日本財団 図書館


総論
 我が国造船業は、小型船建造ヤードでは石油、鉄鋼、セメント、化学業界等の再編成の進展とそれによる急激な構造改善に加えて、経済全体のデフレスパイラルヘの突入が懸念される状況下において大変に厳しい環境にある。また、近海船をはじめそれ以上の大型船建造ヤードでは最近の円安状況下にあるとはいえ、船種船型を問わず国際競争下で厳しい経営を強いられている。
 その主要因は造船業界には、まだ学会にも造船所にも優秀な技術・技能、頭脳は在るものの建造コストが対外競争力を失っていることからである。
 設計や生産技術での優位性が徐々にキャッチアップされ、賃金対生産性のバランスが国内他産業や国際比較でもマイナス傾向となり、資材や諸種エネルギーのコスト高を補うことが徐々に難しくなっているからである。
 労務費を例に取れば、おおよそ韓国に比べ賃率で2倍弱、対中国比約20倍の賃金差がある。これを克服する生産性向上が必要である。
 本事業では、中小型造船所において雇用が流動化していく状況下で、船舶建造に必要な技能技術者はじめ、求める人材をタイムリーに、経済的効率的に人材を確保することを目指している。すなわち、建造量や建造船種の変動に伴い必要な技術,技能及び事務等の能力を弾力的、タイムリーに活用する。
 これを根本的に考え徹底することが企業の最終課題である競争力強化をもたらす施策の一つと考えるからである。
 経営者として必要な職種の人材を確保するのは、技能技術者を外部から補充することと並行して、内部でも早期の技量養成や多能力化を図ることで充足することも大切である。
 何故ならば、建造量や船種に対応して、必要とする職種と人員能力を調達することのできる完全な市場はまだまだ先のことであり、外部調達により社内に発生した余剰の技能技術者を容易に排除することができる社会環境にはないからである。
 造船のように工場で最終製品を生産する産業では、建設業のように必要な技術技能を時にはその殆どを一括丸請け方式の外部調達でまかなう設計生産展開は、経済的にも可能性は低いと考える。
 技術と管理の幹部だけでは、生産性や品質を向上させる製造技術と生産技術の活動は不可能である。そこまでの仕事の組織化は不可能なもの作り形態であリ、取り纏めスタッフなり、主要職種の社員集団の配置が有利なケースが多い。
 中小型造船業においても、必要な人的能力の調達を内部の訓練による技量向上と職種変換により調達する方法も併せて確立することが、外部からの調達に際し生ずるミスマッチを減少させ、解決する素地をつくってくれると考える。また、このようなスキームがあれば、導入する人材の早期戦力化の仕組が各段に向上する。
 時代の流れとして雇用の流動化は進む。また、今後10年間には中手大手の造船所から定年退職者が大量に排出されるのも明白なことである。この条件下で人材を求める側と求職者の双方が、流動化する雇用環境の中で少しでもスムースに目的を達成する方策を考えたい。
 中小造船所の雇用流動化対策にしても従来型の取り組みでは、便利になるだけのことである。負荷調整ができるとか、久しぶりに取り組む船種に対応することに止まってしまう。
 本課題も造船所の経済効率を向上させ、この仕組を経て少しでも働く人が気持ちよく、また、やる気をもって働けるようにする仕組を提供することに心がけたい。
 この考えを前提として本課題の対象とする中小造船所の実態調査及び種々の生産性向上活動の知見に基づき問題の分析を行い、今後の問題解決の方法とその進め方について考察をする。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION