日本財団 図書館


第4章 情報提供の現状と留意点
4.1  情報提供の現状(鉄道事業者に対するヒアリング調査)
 情報提供の現状を把握するため、全国の主要な鉄道事業者に対して、駅構内および車両内におけるサイン、可変式情報表示装置、音響・音声案内、案内放送、視覚障害者誘導用ブロック、点字表示、人的対応など情報提供についての現状の整備状況、利用者からの意見・課題および今後の計画等に関するヒアリング調査を実施した。
 
(1)ヒアリング調査の概要
(1)調査対象
 全国の主要な鉄道事業者27社を対象として、ヒアリングを実施した。地域別の事業者数は、以下に示すとおりである。
 
表4−1 ヒアリング対象事業者の内訳
地域 北海道・東北 関東 中部 関西 中国・四国 九州 合計
事業者数 1 11 3 8 1 3 27
 
(2)実施時期
 平成14年7月26日(金)〜平成14年8月30日(金)
 
(3)調査内容
 ヒアリングの項目及び内容は以下に示すとおりである。
 
表4−2 ヒアリングの内容
項目 ヒアリング内容
I. 情報障害者(視覚障害者・聴覚障害者など)に対する情報提供の基本的考え方について (1)情報障害者に対する情報提供の対応がどのように行われているのか。(情報内容、機器、設置状況、接遇)
(2)情報提供の方法・位置・内容などについて、仕様・基準などがあるのか。
(3)「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」に基づいて整備しているのか。
(4)主要駅だけの対応の場合、その対象を決める基準があるのか。
(5)平常時及び緊急時の情報提供について、対応方針などが定められているのか。
(6)マニュアルを作成しているかどうか。(提供して頂ける場合、ヒアリング時までにご用意頂けるか)
II. 駅構内(改札口付近、昇降施設付近、ホームなど)における情報提供の状況について
(1)サインシステムについて (1)設置しているサインの種類・位置・内容など
(2)サインの種類・内容・大きさ・位置などについて標準の仕様・基準があるのか。
(3)どのような旅客を対象として想定しているか。
(2)可変式情報表示装置について (1)設置している装置の種類・位置など
(2)どんな内容の情報を提供しているのか(平常時、車両運行などの異常時)
(3)提供する情報の内容について自由度はあるのか。(通常の情報以外の情報)
(4)装置の種類・内容・大きさ・位置などについて共通の仕様・基準があるのか。
(5)異種装置(運行管理システムなど)との連携が行われているか。
(6)どのような旅客を対象として想定しているか。
(3)点字情報について (1)設置している点字情報の種類・位置・内容など
(2)点字の種類・内容・大きさ・位置などについて標準の仕様・基準があるのか。
(4)音案内(音響案内・音声案内)について (1)実施している音案内の種類・位置・内容など
(2)案内放送では、どんな内容の情報を提供しているのか(平常時、車両運行などの異常時)
(3)音案内装置の内容・位置・ボリュームなどについて標準の仕様・基準があるのか。
(4)提供する情報の内容について自由度はあるのか。(通常の情報以外の情報)
(5)どのような旅客を対象として想定しているか。
(5)駅員による対応について (1)無人改札口における窓口対応に代わる対応方法
(2)接遇による対応方法・役割分担などは具体的に定められているのか
(3)ろうあ者対応の窓口があるか
(4)ろうあ者対応として手話、又は筆談用の器具を準備しているか
III. 車両内における情報提供の状況について (1)設置・実施している情報提供の種類・位置・内容など
(2)どんな内容の情報を提供しているのか(平常時、車両運行などの異常時)
(3)提供する情報の内容について自由度はあるのか。(通常の情報以外の情報)
(4)車両内の情報提供に関する標準の仕様・基準があるのか。
(5)どのような旅客を対象として想定しているか。
(6)接遇による対応方法・役割分担などは具体的に定められているのか
IV. 各種情報提供の整備・検討・管理方法について (1)各種情報提供を設置・実施する際の、情報内容・設置位置などの検討手順
(2)各種情報提供の管理方法(内容変更、他の情報提供との整合確認など)
(3)検討主体
(4)メーカーとの関係
(5)管理・変更等の頻度
V. 利用者(特に視覚障害者、聴覚障害者など)からの要望・課題などについて (1)実際に障害者からの要望・指摘で改善した例はあるか
VI. 情報提供施設に関する今後の整備計画について (1)今後の整備計画
(2)先進事例 など
 
(2)ヒアリング調査結果
 鉄道事業者に対するヒアリング調査の結果を項目別に整理すると、以下に示すとおりである。(ポイントと考えられる点については下線で強調している。)なお、各鉄道事業者に対するヒアリング結果の詳細は、「参考資料−2 鉄道事業者ヒアリング調査の事業者別調査票」に示すとおりである。
 
(1)情報障害者(視覚障害者・聴覚障害者など)に対する情報提供の基本的考え方について
 
○情報提供の方法としては、サイン、列車の運行情報等を示す可変式情報表示装置、案内放送、点字表示、視覚障害者誘導用ブロック等がある。
○各種情報提供の仕様や内容等については、ほとんどの事業者において、独自の基準やマニュアル等が設けられている。
○「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」の策定以降に整備・改修された駅については、同ガイドラインに基づいた整備を行っている事業者が多い。
緊急時の情報提供については、自動放送や表示装置での対応は難しいため、人的対応(肉声による案内放送等)が中心となっている。
 
(2)駅構内(改札口付近、昇降施設付近、ホームなど)における情報提供の状況について
1)サインシステムについて
 
○サイン類は全ての事業者で整備されており、出入口や改札口、ホーム、トイレ、エレベータ、エスカレータ、階段等について案内・誘導を行っている。
○サインのデザインや大きさ、表示内容、設置位置等については、ほとんどの事業者で独自の設置基準やマニュアル等を作成しており、それに基づいて整備されている。
○同じ事業者内でも、路線や駅の新旧、駅の規模等によってサインのデザインや文字の大きさ等が異なる場合がある。
 
2)可変式情報表示装置について
 
<装置の種類>
○ほとんどの事業者において、ホーム上で列車の運行情報等を表示する可変式情報表示装置を設置しているが、郊外部の駅など設置されていない駅も存在する。
○可変式情報表示装置には、フラップ等を使用した機械式やLED等を使用した電子式があるが、現在は電子式が主流になってきており、現在残っている機械式も電子式に更新されつつある。
○可変式情報表示装置は主にホーム上に設置されているが、ホーム上だけでなく改札口付近への設置を進めている事業者もある。
<表示内容>
列車の運行情報を表示する可変式情報表示装置では、運行管理システム等と連動して、列車の種別、発車時刻、行き先、列車接近状況等といった情報が表示されるが、その情報量については事業者や路線、駅の規模等によってレベル差がある。
○列車の運行情報のほか、注意喚起や事業者のPR案内、トラブル発生時における案内などを表示するタイプもある。
○機械式や旧型の電子式などの装置では定型文しか表示できないタイプが多いが、最近の電子式の装置では、自由に文字情報を入力して表示させることができるタイプもある。ただし実際は、情報入力の手間がかかるため使われていない場合が多い。
トラブル発生時には、装置の表示を消して、何も情報を表示しないようにしている事業者も多い。
<装置の仕様>
○装置の仕様は、事業者間によって異なる。また、同じ事業者内においても、駅や路線によって異なる場合がある。(路線毎に信号装置のメーカーが異なる場合等)
<急告板>
○緊急時の対応として、急告板を使用している事業者が多い。
 
3)点字情報について
 
○ほとんどの事業者において、階段の手すり、運賃表、券売機などについて点字表示が行われているが、主要駅のみの対応の場合もある。
○ほとんどの事業者が、「移動円滑化整備ガイドライン」、「福祉のまちづくりマニュアル」等の既成の基準等を基に視覚障害者誘導用ブロックの整備を行っているが、駅によっては対応していない駅もある。
触知案内板については、各事業者とも主要駅に設置または検討を進めている段階であるが、実際に設置した事例では、あまり利用されていない場合が多い。
 
4)音案内(音響案内・音声案内)について
 
<案内放送>
通常時には各事業者とも、基本的には「発車番線」、「車両種別」、「行き先」、「停車駅」、「緩急列車接続」等の案内をしている。(駅や車両種別等により内容は異なる)
○案内放送には自動放送によるものと駅員の肉声によるものがある。
○駅周辺の状況により駅毎に音量は一定ではない(住宅地では周辺住民への配慮から小さくせざるを得ない)。
○トラブル発生時には自動放送の音声案内は自由度がないため、緊急時は肉声による案内が中心となる。
○プラットホームにおける行き先の案内放送(自動放送)について、上り・下り等で音を変えて分かりやすくしている事業者もある。(男と女の声に分けるなど)
<音響案内>
○音響案内は改札口において多く行われているほか、案内板や階段等の位置について音響案内を行っている事業者もある。
<その他>
視覚障害者誘導用ブロックと連動して主要地点を知らせる音声案内誘導装置の導入を進めている事業者が少数ながらある。
 
5)駅員による対応について
 
無人改札口、無人駅については、インターホン、監視カメラ等を設置して、有人改札口や近くの有人駅において対応している。
○ろうあ者対応としては、ほとんどの事業者において窓口に筆記用具(紙とペン)を用意している。筆談専用の器具を駅に備えている事業者もある。
○手話のできる人を窓口に配置している事業者は少ない。
○接遇については全ての事業者でマニュアル作成や社員研修を行っている。
 
(3)車両内における情報提供の状況について
 
○車両内における情報提供は、主にサイン類、車内放送により行われている。
○サイン類に関しては、主に路線図、車両番号、優先席などの表示を行っている。
車内放送に関しては、主に次の停車駅、行き先、開閉するドアの方向などについて案内を行っており、自動放送によるものと駅員の肉声によるものがある。
最近の車両や今後新しく導入される車両については、LED等による可変式情報表示装置を導入している事業者が多く、車両運行システム等と連動して、次の停車駅、行き先、開閉するドアの方向などを表示している。
トラブル発生時の情報提供は車掌による車内放送が中心であり、可変式情報表示装置については、表示を消して何も情報を表示しないようにしている事業者が多い。
地下鉄などの場合、車内放送が聞こえにくいといった問題がある。
 
(4)各種情報提供の整備・検討・管理方法について
 
○新しい装置の設置や開発にあたって、表示内容や表示位置等については、鉄道事業者が主体となって検討している場合が多いが、装置の仕様についてはメーカーからの提案による場合が多い。
○サイン類及び視覚障害者誘導用ブロックなど、仕様やマニュアル等が作成されているものについては、その内容に基づいてメーカーに整備を委託している。
○可変式情報表示装置の破損状況の確認や内容の更新などについては、鉄道事業者側で定期的に管理しているが、利用者の要望に応じて整備を行う場合もある。
 
(5)利用者(特に視覚障害者、聴覚障害者など)からの要望・課題などについて
 
○各事業者とも利用者からの意見や要望等を受け付ける体制は用意されている。
○点字表示や視覚障害者誘導用ブロックについて指摘をうけることが多い。(はがれている、内容が間違っている等)
○ホームページで意見を募集したり、障害者団体にヒアリングを行うなど、積極的に当事者の意見を取り入れている事業者もある。
 
(6)特徴的・先進的な情報提供の事例
 
○駅員とは別にサービス専門の担当者を配置(サービスマネージャー等)
○改札口の外でも列車の運行情報を確認できるよう、改札口付近にLED等による可変式情報表示装置を設置
○LEDより見やすいLCD(液晶)による可変式情報表示装置
○車両内においてトラブル発生時の運行情報などを表示可能な可変式情報表示装置
○車両内における液晶ディスプレイによる可変式情報表示装置(停車駅、乗換案内、ドア開閉方向、次駅設備案内などの他、動画による広告なども表示可能)
○視覚障害者誘導用ブロックと連動した音声ガイドシステム







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION