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2 各散布法による分散性能の比較
(1)原油に対する自己攪拌型分散剤と通常型分散剤の分散性能
 試験結果を表−VI.5.1〜2及び図−VI.5.1〜4に示す。
 なお、表中の網掛け欄は、消防ポンプ(エジェクターの性能範囲外)では散布不能であるが、分散性能を把握するため参考として実験を実施した。
イ. 自己攪拌型分散剤
 散布法による分散性能では、当然のことながら、予め混合法(室内実験の試験法で実海域では出来ない方法)が最も高く、次に原液散布、希釈散布の順となる。
 図−VI.5.2に示す希釈散布法では、希釈率2〜4%の範囲が分散性能が高く、その他の希釈率(0.5、1.0、1.5%及び6.0、8.0%)では、分散率が低い結果となっている。
 このことは、希釈率2%以下では分散剤の量が少ないことが要因として挙げられ、また、希釈率6.0%以上になると分液ロート内の海水量が少なく、界面活性剤が相互に作用し合うミセル現象によって分散性能が低下するものと考えられる。
 海水希釈率による分散性能の順位は、2.0%>4.0%>1.0%=1.5%>6.0%=8.0%>0.5%である。
ロ. 通常型分散剤
 散布法による分散性能は、自己攪拌型分散剤と同様に、予め混合>原液散布>海水希釈の順である。分散性能を散布率20%で比較すると、予め混合を100として原液散布は65%、海水希釈はほぼ34%となる。
 また、原液散布を100とした場合の海水希釈の分散性能は52%となり、海水希釈による分散剤の性能を著しく低下することがわかった。
 図−VI.5.4に示す海水希釈の分散性能は散布率が一定であれば、希釈率3%以上では分散率がほぼ同値となる。この場合の分散率は散布率が高くなる程高い性能を示すが、原液散布と比較すると上述したように半分(散布率20%)程度で分散率は13%以下となり効率の悪い散布方法であることがわかる。
(2)C重油に対する自己攪拌型分散剤と通常型分散剤の分散性能
 試験結果を表−VI.5.3〜4及び図−VI.5.5〜8に示す。
 なお、試験は消防ポンプの能力範囲であるエジェクターの吸引率2〜6%とした。
イ. 自己攪拌型分散剤
 散布法による分散性能は、予め混合>原液散布>海水希釈の順である。散布率5%の分散率は、予め混合を100とすると原液散布は82%、海水希釈は7.5%〜52%の範囲となり分散性能の低下が著しい。
 図−VI.5.6に示す希釈散布法では、希釈率3%、散布率が5%、6%及び分散率25%弱で最大値を示した。
 
ロ. 通常型分散剤
 散布法による分散性能は、自己攪拌型分散剤と同様に、予め混合>原液散布>海水希釈の順である。予め混合の分散率は本試験範囲では21.8%で自己攪拌型分散剤と比べ半分以下の分散性能である。
 また、散布率5%の各散布法の分散率は予め混合が18.3%、原液散布12.2%、海水希釈は希釈率3%が最大の7.7%で、通常型分散剤は高い散布率(20%以上)の製品であることが分る。
 図−VI.5.8の海水希釈率では、3%>2%>4≒5≒6%の順で、散布率が高い程、分散率はよい結果となっている。
(3)自己攪拌型と通常型分散剤との分散性能比較
イ. 原油の場合
 原液散布法の分散性能は、自己攪拌型が散布率4%、通常型が散布率20%で、それぞれ26.3%及び24.8%でほぼ同値であるが、自己攪拌型が高い結果が得られた。
 また、海水希釈法では、エジェクターの性能範囲(2%〜6%)で比較すると、自己攪拌型が希釈率2.0%及び4.0%で分散率が18.6%及び16.2%、通常型の希釈率3.0%及び5.0%で12.8%及び13%の分散性能を示した。
 性能値で比較すると通常型は自己攪拌型の約70%程度であるが、散布量は表−VI.2.2に示すとおり、自己攪拌型と比較すると5倍となる。
 現実的には、油層面上に大量の希釈水の散布となり、油層面が乱され実験室実験の閉鎖された容量の性能値と比べ、大幅に低下することが予想される。
ロ. C重油の場合
 原液散布法の分散性能は両分散剤とも散布率6%で自己攪拌型が44.6%、通常型は15.5%でほぼ3倍弱、自己攪拌型が高く散布量が少量で効果が高いことがわかった。また、海水希釈法では両分散剤とも希釈率3%が高い分散性能値を示す。自己攪拌型は原液散布(6%)の分散性能(44.6%)のほぼ半分の値である。
 通常型は原液散布(6%)で分散性能(15.5%)の約60%弱の分散性能を示し、どの海水希釈率も10%以下である。
 
VI−5 まとめ
 自己攪拌型分散剤の効果的な使用方法について、種々調査した結果を纏めると次のとおりである。
 
(1)自己攪拌型分散剤と流出油との合性(流出油に含まれる界面活性物質との合性)を油分散剤簡易試験キット(平成11年度製作)を用いて調査し、分散剤の散布量を決定する。
 本調査研究の範囲では、原油で2%〜3%、C重油では粘度、風化状態によるが、3%〜8%程度の分散剤の散布量となり、通常型と比べ散布量が1/6〜1/4程度少なくなり、海洋に優しい分散剤であると言える。
(2)上項の結果、自己攪拌型は散布量が通常型と比較して格段に少量で防除措置が出来ることから、航空機による防除作業について、次の効果が見込まれる。
イ. 分散剤の散布面積が数倍広くなる
ロ. 防除作業時間が大幅に短縮出来る
ハ. 自己攪拌型分散剤の散布後の人為的攪拌が不要になる
ニ. 航空機の補給(分散剤の搭載、燃料)等の回数が軽減される
等多くの利点がある。更に後方支援活動の軽減も期待される。
 このことから、航空機用(ヘリコプター)散布装置について調査検討(IIIIV及びV章参照)し、航空機用散布装置に関する知見を得た。
(3)分散剤の散布方法である原液散布法及び海水希釈法の分散性能について、定量的に求める実験室規模の試験方法を確立した。
 この両散布法の分散性能を要約すると次のとおりである。
イ. 原液散布法と海水希釈法との分散性能を比較すると、原液散布法がはるかに高い分散性能を示した。
ロ. 海水希釈法は、分散剤が海水と接触すると、分散剤中の溶剤(炭化水素系)が界面活性剤の親油基に包まれ、外側は親水基が並び(混合水は白濁となる)油との接触が断たれ分散性能が極端に低下する。
 なお、海水希釈の試験法では、攪拌時間(振とう時間)が3分間と長いこと、また、振とう回数が120回/分と攪拌力が強く、強力に油と界面活性剤との接触を図っていることから、室内規模の試験法では実海域と比べ、高い性能値が得られ、過大評価になる欠点がある。
 以上の結果から、分散剤の散布は、自己攪拌型及び通常型とも海水希釈による防除措置は分散性能面から有効な方法とは言い難く、今後、海水希釈散布方法を採用しないよう啓蒙する必要がある。
(4)原液散布法は、分散剤液を粒状にして滴下する。流出油の油層厚さが0.5mm以上で粒径が500μm前後で散布すると、高い分散性能が得られる(III章―参照)。また、(1)項で述べたように流出油の特性から適性な散布量があり、粒径及び散布速度を調節し得る散布装置を必要とする。
 このことから、船舶用散布装置として平成13年度に自己攪拌型分散剤の試作機SAS−1型を改良のすえ開発した。(V章参照
 この散布装置は計量でコンパクトに収納ができ、1人で持ち運びが可能なこと。また、散布マニュアルとして油膜厚さ−散布圧力−船速等のチャートにより誰でも適正な散布量を導き出すことができるよう配慮した。
(5)流出油現場では、分散剤液を柄杓等で油面に散布している光景が見られるが、分散剤は油面にソフトに着地させ、油層中に浸透させることが必要である。このため、柄杓等で散布する方法では、流出油との接触時間が短く、油層中を通過するだけで分散効果が低い。
 このことから(4)項で述べたように、粒径散布方式を周知する必要がある。
 
 以上、自己攪拌型油分散剤の効果的な使用方法について種々調査検討し、上述の成果を得ることができた。
 しかしながら、未だ実績が少なく効果についての情報がないのが現状である。
 今後、使用に際しての問題点あるいはユーザーの提案等を収集し、更なる改良をする予定である。







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