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2 実態調査結果の分析
 本課題と関連する資料として、平成12年度に(財)日本小型船舶工業会が日本財団の助成事業として実施した“小型造船所のための人材情報提供に関する調査研究告書”があり、それに本事業の“人材情報システム構築に関するアンケート”(資料1)結果を基に日常の生産性向上活動における知見も入れ問題点の分析を行った。
2.1 直近の人員不足状況
 人員過不足の状況が刻々変化するのは、造船所の規模の大小を問わず共通する問題である。
 造船所の負荷変動は常に起こるのである。操業度と船種の変化により、また、同型船の建造工程においても時期と建造工期により、職種によっては大小の負荷の山谷があり、必要人員の過不足は常に発生する。
 前述のアンケート結果は約2年の開きがあるので、同一造船所と見られるところでもの時々の船種、サイズにより必要とする職種は大きく変化するのは当然である。
 それ故、現状、将来とも過不足問題なしとするところは約10%であり、変化しないとはいいきれない性格の回答と考える。
 造船所側から見れば必要な時に必要とする技量・技能を持つ人材を適正価格で確保できれば良い訳である。
 工作関係では船殻関係の技能職、鉄工、溶接、曲げ加工・撓鉄に対する不足が報告されており、足場、塗装、配管等は建設等他産業にも類似の仕事はあり、調達に困難な職種とはいえない。
 例えば、小型造船所の人材ニーズとしてケミカル船の対応として、ステンレス溶接の技術管理者とか、タンカー船対応として一品図作成を含む配管設計、配管作業の技術管理の全てを推進できる技術者と言うように近々の受注船を工程的に、技術的に無事建造していける人材を求める要望にしばしば遭遇する。
 これらの件数は少ないが、タイムリーに必要とする人材を得ることができれば、経営的、技術的、工程的に問題を出さない建造体制をつくり、それにより資材調達や現場工作のコスト低減を図ることが一段と進めることができ、ロスを解消できる。
 人材データベースが求職求人の両サイドに認識されるに従い、上に述べたケースにおいてその活用が活発化すれば、造船所の経営に貢献するとともに職を求める人に様々な機会を与えてくれる。
 双方に合理的で効率的な取引のチャンスを与えてくれ、必要な時期に合わせて必要な人材を募集し、それによる人材調達が素早く、適う事例を体験することによりこの方式の浸透は急激に深まるものと考える。
 ここに課題が狙う“人材情報提供システム”の意義がある。
2.2 中長期的な技能技術者・管理者の確保
 中小型造船所が中長期的に求める人材について考察する。この場合のテーマは、第一に、造船所における安全衛生管理体制の確立、この分野では、中小造船所は先進造船所と相当の開きがあり、根底から体制を見直す必要がある。そして、国際競争や同業他社とのコスト競争力、ひいては受注力の強化への体制づくりである。
 求める人材は、下記するタイプが考えられる。
[1] 造船所が達成すべき安全衛生管理技術を有し、安全マインドを向上させ、安全な工場の形成に向けて指導することのできる人材。ときには、経営者に積極的に進言できる人材が求められる。
[2] 企業内の環境改善、公害防止、整理整頓等の個別的課題に実際的に取り組むことのできる知識と技術を有する人材。
[3] 自社の設計力と設備立地条件などを最大限に発揮してくれる技術者。
[4] 中小造船所の仕様決定、建造コスト予算管理、VE・資材調達力、生産性向上のための事前技術活動(ブロック組立工法改善、先行艤装拡大:造船IE生産性向上マスタープランの実施等)を行える人材。
[5] 現在、中小造船業の工作現業部門の平均的な社内工比率は約30%で社外工依存率は約70%である。今後ますます協力企業への依存比率は高まるものと予想される状況下において、適正な発注の価格交渉や生産性改善指導を推進することができる技術者・管理者。
[6] 協力企業への依存度が高まる中で自社・協力企業を問わず、技術技能の評価力及び指導力を有し、また、各種技術技能の伝承を図ることのできる人材。
 以上のような人材による組織の形成は、外部よりの調達だけに頼るだけでは実現できず、組織内部に要求する能力仕様を持つ人材を目標による管理と教育、訓練、自主研鑚とを組み合わせることにより達成されなければならない。
2.3 人材確保と問題点
 造船工作における各職種への労働力配備は、受け入れ側の取り組みとして、従来、求職側もともすればキャリア―パス(職歴・経験年数)を記入するだけでことを済ませ、何がどれくらいできるかの具体的な記述評価がなかった。
 求人側も人材の経験を問うだけで、処理能力を細かく問うことは、通常あまりなかった。
 雇用に際して、各人が持つ技量と求人の要求仕様を評価してミスマッチを減らし、更には賃金の算定や今後の指針指導のキッカケを与えることが、雇用後のスムースな業務の展開をもたらせてくれる。
 これには求職している人、現在働いている技能技術者を表1に示すように、定量的、具体的に業務能力を評価する仕組みが必要である。この仕組は必要とされる技能技術のとの差異を解消するためのOJTの技量評価ツールとしても使える。これについては次章で詳しく述べることにする。
 現在、中小造船所の多くは管理監督者及び間接工をぎりぎりまで少人数に絞り込み、直接作業を一括して外注化するとによりコスト低減を図る傾向が一般的である。
 これにはそれなりの成果はあるが、目前の建造船の工程を守るのに精一杯であり、結果としては、ここ数年、中小型造船所のコスト低減活動が鈍くなっている所が多い。
 現在の中小型造船所の課題は何よりも対外競争力の強化であり、線表上の各船を建造しつつ、より一層のコスト競争力をつけることである。
 工程確保や建造技術を確保するための技術者の人員増強が、このコスト低減を強化してくれることが望ましい。
 一般的に造船所の規模が小さくなればなるほど一人の技術者の守備範囲は拡大し、技能者のそれは狭くなる傾向が強い。
 例えば、小型船建造ヤードにおいてタンカー船の配管技術者を求める場合には、その守備範囲は管一品図作成を含む配管設計及び現場での先行艤装の推進や配管作業の取り纏めである。それに加えて、今まであまり取り組まれなかったユニット工法の採用等の改善課題への取り組みニーズもあり、その全領域を一人でカバーすることは大変である。
 これらの幅広い仕事を大手や中手造船所出身の一人の技術者では、要求仕様を満足する人材は少なく、当然ミスマッチも生ずる。
 このように採否決定のときに適格性の十分な判定資料を得られない場合の対応策の一つとつとして、労働契約時に、試用期間を設定し、その期間内に要求技術と技能への目標を課し、適正をチェックする方法がある。しかし、解約権が濫用されてはならない。
 採用するのは個人であっても、帰属していた造船所の作業標準なノウハウの提供がなければ、諸種の幅広い改善は不可能なケースが多い。殆どの人は組織の力で仕事をしており、個人で何から何までやってしまう仕組にはなっていない。
 それは専門化が進んだ故に種々の工夫がなされ、コストダウンが実施されているからである。
 業界として高齢者、熟年労働者の活用により、その活性化を図ることができるので、人材のデータベース化と合わせて、技術や作業方法の標準化、文章化とそのノウハウ提供の協力関係等制度に対する支援策に対応するメリットはあるものと考える。
 予想される障害は、これらのノウハウが公開された後、海外流出することである。
 導入した人材に生産性向上の課題を与えた場合、彼等も右から左にその課題が達成できるとは限らないので、達成に必要な各種の技術や管理方法を習得実施できるバックアップ制度が必要である。








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