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III 航空機用自己攪拌型油分散剤散布装置に関する調査研究
III−1 航空機用農薬散布装置に関する試験
1 趣旨
 農薬散布に使用されるヘリコプターの散布装置を若干改造することにより同装置を使用して油分散剤が散布できれば、現有の農薬散布用ヘリコプターが、短時間に効率的に油防除作業に活用できる。
 そこで、農薬散布に使用されるヘリコプターが農薬散布装置を使用して油分散剤を散布した場合に海面上の油を効率的に処理することが出来る散布装置のノズル口径、散布粒径等の散布諸元を調査し、散布ヘリコプターの飛行高度、飛行速度を決定する基礎資料を得ることとした。
 
2 試験に使用する農薬散布装置
 当センターが昭和58年度に実施した「油処理剤の空中散布に関する調査研究」時のデータとの比較検討が可能な様に、昭和58年度当時に使用した農薬散布装置である「Simplex4900」をSimplex社の日本の代理店である三徳航空電装(株)から購入し、試験に使用することとした。
 
3 散布試験の際に考慮すべき事項
 文献調査等から油分散剤の空中散布時に考慮すべき事項として以下の事項が挙げられる。
 
(1)液滴の大きさ
 油分散剤の場合、風に飛ばされて油層に到達しないほど小さくてはならず、油層を通過して沈んでしまうほど大きくてはならないことが要求される。
 諸外国の実施した実験結果によれば、空中から散布する場合は、風による流失、蒸発による逸失を抑えるためノズル噴射によって得られる粒径は、600〜900μm(小雨〜中程度の雨の水滴の粒径)の大粒径が要求される。
 
(2)粘度と散布高さ(飛行高度)
〔1〕低高度散布
 飛行高度に相当する散布高さは、文献調査によると最低5メートルであり、大型固定翼機による「メキシコ石油イクストックI油井流出油に対する分散剤の空中散布」時でも15メートルの低高度である。
〔2〕粘度による散布高度
 粘度が30〜60センチストークスの油分散剤は、ヘリコプターを使って30フィート(9メートル)の高さから散布することが出来るとされている。また、粘度が60センチストークスを超える油分散剤の散布する際の推奨高度は、わずか50フィート(15.2メートル)であるとされている。
〔3〕S−7のヘリコプターからの散布高さ
 前記から自己攪拌型油分散剤であるS−7(25±15cST)を散布するときの飛行高度は、5〜9メートルと言える。
(3)ノズル
 ノズルの選択と使用するノズル数は、ヘリコプター散布システムの最適化のための特に重要なファクターである。
 
4 基礎性能試験の条件及び計測項目
 前記調査結果から以下の条件で基礎性能試験をすることとした。
(1)散布高さ
 散布高さを5〜9メートルにて実施する。
(2)ノズルの種類、個数等
 ノズルの種類、個数を変えてノズル位置と間隔の最適化を調査することとした。
(3)液滴の大きさ
 ノズル噴射によって得られる粒径が、「600〜900μm(小雨〜中程度の雨の水滴の粒径)の大粒径であること。」を確認することとした。なお、試験は水及び自己攪拌型油分散剤の2種とした。
(4)散布圧力
 (3)項の液滴の大きさは、散布圧力、液体の粘度及びノズルの形状(大きさ)によって定まる。このことから散布圧力は、可能な範囲で数種変化させて調査することとした。
(5)計測項目
 計測項目は各ノズルとも次のとおりである。
 吐出圧−吐出流量
 吐出圧−散布高さ−散布幅
 吐出圧−粒径
 
III−2 基礎性能試験の実施
1 試験日
・予備試験
 平成14年9月13日
・本試験
 平成14年11月11日〜14日
 
2 試験場所
・山口県下関市武久町2丁目18−14
 株式会社 カネヤス内施設
 
3 航空機用自己攪拌型油分散剤散布装置に関する性能試験
 以下の試験に使用する散布装置は、
 航空機用農薬散布装置(Simplex Model 4900)を使用した。(写真−III.2.1
 
Simplex Model 4900の緒元
散布装置名称 Simplex Model 4900
散布管(片舷)の長さ
外形
3190mm(写真−III.2.2
φ44(内径φ37mm)
ノズル取付け可能数(片舷) 20
ノズル取付け穴ピッチ 155mm
ノズル スプレーイングシステムズジャパン製:Quick Teejet
タンク容量 500L(写真−III.2.3III.2.4
ポンプ電源 28V−100A(写真−III.2.5
 
各ノズルの緒元
図−III.2.1参照
スプレーノズル 規格 吐出量(L/min):カタログ値
0.1MPa 0.2MPa 0.3MPa
ホロコーンスプレー
(空円錐型)
TD10−46 - 7.9 9.7
フルコーンスプレー
(充円錐型)
TG−SS12W 5.3 7.3 8.7
フラットスプレー
(扇型)
TP6520−SS 4.6 6.5 7.9
オリフィススプレー
(φ4mm穴)
D10 - - -
 
(1)予備散布試験(水)(写真−III.2.6
 Simplex Model 4900に採用されているホロコーンスプレーノズルで水を散布し、散布状況を確認する。
〔1〕散布管にホロコーンスプレーノズル5ヶを取付ける。
〔2〕散布管を測定点より高さ5mの位置に固定する。(タンク位置:地上高0m)
〔3〕ポンプを駆動し、水を吐出させる。
〔4〕散布管根元側に取付けた圧力計で吐出圧を0.1、0.2MPa及び最大圧に設定し、全散布幅(片舷)を測定する。
〔5〕全散布幅(片舷)の結果を基に、両舷での全散布幅を推測する。
〔6〕各吐出圧における吐出量を測定する。
 
(2)散布試験(水)
 予備試験で散布状況を確認した後手配したノズル(4種類)で水を散布し、散布状況の確認及びS−7散布に適したノズルを選定する。
 
イ. 吐出量測定
〔1〕散布管にホロコーンスプレーノズル17ヶを取付ける。
〔2〕散布管を地上高0mの位置に固定する。(タンク位置:地上高3m)
〔3〕ポンプを駆動し、水を吐出させる。
〔4〕散布管根元側に取付けた圧力計で吐出圧を0.1、0.2、0.3MPaに設定し、吐出量を測定する。
〔5〕ノズルをフルコーン・フラット・オリフィススプレーノズル17ヶに交換し、上記〔2〕〜〔4〕を実施する。
〔6〕散布管にホロコーンスプレーノズル5ヶを取付ける。
〔7〕ノズルをフルコーン・フラット・オリフィススプレーノズル5ヶに交換し、上記〔2〕〜〔4〕を実施する。
〔8〕散布管にホロコーンスプレーノズル1ヶを取付ける。
〔9〕ノズルをフルコーン・フラット・オリフィススプレーノズル1ヶに交換し、上記〔2〕〜〔4〕を実施する。
 
ロ. 実機状態(散布管・タンク同位置)での全散布幅及び吐出量測定
〔1〕散布管にホロコーンスプレーノズル17ヶを取付ける。
〔2〕散布管を測定点より高さ3mの位置に固定する。(タンク位置:地上高3m)
〔3〕ポンプを駆動し、水を吐出させる。
〔4〕散布管根元側に取付けた圧力計で吐出圧を0.1、0.2MPa及び最大圧に設定し、全散布幅を測定する。
〔5〕全散布幅(片舷)の結果を基に、両舷での全散布幅を推測する。
〔6〕各吐出圧における吐出量を測定する。
〔7〕ノズルをフルコーン・フラット・オリフィススプレーノズル17ヶに交換し、上記〔2〕〜〔6〕を実施する。
〔8〕散布管にホロコーンスプレーノズル5ヶを取付ける。
〔9〕ノズルをフルコーン・フラット・オリフィススプレーノズル5ヶに交換し、上記〔2〕〜〔6〕を実施する。
〔10〕散布管にホロコーンスプレーノズル1ヶを取付ける。
〔11〕ノズルをフルコーン・フラット・オリフィススプレーノズル1ヶに交換し、上記〔2〕〜〔6〕を実施する。
 
(3)散布試験(S−7)(写真−III.2.11図−III.2.2<S−7ノズル>参照
 4種のノズルで水を散布した結果を基にノズル1種類を選定し、S−7を散布する。
〔1〕散布管にフラットスプレーノズル1ヶを〔11〕の位置に取付ける。
〔2〕散布管を測定点より高さ3mの位置に固定する。(タンク位置:地上高3m)
〔3〕ポンプを駆動し、S−7を吐出させる。
〔4〕散布管根元側に取付けた圧力計で吐出圧を0.1、0.2MPa及び最大圧に設定し、散布幅を測定する。
〔5〕〔4〕の結果を基にノズルを〔3〕・〔20〕の位置に取付けた場合の全散布幅(片舷及び両舷)を推測する。
〔6〕各吐出圧における吐出量を測定する。
 
(4)耐油性浸漬試験
 S−7散布を想定し、性能試験に使用するノズル等のS−7(溶剤:石油系炭化水素)に対する耐油性浸漬試験を実施する。
 浸漬試験は、油分散剤S−7中にノズルの構成部品を70日間、完全に浸漬した
 この期間中適宜、部品の変化(膨張、柔軟等)を調査した。







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