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第1章 研究の目的
 
 鉄道駅のホームに敷設されている視覚障害者誘導用ブロック(誘導・警告ブロック、以下、ブロック)注)は、視覚障害者のホームからの転落を防ぐ重要な意味を持っている。これまで、鉄道事業者は「公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者のための施設整備ガイドライン(昭和58年策定、平成6年改訂)」1)に基づいてブロックを整備してきたが、平成12年に「交通バリアフリー法(高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律)」とそれに基づく移動円滑化基準が施行されたことで、この種の施設整備に法的拘束力が課されることとなった。また、前記のガイドラインをより実効的なものとするための抜本改訂作業も行われ、平成13年には「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」が制定された2)。しかしながら、ブロックの敷設方法の詳細についてみると、鉄道駅の持つ多様性と特殊性ゆえに、ホームの状況に応じて様々な措置がとられているのが実状であり、敷設方法の一元化が求められている3,4)
 ブロックの突起形状等については、ISO/TC173/SC4国内対策委員会(事務局:日本リハビリテーション工学協会)や、通産省製品評価技術センター(現・経済産業省、以下同)などを中心に審議・検討が行われ5,6)、平成13年にはブロックの突起形状等のJIS規格化も行われた7,8)。しかしながら、標準化に関わる議論では、ブロック単体の突起に係るパターンに関する検討が主な課題であり、公共施設等への具体的な敷設方法が明記されているわけではない。
 こうした状況を踏まえ、本研究では平成12年度に引き続き、鉄道駅ホーム上のブロックの敷設方法に関わる現状の問題点を明らかにするとともに、効果的な敷設方法についての改善策を提案することにより、視覚障害者の駅ホームからの転落事故防止効果の一層の向上に資することを目的とする。
 
注)鉄道分野では、旧運輸省のガイドライン1)に従い、誘導ブロック、警告ブロックの名称を主に用いてきた。交通バリアフリー法の省令である「移動円滑化基準」において、前者は線状ブロック、後者は点状ブロックと定義され、これらの総称として、視覚障害者誘導用ブロックが定義されている。また、JIS規格(JIS T9251)8)の「解説」においても線状ブロック、点状ブロック、及び視覚障害者誘導用ブロックの語が用いられている。本報告書では、原則として交通バリアフリー法、及びJISに合わせた表現を採用するものの、平成12年度までの検討内容、議事録、引用文献等に言及する場合には、誘導・警告ブロックの語を用いることがある。特に注釈のない限り、
線状ブロック=誘導ブロック
点状ブロック=警告ブロック
と理解されたい。
 
文献
1)運輸省:公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者のための施設整備ガイドライン, 1994.
2)交通エコロジー・モビリティ財団:公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン, 交通エコロジー・モビリティ財団, 2001.
3)財団法人鉄道総合技術研究所:誘導・警告ブロックに関する調査研究, 2000.
4)交通エコロジー・モビリティ財団:視覚障害者用誘導・警告ブロックに関する研究報告書, 交通エコロジー・モビリティ財団, 2001.
5)通商産業省製品評価技術センター:視覚障害者誘導用ブロックに関する標準基盤研究報告書―パターンの標準化を目指して(パターン単体と認知のしやすさの関係についての研究)―, 通商産業省, 1998.
6)通商産業省製品評価技術センター:視覚障害者誘導用ブロックに関する標準基盤研究最終報告書―パターンの標準化を目指して, 通商産業省, 2000.
7)日本規格協会:視覚障害者誘導用ブロックのパターンの触覚による識別率及び難易度の推定方法, TR-T0006:1999, 日本規格協会, 1999.
8)日本規格協会:視覚障害者誘導用ブロック等の突起の形状・寸法およびその配列, JIST9251, 日本規格協会, 2001.
 
第2章 調査研究計画
 
 本章では、調査研究の年度別計画を示すとともに、報告書の各章の構成について述べる。
 
2.1 年度別実施計画(案)
 
●平成12年度
(1)検討項目の整理
 転落事例に関わる調査報告や、誘導・警告ブロックに関わる既存の研究報告等をもとに、本研究で検討すべき項目を整理し、実験等の実施計画案を策定する。
(2)警告ブロック敷設幅拡張効果に関する実験検討
 ホーム縁端部に敷設された警告ブロックの幅を拡張することが、視覚障害者にとっての検知性を高め、ひいては転落防止に資することが期待されるかどうかを検討するために、様々な幅の警告ブロックを模擬空間上に敷設して、視覚障害者を対象とした評価実験を実施する。
(3)次年度の研究計画案の策定と報告書の作成
 次年度の研究計画案を策定するとともに、当該年度の研究成果を総括・評価し、報告書にまとめる(交通エコロジー・モビリティ財団:視覚障害者用誘導・警告ブロックに関する研究報告書,平成13年2月)。
 
●平成13年度
(1)ホーム内外方の検知策に関する実験検討
 現在の敷設方式に対しては、ブロックのどちら側がホーム縁端(もしくは内方)かがわからないという問題点の指摘がある。このため、ホームの内外方を区別しうるブロックの開発を行うべく、従来の点状ブロックにホーム内方側を表す線状突起(内方線)を付加した混合ブロックを試作し、その有効性を実験で検討する。
(2)その他、駅ホーム上のブロック敷設方法の一元化に向けた検討
 柱などによってホーム縁端部への警告ブロックの直線的敷設が困難な場所や、ホーム端の狭隘部など、ブロック敷設方法に関わるガイドラインの一元化に向けた調査・実験を行い、検討する。
(3)最終報告書の作成
 2年間の調査研究で得られた成果のまとめを行う。
 
 上記の項目の実施時期をおおまかに示したものを以下に示す。
 
◆平成12年度実施計画
 
◆平成13年度実施計画
 
2.2 「誘導・警告ブロック改善検討会」について
 
 本研究を推進するために「誘導・警告ブロック改善検討会」を設置した。設置期間は平成12〜13年度の2年間とし、開催頻度は年2〜4回程度とした。なお、13年度終了時に新たに平成14年度上半期の期間延長を決定した。
 委員会の構成メンバーを下記に示す(肩書は平成14年10月現在)。
 
  委員長
末田統
徳島大学大学院工学研究科教授
  委員
田内雅規
岡山県立大学教授
 
加藤俊和
社会福祉法人日本ライトハウス技術顧問
 
笹川吉彦
社会福祉法人日本盲人会連合会長
 
田中徹二
社会福祉法人日本点字図書館理事長
 
有山伸司
東日本旅客鉄道株式会社設備部旅客設備課長(平成14年度1回まで)
 
山本浩二
東日本旅客鉄道株式会社設備部旅客設備課長(平成14年度2回から)
 
清水春樹
東武鉄道株式会社工務部施設課長
 
荒川達夫
東京都交通局建設工務部建築課長
 
四ノ宮章
財団法人鉄道総合技術研究所人間科学研究部長
 なお、平成13年度は委員会を4回開催した。各会の議事概要を巻末「資料編1」に示す。また、平成14年度は委員会を2回開催した。各会の議事概要を巻末「資料編6-1」に示す。
 
○平成13年度第1回誘導・警告ブロック改善検討会(平成13年4月27日)
 平成13年度の研究の進め方について審議した。主な話題は、ホーム内外方の検知方策に関する実験検討の具体的進め方と、駅ホームヘのブロック敷設方法の一元化に向けた課題の整理であった。
○平成13年度第2回誘導・警告ブロック改善検討会(平成13年7月6日)
 ホーム内外方の検知性向上を図るために考案された混合ブロック(点状ブロックのホーム内方側に線状突起を付加したもの)の最適形状選定試験の実施方法を審議するとともに、柱などによってブロックの連続敷設が困難な場所へのブロック敷設方法の一元化案を審議した。
○平成13年度第3回誘導・警告ブロック改善検討会(平成13年11月2日)
 平成13年10月に実施した混合ブロック形状選定試験結果について審議し、最適ブロック形状を選定するとともに、最終報告書の作成に向けた確認実験の実施方法を審議した。
○平成13年度第4回誘導・警告ブロック改善検討会(平成14年2月6日)
 平成14年1月に実施された確認実験の結果概要を審議するとともに、最終報告書の方向付けを整理した。
 
2.3 報告書の構成
 
 報告書は本編(全7章および付章)と資料編(1〜6)に分かれている。
 本編の第1章では本研究の目的、第2章では調査研究計画(案)の概要について述べた。次の第3章では、駅ホームの内外方情報を付加した点状ブロック(混合ブロック)の形状を選定するために実施した実験について述べる。また、第4章では駅ホーム上のブロック敷設方法の一元化に向けた検討事項の整理を行い、第3、4章で行われた提案の有効性を確認するために実施した実験(最終確認実験)の概要を第5章で述べる。その上で、第6章では混合ブロックを実際に敷設する上での留意点等を整理したガイドラインを提案する。最後の第7章では研究全体のまとめを行う。付章では、7章までの検討結果によって示された追加検討すべき課題に関する検討結果を示す。
 一方、資料編には、委員会での議事録、上記の各実験の補足資料、本研究に関わる参考文献(視覚障害者の駅利用実態に関わるヒアリング調査の結果)、および本研究に関わる既発表文献を添付した。資料編1から資料編5が平成13年度の実施事項であり、付章に関連するものは資料編6にまとめた。







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