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2 島式ホームにおけるホーム縁端警告ブロック敷設間隔の下限値
 
2.1 目的
 島式ホームの両側の縁端部に敷設されたホーム縁端警告ブロックが、確かに両縁端に1列ずつあるとわかる最短間隔を明らかにする。得られたデータは、島式ホームにおけるブロック敷設間隔の下限値をガイドラインに明記するための資料とする。
 
2.2 方法
2.2.1 実施時期
 実施期間は、平成14年7月18日から8月8日の間の休日を含む22日であった。
 
2.2.2 実施場所
 供用中の駅ホームに、実験内容に合わせてブロックを敷設することは、被験者と他の一般利用者の安全を考慮すると極めて困難である。よって、財団法人鉄道総合技術研究所国立(くにたち)研究所の敷地内に設けられた実験場を使用した。
 
2.2.3 被験者
 視覚障害者35人の協力を得た。協力者のうち34人は、これまでに鉄道総研が東京で実施した調査や実験に参加した人の中から無作為に抽出した人であり、残りの1人は34人のうちの1人から紹介された人であった。男性が21人、女性が14人、年齢の範囲は25歳〜68歳であった。自己申告による視力(左右で異なる場合は視力の高いほうを採用)は、全盲が25人、光覚弁が8人、指数弁が2人であった。その他の主な特性を以下の表2.1から表2.3に示す。なお、実験参加を依頼する段階では、最近の歩行状況や鉄道利用状況について確認しなかったので、結果的に、最近は単独歩行頻度が少なくほとんど鉄道を利用しない人が1人、決まった通勤経路以外は介助者と一緒に歩く人が1人含まれた。
 
表2.1 被験者の性別と年齢構成(人)
 
表2.2 被験者が現在の視力になった時期と現在の視力になってからの年数(人)
現在の視力になった年齢の区分は、「視覚障害者誘導用ブロックに関する標準基盤研究報告書(2000)」5)の分類に従った。
 
表2.3 被験者の鉄道利用頻度と単独歩行経験年数(人)
 
2.2.4 使用したブロック
 ホーム縁端警告ブロックおよび平板ブロックはコンクリート製のものを使用した。ホーム縁端警告ブロックは、平成13年度に実施された検討結果に基づいて決定された形状(第3章参照6-8)とした。
 
2.2.5 実験方法
 被験者に課せられた課題は、電車の床面を想定した高さ60mmの台の上から島式ホームの床面を想定した実験場に降りて直進し、台から900mm先に敷設された1列目のホーム縁端警告ブロックを通過し、さらにそこから特定の距離をもって敷設された2列目のホーム縁端警告ブロックを検知したら停止するというものであった。
 
図2.1 実験場概要(1条件分)
 
 事前に狭い島式ホームに降りることを被験者に十分に説明して理解させ、実際に転落する場合もあるので注意して歩くように指示した。課題遂行時の歩き方は、白杖を利用した日常的な駅利用場面と同じ歩き方として、歩く速度を緩めたり、一時停止することも認めた。なお、今回の実験では、後退することは認めなかった。
 ホーム縁端警告ブロックの敷設間隔の条件は、内方線の中心から中心までの距離(図2.2参照)が200mm、300mm、400mm、500mm、600mmとなる5条件(以下、ピッチのPを頭文字として、P200、P300、P400、P500、P600と表記する)とした。また、図2.3に示すように点状ブロックが1列分だけ敷設されている「止まらなくてよい」条件も設けた。これについては、300mm幅の点状ブロック1列のものと300mm幅の点状ブロックを2列並べて600mmの幅としたもの(以下、W300、W600と表記する)を設けた。
 
図2.2 ブロックの敷設間隔
 
図2.3 止まらなくても良い条件のブロック敷設状況(点状ブロックの幅600mm)
 
 なお、実験場にブロックを配置する際は、施工の不具合が実験に及ぼす影響を排除するために、実験場における各ブロックの高低差が2mm以下となるように配置した。
 被験者は、5種類の敷設間隔の条件をそれぞれ3回、1列の条件をそれぞれ2回試行した。試行順はランダムとしたが、同じ間隔条件が3回連続しない、1番最初の試行が1列の条件にならないという2つの制限を設けた。
 
(拡大画面:236KB)
図2.4 実験場全体図
 
2.3 結果
2.3.1 各間隔条件の総試行回数あたりの停止回数
 1種類の間隔条件を35人が3回ずつ試行したので、1種類の間隔条件あたり105回の試行があった。
 105回あたりの停止率は、P200が74.3%(停止78回)、P300が80.0%(停止84回)、P400が92.4%(停止97回)、P500が94.3%(停止99回)、P600が99.0%(停止104回)であった。
 
図2.5 各間隔条件における試行105回あたりの停止率
 
2.3.2 各間隔条件における試行3回あたりの通過回数
 停止しなかった試行には、1人の被験者が3回のうち1回通過したもの、2回通過したもの、3回通過したものが混在している。試行3回あたりの通過回数を整理した。
 
表2.4 各間隔条件における試行3回あたりの通過回数ごとの人数(人)
 
 さらに詳しくみると、例えば、「P200で3回停止しているが、P300で1回だけ通過している」というように、間隔条件と停止回数の関係が論理的に逆転している場合がある。逆転ケースの内訳を以下に示す。
 
表2.5 間隔条件と停止回数の関係が論理的に逆転しているケースの内訳
状況 人数
P300で1回通過しているが P200で3回停止している 2
P300で2回通過しているが P200で3回停止している 1
P400で1回通過しているが P300で3回停止している 2
P500で1回通過しているが P400で3回停止している 4
P600で1回通過しているが P500で3回停止している 1
 
2.3.3 判断に迷った状態での通過
 停止すべき試番で通過してしまったものの中には、2列あるかもしれないと思ったにもかかわらず進んでしまったものが含まれていた。被験者のコメントの中には、実環境では後戻りをして確認するというものも含まれていたことから考えると、迷った状態で通過してしまった試行のうちのいくつかは、実環境であれば停止していたかもしれない。一方、迷いながらブロックを探索しているうちに転落することも考えられるので、迷ったケースが必ずしも停止につながるとは考えられない。参考データとして判断に迷って進んだ試行の内容を以下に示す。
 
表2.6 判断に迷った状態で通過した試行の内容
条件 被験者No. 内容
P200 02 1番線ブロックより前方に何かを左足裏で感じたが確信がもてなくて止まらなかった。
P200 06 1番線のすぐ後に2番線があったような気がしたが(杖と足でブロックの敷設幅が長いように感じた)自信がないので通過した。
P200 13 2番線かなと思ったが確信は持てなかったので進んだ。
P200 21 2番がない。なんとなくあった気もして不安。
P200 27 2番を踏んだ気がするが確信できなかった。
P200 27 線と点らしきものを踏んだ。それが近かったのでどうかなと思い進んだ。
P200 29 止まらなかったが1番の幅の広いブロックかとも思った。間隔を感じるごとができなかったので2番ブロックだとは思ったけど止まらなかった。
P200 33 1番はわかったが2番はわからなかった。1番だけにしては心持ち幅が広いと思ったが、はっきりしなかった。
P300 04 2番線を過ぎてから分かった。ブロックの幅があったとも思った。
P300 09 2番線がなかった。あったかなという気もする。
P300 22 2番であるとしっかり確認できないが何かあったと思う。1番の後か続きかわからなくて止まらなかった。
P300 29 2番かとも思ったが歩き続けた。
P300 30 点がつながっている感じで1列のように思った。2番の線は感じ方が弱かった。
P400 09 2番線がなかった。あったかなとも思った。
P400 21 2番がない。2列あったようにも思う。
P400 28 2つ目が出てこなかった。1番が少し幅が広いと思った。
P500 15 2番線のブロックが見つからなかった。1番のブロックを踏んだ後、1歩踏み出して何かあったがそのまま進んだ。
 
2.4 結論
 向かい合うホーム縁端警告ブロックの内方線の中心から中心までの距離を600mm以上確保すれば、向かい合うホーム縁端警告ブロックが1列ずつあることをほぼ確実に検知できる。
 新たに島式ホームを設ける場合はできる限り2920mm以上のホーム幅を確保するのが理想である。ホーム幅2920mmは、ホーム縁端からホーム縁端警告ブロックの線路側のへりまでを800mmとした場合である。なお、ホーム縁端警告ブロックの線路側のへりから内方線の中心までは360mmである。
 
 向かい合うホーム縁端警告ブロックの内方線の中心から中心までの距離が400mmの条件では、300mmの条件よりも2列のホーム縁端警告ブロックが敷設されていることに気づいて停止する率が大きく向上し、その率は90%を超えた。また、各試行における被験者のコメントや間隔条件と停止回数の関係が逆転しているケースの内容などを考慮すると、400mmを採用することは、実用上、妥当であると考えられる。
 よって、やむを得ず前記の2920mmのホーム幅をすることができない島式ホームでは、向かい合って敷設されるホーム縁端警告ブロックの内方線の中心から中心までの距離を400mm以上確保すべきである。なお、この場合のホーム幅は2720mmとなる。
 
 島式ホームで2720mmのホーム幅を確保できない場所では、既存の点状ブロックで対応することにより現在の安全水準を維持すべきである。
 なお、当該箇所にはホーム縁端警告ブロックを敷設しない。その理由は、ブロックが敷設されていない領域が減少することによって2列のホーム縁端警告ブロックを検出できる率が低下することや、内方線の近接によって線状ブロックと誤認する可能性が考えられることなど、ブロックの性能が十分に確保できず安全が担保されないためである。
 
 今回の実験では、被験者は狭い島式ホームに降りることを十分に理解している状態で行動した。実際の利用場面では、必ずしもホームの形状を十分に理解して行動しているとは限らない。より高い安全性を確保するためには、利用者がホームの形状を知ることができるように、適切に情報提供することが望まれる。







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