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第3章 ホームの内外方情報を付加した点状ブロックの検討
 
3.1 背景と目的
 鉄道駅のプラットホーム(以下、ホーム)の縁端から80cm以上離れた場所に幅30cmもくしは40cmの点状ブロックを連続して敷設することが「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」1)において基本的敷設方法として示されている。この点状ブロックはその場所がホーム縁端に近いことを示しているものの、ホームの内外方(どちら側が線路側であり、どちら側がホームの内側であるか)に関する情報は示していない。しかし、例えば視覚障害者がホーム上で方向を失認した後にホーム縁端の点状ブロックに達した場合など、ホームの内外方(以下、ホーム内外方)に関する情報が重要となる場面は少なくない。このような場面において視覚障害者がホーム内外方を知るための手段は、例えば、白杖でホーム縁端を確認したり、ホーム上の各種の環境音を手掛かりにするなどである。しかし、音源定位の誤りが原因でホームから転落した事例2-4)は少なからずみられ、またこれらの事例をよく調べるとホーム縁端を白杖で確認するという行為が必ずしも確実な方法ではないこともわかる。そこで、このような現状を改善するために、ホーム内外方の情報を有するブロックをホーム縁端部に敷設することが望まれる。
 このような「ホーム内外方の情報を有するブロック」を実現するための具体的方策として、点状ブロックの内側に線状突起を付加するという案が平成12年度の検討において提案された5)。その論拠は概ね以下のようなものであった。
・ブロックの検知性に関する実験において、点状ブロックと線状ブロックを併設した条件(以下、異種二列敷設)では、ブロック上に停止して足や白杖で探索すれば、ほとんどの被験者がブロック種別を判別できた。
・異種二列敷設に関しては、その線状ブロック部分だけを踏んだ場合に、ただの線状ブロックであるとの誤認を生じる可能性が憂慮される。しかしながら、点状ブロックに線状突起を1本または2本のみ付加する方式では、仮に線状突起部分だけを踏んだとしても、それを線状ブロックであると誤認するとは考えにくい。
・点状ブロックに線状突起を付加することの副次的効果として、実質的なブロック幅拡張によってブロック検知性の向上が期待できる。
・線状突起の付加によるブロック自体の検知性向上と、ホーム内外方の検知性向上の双方が満足されるのであれば、既設駅のブロック幅に線状突起を加えたケースが実験検討の基本条件となる。
・但し、点状ブロックに付加する線状突起の形状(長さ、幅、高さ等)や、点状ブロックと線状突起との間隔等については、それ自体が重要な要因となると考えられるため、十分な検討が必要である。
 
 これを受けて、本検討は線状突起を付加した点状ブロック(以下、混合ブロック)の実現可能性を検証することを目的とした。この目的のもとに、付加する線状突起の本数や、付加する線状突起と点状突起との間隔が異なる数種類の混合ブロックを数種類試作し、それらを用いて内外方のわかりやすさと誤認の起こりにくさの両面から混合ブロックの有効性を検証し、また、混合ブロックの最適形状を特定した。本章ではその検討について報告する。
 なお、他章においては、付加する線状突起に「内方線」という名称を用いた。しかし、以下の検討においては、付加する線状突起を点状突起より内側に位置させることが適当か否かについても検討を行ったため、「内方線」という語は用いず、代わりに「識別線」という名称を用いることにする。
 
3.2 混合ブロックの試作
 
3.2.1 混合ブロックの要件
 試作に先立ち、混合ブロックが満たすべき要件を、ブロックの区別のしやすさ、既存ルールとの整合性、普及のさせやすさの3つの観点で整理した。
 
3.2.1.1 ブロックの区別のしやすさ
 万一、混合ブロックを他のブロックと誤認してしまうと、ホーム縁端の近くにいることを認識できない恐れがある。また、万一、識別線のついている側を誤認してしまうと、ホーム内外方を逆に認識してしまう恐れがある。そのため、ブロック種別と内外方の両面で、弁別のしやすさが十分であることが混合ブロックの必須条件であると考えた。
 なお、平成12年度の検討結果5)から、利用者がブロックを踏んだ瞬間に点状ブロックと線状ブロックを区別することは難しいが、立ち止まって白杖や足で探索すれば、利用者はブロック種別の区別が出来ることが明らかになった。そこで、本検討においても、立ち止まって探る状況を前提にすることとした。
(1)識別線の本数および間隔
 ブロック種別と内外方のわかりやすさを確保するためには、識別線の本数および間隔(識別線と点状突起との間隔、および、識別線どうしの間隔)が特に重要であると考えられるため、識別線の本数と間隔を異ならせたブロックを数種類試作することにした。
(2)識別線の形状
 同様に、ブロック種別と内外方の区別のしやすさを確保するためには、識別線の形状も重要であると考えられる。これについては、JIS T 9251規格6)で規定された線状ブロックの線状突起が必要条件を満たしていると考えられるため、これに準拠することにした。
 
3.2.1.2 既存ルールとの整合性
 混合ブロックが全国に普及する過渡期において、混合ブロックの既設駅と未設駅が混在することは避けられず、また、混合ブロックを知らない利用者が存在することも避けられない。このような事態においても利用者が混乱することなくブロックを使用できるために、混合ブロックは、敷設と形状の両面において、既存ルールと整合がとれたものである必要がある。
(1)敷設の整合性
 現行のガイドライン1)で基本的敷設方法として示されている敷設ルールは、ホーム縁端から80cm以上離れた場所に幅30cmもくしは40cmの点状ブロックを連続して敷設することである。したがって、混合ブロックについても、ホーム縁端からの距離を80cm以上に確保することが必要であり、また、点状突起部分の幅が30cm以上であることが必要と考えた。
(2)形状の整合性
 点状ブロックの突起の形状や配列はJIS T 9251規格6)によって規定されるため、混合ブロックについても、点状突起の形状と配列は同規格に準拠する必要があると考えた。
 
3.2.1.3 普及のさせやすさ
(1)ブロック幅の制限
 島式ホームにおいて両側の縁端にブロックを敷設するためには、ブロックを跨がないために必要な幅を30cmとすると、ブロック幅が30cmの場合で最低250cm、ブロック幅が40cmの場合で最低270cmのホーム幅が必要であり(図3.1)、ブロック幅が更に広くなると更に広いホーム幅が必要となる。ホームの幅がこの必要幅に満たない場合にはブロックを敷設すること自体が不可能となってしまう。しかし、利用者の安全性確保の観点では、むしろ、幅の狭いホームにおいてこそ混合ブロックの必要性が高い。そのため、ホーム幅が狭い場合においてもブロックが敷設できるために、混合ブロックの幅が広くなり過ぎないように留意することとした。
 
図3.1 ブロック敷設に必要なホームの最小幅
 
図3.2 追加敷設を考慮した部品の例
 
(2)施工の容易性
 視覚障害者誘導用ブロックは既に全国に広く普及しており、首都圏においてはほぼ100%の駅で敷設されている。そのため、ホーム縁端部に点状ブロックが既設の場合には、その点状ブロックを活かしたまま識別線のみを後付けすることが可能であると、混合ブロックの普及を促進する上で有利である。
 追加敷設に際しては、例えば図3.2に示したような部品を添付することが考えられるが、識別線の両側の余白部分を等しくしておくと、施工時に部品の向きを誤ることを未然に防ぐことができる。そのため、試作するブロックではこの点を考慮した。
 
3.2.2 混合ブロックの設計
 視覚障害者による評価・選定実験(3.3)を行う前提で上記の要件を検討した結果、混合ブロックのプロトタイプとして5種類のブロックを考案した。要点は以下の通りである(表3.1)。
(1)30cm四方または40cm四方の点状ブロックに1本または2本の識別線を加えた構成とした。但し、次節(3.3)で述べる実験の試行数との関係から、試作するものは30cm四方の点状ブロックをベースにした場合のみとした。
(2)点状突起の形状と配置はJIS規格6)の点状ブロックに準じた。
(3)識別線の形状はJIS規格6)の線状ブロックの線状突起に準じた。
(4)識別線と点状突起の中心間間隔(以下、線−点間隔)は次の3条件とした。
・最狭条件はJIS規格6)の線状ブロックにおける線状突起間の間隔に準じた(混合ブロックA)。
・最広条件は“女性用の小さい靴であっても突起が靴に触れる間隔”を意図した。具体的には、平成12年度の検討5)の被験者にみられた靴幅の最小値が8.0cmであり、このデータは日本人の成人女性の足幅(足軸直交)の分布7))からみて妥当であると考えられたことから、識別線と点状突起の間の基盤部分の長さが約8cmとなるように設定した(混合ブロックC)。
・混合ブロックAと混合ブロックCの中間条件として、混合ブロックBを設けた。
(5)ブロック全体の幅が大きくなりすぎないことに配慮して、識別線が2本である場合の線−点間隔は、(4)の最狭条件に等しいもののみとした。
(6)識別線が2本である場合の識別線間の中心間間隔(以後、線−線間隔)は次の2条件とした。
・JIS規格6)の点状ブロックの点状突起間の間隔に準じる条件を混合ブロックDとした。
・JIS規格6)の線状ブロックの線状突起間の間隔に準じる条件を混合ブロックEとした。
(7)後付け部品を作成する際に、識別線の両側の余白が等しくなるようにした。
 
表3.1 試作した混合ブロックの特徴
名称 識別線の数(本) 線−点間隔(mm) 線−線間隔(mm)
混合ブロックA 1 75 -
混合ブロックB 90
混合ブロックC 105
混合ブロックD 2 75 60
混合ブロックE 75 75
 
 以上の点を踏まえて試作した混合ブロックの設計図を図3.3〜図3.7に示す。







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