6参照
 ハイ部長は、AISがセキュリティ問題を解決する最終数段ではないが有効な手立ての一つであると述べた上で、AISは自国のセキュリティ確保のための戦略上、経済の流れを把握し、法令の執行と情報収集・諜報活動を行なう上で大きな力を発揮する旨指摘した。AISの活用等についてハイ部長の発言の要点は次のとおり。
A AISを情報提供、海域内の船舶交通の把握、船の識別・補足、海難調査などに活用する予定。
B AISの作動を「断」としている船は、コーストガードによる調査・確認の対象となる。
C 海域内の状況把握のためロングレンジ機能は不可欠で右を早期に確立すべき。
D AIS搭載義務については、SOLAS要件に上乗せし国内要件として相当程度の強制化を図るであろう。
ロ ロングレンジ化
A 米国は「海域内の状況把握」という概念から、AISのロングレンジ機能は不可欠との立場であるが、本年5月のMSC75のWGでオランダ代表がAISのロングレンジ化について疑問をなげかけたことに象徴されるように、その実効性、必要性について必ずしも国際的な理解を得られているとは言いがたい。
B NAV48では、船舶のロングレンジ追尾システム(NAV48/2/2ANNEX2⇒)について次のとおり検討がなされた。
(1)WGでは当該アネックスを検討し、短波を使用するロングレンジAISはインマルサットCと同様のポーリングシステムであるが、放送形式のシステムではないことが確認された。
(2)WGではインマルサットCとロングレンジAISの比較を行った結果、セキュリティを目的として使用する場合にはインマルサットCが最適であるとの意見をノート。同時にA1、A2海域を航行する船舶はインマルサットCを搭載していないことがある点をノートした。
(3)NAV48としては、MSC76に対し本件を検討・アドバイスするよう要請した。
C インマルサットCシステムには、緯度経度で指定した海域内の全てのAIS搭載船をポーリング機能で呼出し位置情報などを入手する機能がある。一方、船側のAIS機器では、そのようなポーリングに対し、応答するか否かをマニュアルで選択できるようになっている。
D 今後、ボランタリーベースのロングレンジAISを具体的にセキュリティのためにどのように活用するのか、またその枠組みを国際的な標準として新たに設けるのか、それとも米国の独自路線に世界の一部が追従するという形をとるのか、本件にかかる進展が注目される。
 
ハ AIS機器の継続動作
A AISは、自船の位置情報等を自動的にかつ継続して発信するところに有効性がある反面、自船の位置を不特定多数に発信し続けるセキュリティ上の欠点をシステムとして抱え、右はまさにコインの裏表とされる。後者を懸念するが故、改正SOLAS5章規則19の2.4.7と総会決議917号の21により、船長の判断でAISの動作を切ることができるよう配慮され、この点はICSをはじめとした船主側の意向をくんだ形となっている。
 他方、セキュリティ担当官庁を含めAIS情報を活用する側としては継続発信された情報が入手できることがAISシステム利用のきっかけであり、また目的でもある。
 この点において、今後、行政レベルや運航管理ベースで、AIS作動の強制化或いは指導がどのような形で図られるのか、仮にAISシステムを切って航行した場合、関係機関はどのような対応を取ることとなるのか注目される。
B 本件に関連し、NAV48において、英国は全ての船舶に対する位置情報の会社への報告義務の強制要件化を提案したが、現在検討が進められているAISのロングレンジ化との関係から強制要件化に対する疑義が指摘されるとともに、既にほとんどの会社において船舶の報告制度が確立されていること、及び当該要件の実施を確認することは困難である等の理由から、我が国、パナマ、ドイツ、ノルウェー、デンマーク等の大勢が強制要件化を反対し、結局、強制要件化しないことで合意された経緯がある。
C 本年9月に開催されるMSC76セキュリティ中間作業部会会合において、欧州各国は、できる限りAISの継続動作を確保するため、総会決議917号の21に「又はテロの脅威が差し迫った場合」と限定した書き振りにするよう提案している。この点は、次回会合において争点となる可能性が高い。
 
(4)非SOLAS対象船への普及−クラスB・AIS
イ クラスB・AISとは、非SOLAS対象船である小型船、プレジャーボート、漁船等への搭載を狙った規格・商品で、各社は既に設計等を終了、プロトタイプを製作済みで、国際の場での性能要件の確定待ちの状態。なお、7月のAISセミナーでは同タイプの展示はなかった。
ロ 性能要件については、これまでIECで検討を重ねて来ており、今後、本年11月のIEC会合で性能要件の確定作業を完了、来年中旬から年末までには商品が出回ることとなる予定。
ハ クラスBについては、機器の精度はクラスAのものと同様にして、外部入力を付けないなどのスリム化を図るのが基本的な設計方針。価格は普及の度合いにもよるが、AISセミナーでクラスAの製品を展示したノルウェー・Kongsberg-Seatex社担当は一台250ドル程度(クラスAで現在約10,000ドル)を目指しているとのことで、実際に右価格程度で流通されれば、クラスB・AISはカーナビ並みに急激かつ広範囲に普及することが予想される。
ニ ドイツ担当官は、ドイツでは、プレジャーボートや漁船が皆装備するようになると、画面一杯にAIS情報が映し出され航海士が混乱するなどの弊害が考えられ、クラスBについてはあまり乗り気ではないと述べた。今回のNAV48においても、データーリンクに関しクラスAを邪魔しないようにすべしとの決議が出された背景には、クラスB急増の影響を懸念していることの表れと指摘した。
ホ 米国担当官は、米国としては非SOLAS対象船に対してもAISの搭載を任意或いは強制で搭載させ本システムができるだけ多くの船をカバーするよう適用を広げたい方針と述べた。本システムの活用はセキュリティ確保という側面もあるが、混雑した海域で相手がどういった動きをしているのかを知ることは航行の安全にとって非常に重要なことであり、その意味からも普及を図る方針である由。
ヘ 安価なクラスBが市場に出回った場合、機器の登録が適切に行なわれるかどうか、といった登録事務運用・管理上の問題が懸念される。特に、AIS機器が自船とともに、或いは単独で転売され、船名変更、所有者名義変更を繰り返した場合の正確な情報の管理、及び不法改造による悪用を懸念する点がAISセミナーでも指摘された。
 
(5)AISを通じたサービス
イ リアルタイム気象・海象情報の提供
A 英国の気象・海象情報提供実証実験
 AISセミナーにおいて、過日英国南部で、航路標識に設置した風向・風速計などからのリアルタイム情報を陸上局に一旦集約し、AISを通じて情報提供をするシステム実証実験を実施し結果良好であったとの紹介があった。
B ゼニライトブイ社の取組み
 ゼ社は、SAAB社が開発した小型・省電力型トランスポンダーを、ブイなどの航路標識に設置し、ブイの位置、灯質などの情報等をAISを通じて通航船等に提供するシステムを考案し、売り込みを展開中。提供する情報はブイ情報のみならず、ブイに潮流計、温度計、風向風速計を取り付け、トラポン本体に設けられた外部入力から情報を入力すれば、リアルタイムの観測情報を提供することができる。ゼ社はAISセミナーでも本システムを出展し、参加者は興味を持って説明を聞いていた。スウェーデンでもこの種取り組みは見られず、現時点で世界ではゼニライト社だけとのこと。
 一方、AISセミナーで英国の取組みを初めて知ったゼ社は、英国式一旦集約型がゼ社のアイディアと競合し、今後どちらが安価なシステムとできるかが課題との認識であった。
ロ 携帯電話への情報提供
 スウェーデンにおいては携帯電話の普及率は9割を超えている。SAAB担当者に対し、プレジャーボートや漁船に乗船した者の大半が所有している携帯電話へのAIS情報の提供の可能性を指摘したところ、右は全く新しいアイディアで、技術的には実施可能だとの反応であった。
 
ハ 航路管制等
A スウェーデンでの現状
 見学したイエテボリVTSセンターには、AISのシステム端末が設備され使用可能であったが、レーダーとの合成は行なわれておらず、ハーバーマスターは専らレーダーを活用し、必要に応じAISを参照する程度だとのこと。同VTSは近々レーダーの新替えを行い、その際にはAISとの合成がなされる由。
B シンガポールの現状
 VTSとAIS情報を合成したモニターで航路管制を行なっている。(詳細調査中)
C パナマ運河通航管理への活用
 パナマ担当官は、パナマ運河を通過する船舶に対しAIS装置の搭載・使用を通過の要件とすることを検討中と述べた。改正SOLAS条約の経過措置により未搭載の船に対してはAIS機器の貸し出しも検討中。基本的な考え方として、パナマ運河通航予定の通報を受けた後、当該船の動静をロングレンジAISで監視しながら、複数の船の運河通航計画を調整することで、時間待ちのないスムーズな航行が可能となる。通過に関連した情報を船側に適宜提供することも可能であり、非常に有効なシステムと考えている由。
 
(6)AIS運用上のポイント
イ AIS活用事例
A スウェーデンにおいて、過去、乗揚げ事故があった際、該船の航跡をAISを通じて陸上側が記録しており、事故調査のため有益な情報となった事例がある由。現状のスウェーデンのシステムでは、各船の航跡に関する情報は、過密海域においては6ヶ月間、その他の海域では3ヶ月間保存することとなっている。
B スウェーデン・ストックホルム港の東側海域の各所では速力規制がされているが、過去、警察はAISの実証実験に協力してくれたフェリーが規定の速力を超えて航行したことをAISで確認しこれを検挙、以後、同フェリーはAIS機器を停止してしまった事例がある。
ロ AISとレーダー映像との合成表示
A 関係者からの情報では、レーダーとAISの画像を合成し表示できるレーダーについて、各社とも実験・開発中であり、本年末を目処に表示方法が国際的に確定されることを受け、各社の製品が市場に出回ることとなる由。
B AISセミナーにおいて、国際海運会議所ヒンチリッフェ・海事アドバイザーは、AIS上では当然ながらAISを搭載していない船の情報は入手できない点、レーダーとAIS情報を重ねた場合に質の違う情報が混在するなどを指摘、これに対しAISの開発・推進派であるドイツ・スウェーデン出席者は、IMO総会決議にあるように、AISがレーダーに代わるものではなく、あくまで補助的な情報入手手段であるとの位置付けをあらためて強調した。
C 更に、船橋の中には多くの情報が混在し、航海士として情報過多に陥るおそれがある点について、スウェーデン出席者は、そもそも情報はユーザーが選択するものであり、右は画面上にどの情報を表示するかといったディスプレイ選択の問題であると指摘した。
ハ 船位通報へのAISの活用
A NAV48における検討
 NAV48では、AISが強制船位通報制度においても利用可能であることを確認するとともに、AISを通じて通報する際のフォーマット統一の必要性を指摘した。
 更に、強制船位通報制度においては、陸上局にも、通報の受領の認証メッセージを船宛送る義務を付与すべきとのNAVの意見をMSC宛報告することとなった。
B AISの活用による航海士の負担軽減に係る実証実験結果
 AISセミナーにおいて米国から、シンガポールMPAがマ・シ海峡を通航するAIS搭載船10隻を使い、AISを通じて船位通報を行なうことによる乗組員の作業量の軽減に係る実証実験を行なった結果、50%の軽減が図られたとの実験結果の紹介があった。
ニ ユーザーの意見
A 英国海事研究所のAISに関する調査結果
 AISセミナーでは、同研究所が航海士等に対してAISの有効性に関する調査の実施結果を紹介、右によれば、(1)AISで入手できる情報は歓迎すべきものである、(2)レジャークラフト・漁船を含むできるだけ多くの船舶の動静情報が欲しい、(3)GPSの信頼性とAISとの関係、(4)速力の表示はGPSの情報に基づき対地速力であることを銘記すべき(5)AIS情報はレーダーと同一画面で表示され完全に融合されるべきとの意見が出たとのこと。
B ICS: 国際海運会議所の意見
 ヒンチリッフェ・ICS海事アドバイザーは、AISセミナーにおいて「AISに対する船主の見解」と題しAISに対するコメントを発表した。
 ICSの意見のポイントは次のとおり(詳細は別添7参照)。
(1)レーダーとAIS情報が同一ディスプレイで表示される必要がある。
(2)陸上局の施設の整備が不可欠。
(3)COLREG規則6、7、19の改正を考慮する必要がある。
(4)セキュリティへの活用には懐疑的。
(5)AIS情報のテロヘの活用を念頭に、船長がAIS機器を自己の判断で切ることができる点は固持すべき。
 AISセミナーにおいても、COLREGの改正について海上から質問があり、ドイツ、スウェーデン出席者は、基本的にはCOLREG改正は必要ないと考えている旨の意見であったが、COLREGの条文一つ一つについては検討していないとの印象であった。
 本件については、AISが広く使用されていない段階の議論であり、今後、AISの活用法が具体的に検討されていき、またAIS搭載船が増加し現場での実際の運用経験が重ねられた上で、改めて検討する必要があると思料する。
ホ AIS使用周波数と我が国の現状
A AISセミナーにおいて参加者から「AISで使用されるch87b、ch88bを使用できずにローカル周波数を使用することとなる国はどこか」との質問があり、現在は我が国のみとなっていることが明らかとなった。更に参加者は、AISは乗組員の負担を軽減することを目的としているシステムであり、地域によって周波数の切り替えを行なう必要がある事態は右思想に逆行するのとの指摘があった。
B AISの国際周波数は、我が国ではマリンVHFとして割り当てられており、総務省としては、当面は地域周波数を使用し、今後、国際周波数への移行を行なう予定とのことであり、国際的な取組みに歯止めをかけないためにも、速やかな移行が望まれる。
C 一方、AISの運用要件に関するガイドラインRes.A.917(22)によれば、地域周波数を使用する海域にあっては、地上局からのメッセージによって船に搭載したAISの使用周波数は自動的に切り替わることとなっており、右をSAAB担当者に確認したところ、S社のトランスポンダーは当該機能を持っているが、切り替えにはAIS周波数或いはDSCch70を使用する必要があるとの回答があった。
D 更に本件をシステム・セキュリティの面から見た場合、システムを混乱させる目的で外部からAIS周波数を使用して周波数を変更する可能性も排除できない。SAAB担当者によればS社製トランスポンダーには保護機能があるとの回答であった。SAAB社によれば、右機能はIMOでは強制化されていないとのこと。右のことからシステムの維持・管理の重要性が指摘できよう。







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