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第7章 結論
 
 本研究では、駅ホーム縁端部のブロック敷設方法に関する検討を2年間にわたって実施し、以下の結論を得た。
 
(1)ホーム縁端部の点状ブロック敷設幅の拡張
 視覚障害者がホーム縁端の点状ブロックをまたいで線路側へ進入する危険性を低減するために、ブロックの敷設幅に着目して、検知の度合いの検証を進めてきた結果、ブロックの敷設幅を現在の標準値(30cm)から、10cm程度拡張することが望ましいことが明らかにされた。その結果、現在30cm幅のブロックついては、拡幅を行うことによりブロックの検知の度合いが高くなり、かつ、検知してから停止するまでの距離も短くなることが期待される(→平成12年度報告書)
(2)ホーム内外方を検知可能な混合ブロックの提案
 ホーム縁端部の点状ブロックはホームの内外方(どちら側が線路側であり、逆にどちら側がホームの内側であるか)に関する情報を有しないため、ときに方向誤認の問題を生じる。このため、ホームの内外方を区別しうるブロックの開発を行うべく、従来の点状ブロックのホーム内方側を表す線状突起(内方線)を加えた“混合ブロック”を試作した(→第3章
(3)混合ブロックの最適形状と敷設方法の提案
 混合ブロックに採用される内方線の本数や、点状突起と内方線の間隔などが変わると、検知の度合いに影響を及ぼすことが考えられたため、5種領のパターンを試作して、その優劣を比較検討した。その結果、内方線を1本、点状突起と内方線とのピッチ(突起中心間間隔)を90mmとしたブロックが最適との結論を得た。つぎに、このブロックを模擬駅ホームに敷設して実際の歩行場面に近い環境を設定し、評価実験を行った結果、圧倒的多数の支持が得られたことから、混合ブロックの形状を確定した。加えて、実際に駅ホームに敷設する際の留意点等を整理したガイドラインを提案した(→第3章および第6章
(4)混合ブロックの特徴
 本研究で提案した混合ブロックの特徴を以下のように整理した(→第3章
a)点状ブロック既設駅への適用が容易である
 従来の点状ブロックと内方線1本を一体のブロックとする仕様は、すでに点状ブロックを敷設済みの駅でも、内方線を追加して敷設するという対応が可能である。大都市圏の駅ホームにおけるブロック敷設率が100%に近い現在、既設のブロックをそのまま活用できる本提案はコスト面でも極めて実用的である。
b)縁端部のブロック幅を拡張した効果も併せ持つ
 従来の点状ブロックに内方線を加えたことで、混合ブロックは縁端部のブロック敷設幅を実質的に拡張した効果を併せ持っている。したがって、(1)に示した幅拡張策の具体化事例ともなる。
(5)ブロックの縁端部への連続的敷設が困難な箇所における敷設方法の一元化
 実際の駅では、ホーム縁端部の点状ブロックとホーム上の構造物(支柱や階段の壁など)が干渉するというケースが少なくないが、このように縁端部のブロックを間断なく直線的に敷設することが困難な場所の敷設方法は、ガイドラインに明示されていない。このため、様々な敷設方法の現状を整理し、柱部分に干渉する場合に、ブロックをカタカナの「コ」の字状にホーム内側方向に直角に迂回させて敷設する方法(コの字迂回敷設方式)と、構造物に構わずブロックを直線的に敷設して、構造物の位置だけブロックが欠けているように敷設する方法(連続敷設方式)が代表的であることを確認した。その上で、敷設方法を一元化して視覚障害者の安全性向上を図るには、連続敷設方式がより有効であるとの結論を得た(→第4章。さらに、模擬駅ホームにおいて各種敷設方式の有効性を検証した結果、圧倒的多数の被験者から連続敷設方式を支持する回答を得たことで、この方式の有効性を改めて確認した(→第5章
(6)その他、敷設方法改良案の提案
 この他、ホーム縁端のブロック敷設法に関して例えば、次のような提案を行った。
 ホーム縁端の点状ブロックが階段等から連続して敷設された線状ブロックと交わる箇所(T字部)では、ブロック切替わりについての検知性が高くないことを確認し、より安全な敷設方法への変更を図る必要があることから、点状ブロックに接した線状ブロック3枚を、点状ブロックに変更することを提案した(→平成12年度報告書)
 
 視覚障害者の駅ホームからの転落原因はきわめて多様であり、多数の要因が絡んだ複雑な事例も少なくない。しかしながら、縁端ブロックの検知失敗、ホーム内外方の誤認、歩行方向の失認など、主に縁端ブロックの敷設法について本研究で扱った諸課題は、転落事故に関わる重要な課題であるため、本提案によって視覚障害者の駅ホームにおける歩行行動がより安全なものとなることが期待される。ただし、報告書の中で言及したように、さらなる改善を要する課題も残されていることから、今後も引き続きブロックの敷設方法に関わる研究の深度化を図りたい。
 
付章 追加検討事項
 
1 はじめに
 以上の検討によって残された課題について以下の検討をした。1,2)
(1)島式ホームにおけるホーム縁端警告ブロック敷設間隔の下限値
 島式ホームにはホームの一部(特に、ホームの始端や終端)の幅が狭くなっているものがある。このようなホームでは、ホームの両縁端に敷設されたブロックが接する程度まで近づくことがあり得るが、それぞれのブロックが確実に検出されるためは、どの程度の間隔を確保すべきか明らかになっていない。この間隔が狭すぎると、視覚障害者が当該箇所に降車した場合、2列のブロックが敷設されているにもかかわらず1列だけであると誤認して反対側の縁端から転落することも考えられる。2列のブロックを検知するためには、ホーム短軸方向を移動するときに「ホーム縁端警告ブロックがあること」と「ホーム縁端警告ブロックがないこと」がはっきりわかる必要がある。平成12年度に実施したブロック敷設幅拡張効果に関する実験3)では、ブロックを直交して横切るときにブロックがあることが確実にわかるブロックの幅は60cm以上であるという結果を得ている。しかし、これは「ブロックがあること」が確実にわかる幅であり、「ブロックがないこと」がわかる幅に適用できるかどうか明らかではない。
(2)ホーム縁端警告ブロックのホーム縁端からの距離の上限値
 現在のガイドライン4)では、ホーム縁端を警告するブロックをホーム縁端に敷設する際のホーム縁端からの距離の上限値は決まっていない。現在のガイドラインに記載されている内容や平成12年度に実施したブロック敷設幅拡張効果に関する実験3)における停止距離の結果から、下限値を80cmとすることはできるが、上限値を決めるための明確な根拠はない。なお、平成13年度の検討によってホーム縁端警告ブロックと構造物が干渉する箇所を連続敷設することが決まったので、ホーム縁端警告ブロックをホーム縁端に敷設する際の上限値を設けることが可能になった。
 
 なお、本編において「混合ブロック」と表記したブロックは、「鉄軌道駅ホーム縁端警告用内方表示ブロック(以下、ホーム縁端警告ブロック)」という名称が付されたので、付章ではその名称を使用する。







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