日本財団 図書館


6. サプライチェーンを勘案したセキュリティ対策のモデルと実証実験
まえがき
 1990年代には、情報システムの導入・普及により、荷主から国際輸送サービス提供会社に対して、輸送サービスを依頼した貨物の状況を把握したいとの要求に対して、貨物の状況通知を電子的にオンラインで提供出来るようになりました。最近では、インターネットの技術の向上及び普及により、WebブラウザからID・PASSWORD及び輸送契約番号等を入力することで、貨物の状況を把握できるようになりました。
 
6.1 サプライチェーンを勘案したセキュリティ対策のモデル
 このような背景の中、9.11同時多発テロ事件を契機に米国運輸省内で、ドアツードア輸送において、監督機関の観点での情報システムによってサポートされた貨物の可視化の必要性が議論され、その結果として、ボトルネックは、取引する者同士が、それぞれの独自の標準を利用し、また個々の国・地域で異なった用語(定義がばらばらで、標準化されていない)を使用していることが挙げられます。そこで、「手入力をなくして、再入力、データ転送の断絶をなくすため、サプライチェーン全体を通して使用できる標準データおよびメッセージセットの開発」が必要となり、米国運輸省内で取り纏めて、ISO TC204へ新標準化プロジェクトとして提案/承認され、TC204WG7.2グループにて標準化作業が始まりました。
 
 ISO TC204 WG7.2にて「サプライチェーンにおける貨物の移動追跡の為の標準メッセージおよび標準データ辞書(Data Dictionary and Message Set to facilitate the movement of freight and its intermodal transfer - Road transfer information exchange)」の標準化作業を行い、2007年2月末現在ISO/CD124533として承認されています。標準化の対象モデルは、トラック→航空→トラック間のマルチモーダル輸送に範囲を限定して標準化を行い、将来的には、全輸送モード(トラック、海運、航空、鉄道等)を対象とした標準データエレメント・メッセージを開発する予定です。また、本標準化の概念を使用した米国における電子サプライチェーン積荷目録(Electronic Supply Chain Manifest(ESCM))の実証実験の成果は、時間に敏感な高付加価値貨物を航空とトラックのマルチモーダルで輸送するという面で、本標準の利用例の第一歩です。
 
 標準化は、前述の通り、先ず時間に敏感な高付加価値貨物を航空輸送とトラック輸送のマルチモーダルで輸送する事を対象に着手し、その貨物の移動は、(1)輸出国の送り荷主(Supplier)からトラック輸送により、空港へ(混載される場合は、混載業者により1つの貨物に纏められて)、(2)空港より航空貨物キャリヤにより輸入国の目的地空港へ輸送され、(3)保税地内にて、税関へ輸入申告し貨物の審査・検査を受け、(4)通関後、保税地からトラック輸送により受け荷主(Consignee)へ(混載された貨物は、混載業者によって、輸送を依頼された元の貨物毎にバラされ、受け荷主(Consignee)へトラック輸送により)届けられます。貨物移動と標準化に作業により作成されたセキュアメッセージ群を図6-1(出典:2004年度第3回緯度経度委員会資料4)に、本標準による貨物追跡モデルを図6-2(出典:Discussion Draft for NP in TC204 WG7.3 in Cape Town)に示します。
 
1 CD: Community Draft、ISOにおける標準として投票される前の段階。標準は、新提案→DIS→CD→正式標準と審議される。
 
図6-1 貨物輸送とセキュリティメッセージ
(拡大画面:82KB)
 
図6-2 ISO/CD24533による貨物追跡
(拡大画面:106KB)
 
6.2 RFIDタグによる貨物の可視化とセキュリティ向上モデルの検討
 
 ISO/CD24533における標準化では、航空分野、海運分野と連携する複合一貫輸送(発荷主→受荷主までの一貫輸送)におけるEDIに必要となるメッセージとデータ辞書が完成されました。開発されたメッセージ群およびデータ辞書といった情報コンテンツを国際複合一貫輸送で普及させるには、ハードを含むシステムアーキテクチャーとデータ構造の定義が必要です。物流分野では現在、RFIDを活用した物流システムアーキテクチャー標準が個々ばらばらに進められています。例えばコンテナ用タグおよび電子シール等はTC104、梱包等に添付するRFIDはTC122/104JWG、車両はTC204WG4にて別個に開発が進められているという具合です。これらを統合化し、物流分野における貨物の可視化とセキュリティの向上の為に活用していくことが重要です。
 
 これらの標準規格は国際複合一貫輸送のセキュリティを高めるとともに、他方でサプライチェーンを高度化することが期待できます。しかし、国際複合一貫輸送全体でこれらの要素技術を活用していく場合に、如何に個々の要素技術を連携させるか、さらに高速で走行する車両と路側とのコミュニケーション技術を確立し、車両と積荷との紐付けを組み合わせることにより、移動中の貨物のリアルタイムでの把握が可能です。本規格の検討として、システムアーキテクチャーとしては、荷台の貨物情報をどの様に車載器に吸い上げ、また外部のデータベースの活用を念頭に、どこまでのデータを車載器として保有すべきか、更に保有されているデータのセキュリティ(リード・ライトセキュリティ)など、荷台のコンテナ、コンテナの中身に関する情報をどの様にリアルタイムで車載器に受け渡しするか、またそこにどの様に外部データベースを絡ませるかを検討する必要があります。
 
 本規格を検討するに当たり、車両と路側のコミュニケーション方法、コンテナ、貨物、明細品目の情報を纏めて、車載器に取得するための技術スペックは既にISO TCの中で検討が進んでいることから、これらを総合的に組み合わせてリアルタイム貨物追跡モデルを作成する必要があります。車載器と荷台のコミュニケーション関係を図6-3(出典:Discussion Draft for NP in TC204 WG7.3 in Cape Town)に、個品からコンテナまでの階層と対応するRFIDタグの標準を図6-4(出典:Discussion Draft for NP in TC204 WG7.3 in Cape Town)に示します。
 
図6-3 車載器と荷台のコミュニケーション関係
 
図6-4 個品からコンテナまでの階層及び対応するRFIDタグ標準


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION