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3.6 海上用PLB(Personal Locator Beacon)の開発
 
3.6.1 海上用PLBの開発に至る経緯
 
 平成12年度に実施した「小型船舶の連絡手段の確保に関するアンケート調査」の結果を見ると、衛星イパーブの搭載義務のない船舶は、機器が高価、形状が大きい等の理由により、自主的に衛星イパーブや小型船用イパーブを搭載している小型船舶は殆んどないのが現状である。
 3.4.2項において説明した通り、現在我が国において製造販売されている小型船用イパーブは、義務船用衛星イパーブから自動離脱装置を取除き、また、動作時間や落下条件を緩和しただけで、基本的には同様のものであって、小型船舶搭載用に十分小型化されたものとなっておらず、価格については義務船用衛星イパーブの約半分であるが、ユーザの求めている価格帯とは未だ隔たりがある。
 本委員会での調査研究の結果、現在の技術で最初から小型船用として開発した場合には外形寸法で約70%、容積で約50%までの小型化の可能性があること、また、価格については、現在の義務船用衛星イパーブの約10倍規模での生産台数で仮定すると、現在の小型船用イパーブの約50%までの低減の可能性があることが判った。
 しかし、逆にこれが現在の限界であって、大きさ、価格ともにユーザが望むものと合致させることは困難な状況である。そこで着目したのが、個人用の遭難信号発信装置として開発され、これから普及・促進が進むと考えられる406MHz帯のPLBである。
 ユーザの要望に適う程度の小型化、低価格化の可能性のあるこの機器を、新たな小型船用遭難通報設備として使用するために小型船用PLBの開発を行なう事とした。
 
3.6.2 海上用PLBの仕様及び模型
 
 前項の開発に至る経緯に基づいて、PLBを開発する事での基本調査と基本設計を行い、図3.6.2.1に示す外観の小型船用PLBの仕様及び模型を作成した。
 小型船用PLBの仕様を以下に、模型による外観イメージを図3.6.2.2に示す。
 また、参考資料-3として添付の「小型船用PLBの開発に関する報告」に基本設計についての詳細を示す。
 
図3.6.2.1 PLBの外観図
z0001_098.jpg
 
(1)機能仕様
 
[1] ホーミング周波数 :121.5MHz
[2] 表示灯 :通電・送信を表示するLED表示器を有する
[3] テスト機能 :電池電圧確認、1バーストの送信を含む機能あり。
1バーストの送信時間は440ms±1%で、送信していることを確認できるLED表示機能有り
[4]浮揚 :浮き得るが自立しない。(横になったままの姿勢で浮く)
浮かせた状態で送信するにはオプションの“浮き”が必要
[5] 再帰反射板 :なし
[6] 表示 :製造者名、機器の型式、製造番号、製造年月、簡易操作法起動および停止法、電池の有効期限、MMID
[7] 余熱時間 :15分以内
[8] 始動方法 :独立した2つ以上の操作でスイッチを“ON”にする(手動)水センサーは無し
[9] 停止方法 :スイッチを“OFF”にする(手動)
 
(2) 電気的仕様
 
・一般的仕様
[1]  空中線  
  パターン :直線偏波
  VSWR :1.5以下
  インピーダンス :50Ω
[2] 電池  
  タイプ :パック式二酸化イオウ・リチウム電池(単3サイズ×4本)
  公称電圧 :7.2V
[3] 動作時間 :24時間以上
 
・406MHz送信部の仕様
[1] 送信周波数 :406.028MHz±1kHz
[2] 周波数安定度  
  短期安定度 :2×10-9以下/100ms
  中期安定度 :±1×10-9以内/min
  中期安定度のばらつき :3×10-9以下
  長期安定度 :406.028MHz+2kHz,-5kHz
[3] 空中線電力 :5W±2dB以内
[4] 変調 :位相変調 ±1.1±0.1ラジアン
[5] 符号形式 :バイフェーズ L
[6] 送信繰り返し周期 :50秒±5%(ランダム)
[7] 送信時間 :440ms±1%
[8] 送信立ち上がり時間 :5ms以内
[9] 変調速度 :400bit/s±1%
[10] 変調立上り、立下り時間 :50μs〜250μs
[11] 変調対称度 :0.05以内
[12] 連続送信 :送信制御と別回路で45秒以内に連続送信を防止
 
・121.5MHz送信部の仕様
[1] 送信周波数 :121.5MHz±6.075kHz
[2] 尖頭輻射電力 :50mW±3dB
[3] 変調 :AM
[4] 変調周波数 :300Hz〜1600Hz
[5] 変調繰り返し周期 :2Hz〜4Hz
 
(3) 機械的仕様
 
[1] 自動離脱機能 :なし(ライフジャケットのポケットなどに入れ常に携帯する)
[2] 余剰浮力 :約40g(浮き得るのみ)浮揚姿勢での送信にはオプションの“浮き”が必要
[3] 曳航ロープ :浮力を有するナイロンロープ φ 2mm
  引張りの強さ :180kg
  長さ :約3.5m
[4] 外形寸法 :幅74mm 高さ150mm 奥行44mm
    (アンテナ・突起を除く)
[5] 重量 :約450g
[6] 水密 :水温より45℃高い温度に1時間放置した後、20℃以下に深度2mで5分間放置し浸水がないこと
[7] 水面落下 :5mの高さから水面への2回落下に異常がないこと
[8] 使用温度範囲 :-20〜55℃
[9] 保存温度範囲 :-30〜70℃
 
図3.6.2 PLBの外観イメージ(模型)
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3.6.3 海上用PLBの評価と今後の課題
 
 今回、基本設計を行い、模型の作成を行なった小型船用PLBは従来の小型船用衛星EPIRBに比較し大幅な小型化が図られており、表3.5.1外国製衛星イパーブ等の性能比較に示す「製品A」の外形寸法まで近づけることが出来た。しかし、本寸法であっても、設計目標であるライフジャケットへ収容するには十分でなく、更なる小型化軽量化が必要である。
 一方、価格については参考資料-3の「小型船用PLBの開発に関する報告」によれば、要望に適う価格に到達していないと述べられている。価格は生産台数にも依存する事であるが、更なる技術開発でのコスト低減と普及促進による生産台数を確保することにより低価格製品の実現を期待したい。
 機器の性能については、基本的にはコスパスサーサットの技術基準に基づいて設計されており問題ないと考えるが、機能、装備、運用面の仕様については十分審議された内容でないと思われるので、製品化に際してはユーザ始め、関係者と意見交換を行い、運用実態に合った機器となることを期待する。
 現在、外国製PLBの最小製品は、今回の小型船用PLBに比べ、容積、重量で約60%の物が存在する。今回の設計は従来の技術に加え、一部新技術を取り入れているが、更に、小型船舶に最適なPLBとしての基本仕様の再見直しや、新しい発想と技術開発による超小型化に加え、価格においても市販の一般部品が使用できる工夫を設計に取り入れ、低価格化を実現する事が今後の課題である。








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