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5.2 輸送に関わる保険とセキュリティーの関係
 外航貨物保険、運送保険、船舶保険いずれも偶然外来に起因する事故を基本にしていますがセキュリティーを強化することにより第三者の悪意が起因している事故を防げることになります。
 
5.2.1 外航貨物海上保険
 外航貨物海上保険のセキュリティー強化は、事故の発生を未然に防止する為と事故が発生した後の損害を如何に最小に食い止めることが出来るかにかかっています。
 対応策としては、貨物の移動を監視するトレーサビリティーがありますが、外航貨物海上保険におけるトレーサビリティー技術は、まだ開発途上といえます。
 現在各種の規格が検討されているコンテナやその内蔵貨物について常にその位置が把握することができれば、その状態の把握も容易なものとなります。
 外航貨物海上保険は、前述のとおり貨物が工場から出荷されて保管、輸送過程を経て荷受人へ到着するまでの危険をてん補します。その間に晒される危険は、外部との接触の可能性が高ければ高いほど危険性は増大します。外航貨物保険の保険期間で言えば、工場を出てから港の保税地域で保管され船舶に積み込まれるまでの期間が該当します。外航船舶から揚荷されて保管後、輸送を経て荷受人へ引き渡されるまでの危険が高くなります。この部分は各国の運送保険という見方も出来ます。
 
 では、実際にどのような事故が起きておりその対応策はどうなっているのでしょうか。海外においては、工場、倉庫を出荷後に陸上輸送中のトラックジャックや列車輸送中の盗難、抜け荷などが発生しています。国内の輸送距離が長く輸出港までの到着に日数がかかる場合、その危険性は増大します。海外において起こるトラックジャックはその輸送情報が流出し組織立った強盗団により犯行が行われることがあります。このような強盗団に狙われる貨物は高額品が多い為、積み込みなどに際しその中身が判別できないような梱包を施したり輸送経路を毎回変更するなどの対策が必要です。コンテナやトラックのトレースが出来れば盗難後の対応は迅速に出来るようになります。現状では盗難後にコンテナやトラックが発見されるまでに数日から数週間の日数がかかっていますが、輸送途中でコンテナやトラックのシールが開けられた情報が瞬時に発信出来れば、迅速かつ正確な対応が可能になります。
 保管中の対応策はその倉庫の安全性を如何に確保するかによります。
 盗難はやはり夜間に発生することが多い為、倉庫周辺への照明の設置や周辺の街路樹などの撤去により見通しを良くしていくことが対策となります。
 倉庫の入口すなわち門から搬入搬出口、出入り口までの監視強化が予防となります。また、従業員以外の人間、たとえばトラック運転手などが倉庫内の構造を把握できないよう行動範囲を限定することも予防となります。
 また、倉庫の窓を極力減らすこと、倉庫内各所に監視カメラを設置することも効果がありますが、これは各国の法律(労働環境関連)によりできない場合もあります。
 倉庫内でも高額品に電子タグを装着し個別に管理するなどの手法が取れれば盗難、紛失なども減少するものと考えられます。
 
5.2.2 運送保険
 運送保険に関わるトレーサビリティーについては、一部の高額商品の輸送などに関わり、その輸送用具であるトラックへのGPS発信装置の設置による運行管理と貨物本体にGPS発信装置を設置して盗難防止を図っている事例があります。
 又、銀行のATMにGPS発信装置を設置し、ATM本体が盗難された場合にもATMが破壊される前に発見することが出来、ATM内の現金の盗難を間逃れている事例が多数報告されています。
 ATMへのGPS設置は現金盗難防止に対して非常に有効な手段となっています。
 日本国内においてはその閉鎖性、四方を海に囲まれており、盗難した貨物を処分するルートを確保することが難しいことから欧米のような大規模なコンテナ盗難は発生していません。欧州の場合はEC域内での盗難品が中近東、アフリカへ運ばれ処分されることが多く、アメリカの場合は中米、中南米、南米などへ運ばれ処分されます。
 しかしながら、日本でも20フィートコンテナなどの盗難は発生しており、これは翌日配送の為コンテナをシャーシーに積んだ状態で放置されている場合に発生しています。夜間にトレーラーヘッドを持ち込みシャーシーごと盗難し、中身を抜き取りコンテナ、シャーシーを放置するという手口です。現在のところコンテナ、シャーシーに発信装置等の取り付けはなくまた、コンテナシールなどにも発信装置はないためその異常を察知することが出来ず比較的容易に貨物を盗難されている実態があります。
 横浜港湾地区で盗難されたコンテナが千葉で放置され、発見までに2週間程度かかった事例もありその内容貨物は関西、東北、北海道等日本各地で売却されていました。コンテナのシール異常を瞬時に連絡することが出来ればそのコンテナの位置を捕捉し警察が駆けつけ窃盗団を逮捕することが出来る可能性もあります。
 前述のATMの盗難の場合でもATMを破壊して中の現金を抜き取る時間と警察が来る時間との問題ですから日本の警察の機動性を考えると十分な効果が期待出来、盗難そのものへの抑止力という意味でも効果が期待出来ます。
 港湾施設への出入りのセキュリティー強化も盗難の防止に大きく貢献します。港湾への出入りについてゲートが設置されアメリカ並みにセキュリティーが強化されれば、密入出国、盗難、コンテナ破損などは大きく減少するものと考えられます。
 
5.2.3 船舶保険
 船舶保険におけるトレーサビリティーに関わる事故は荒天遭遇などによる海難事故による漂流と海賊による襲撃と思われます。
 海難事故の場合は、無線などにより位置の通報ができる可能性もありますが海賊による襲撃の場合は、乗組員が拘束される為、無線連絡が出来ず行方不明となっています。船舶の場合は、沈没させられてしまえばそのトレースは困難になります。
 過去の海賊襲撃事件のうち本邦関連で有名な事件は次の通りです。
 この3件は積荷とともに船舶まるごと海賊に奪われ(シージャック)、一時行方不明となり後日船名が変えられ、乗組員も入れ替わった状態で発見されています。
 
1. 貨物船「テンユウ」
1998年9月 インドネシア・マラッカ海峡にてアルミインゴットを積載したまま船舶(乗組員15名)が行方不明。
1998年12月 中国の港で本船を発見。
アルミインゴット・乗組員共に依然行方不明。
本件は乗組員不明のため、海賊によるシージャックと推定。
 
2. 貨物船「アロンドラレインボー」
1999年10月 インドネシア・マラッカ海峡にてアルミインゴットを積載したまま行方不明。
1999年11月 プーケット沖で救命ボートに乗った乗組員救助。
1999年11月 インド洋上で本船を発見。
2000年5月 マニラで積荷の一部発見。
 
3. ケミカルタンカー「グローバルマーズ」
2000年2月 タイ・プーケット沖でパームオイルを積載したまま行方不明。
2000年3月 プーケット沖で小型船舶に乗った乗組員救助。
2000年6月 香港沖で本船を発見。
 
 最近は船舶を奪わず乗組員の身代金を要求するケースが増加傾向にあります。
 
5.3 各種規格と輸送保険
 現在さまざまな管理を行う規格が設定されています。各規格は経験を経て進化を続けていますが、その運用によってはかえって不便なものになることもあります。
 
5.3.1 HACCP
 HACCPとは英語のHazard Analysis Critical Control Pointのそれぞれの頭文字をとった略称で、「危害分析重要管理点」と訳されています。危害とは、食品とともに口から入った時に、お腹をこわしたり熱を出したりする原因となるものをいいます。
 原材料から最終製品に至る一連の工程が管理の対象になり、特に重要な工程(重要管理点:CCPと略)を、誰にでもできるような方法でチェックすることにより、安全な製品の製造が可能となります。従来の、最終製品の検査や場当たり的なチェックといった衛生管理方法では、100%安全であるという保証は得られません。
 衛生管理のためのマニュアルは、自分で作成し、それを時々自分で見直し、自分の責任において安全な食品をつくります。衛生管理を行う手順は、誰でもわかるようにマニュアルにまとめておきます。マニュアルに従って実行したことは必ず記録に残します。
 以上がHACCPの管理方法です。
 HACCPが一番普及しているのは米国です。すでに1997年の7月から食肉および食肉製品、1997年12月から水産食品の衛生管理にそれぞれHACCPが法的に取り入れられています。日本では1995年に改正された食品衛生法の中に、「総合衛生管理製造過程」としてHACCPの承認制度が導入され、法的に定められた基準により製造するか、HACCPにより製造するかを選択することになっています。現在は、乳・乳製品、食肉製品、魚肉ねり製品などの製造基準のある食品が対象ですが、厚生労働省ではすべての食品の衛生管理にHACCPの導入を奨励し、あらゆる食品企業で強い関心がもたれています。
 HACCPの導入が輸送保険とどのように関わっているのか、日本ではHACCPの対象となる乳・乳製品、食肉製品、魚肉ねり製品などの原料がほとんど輸入に頼っている状態です。原材料の受け入れの時点での管理基準を強化すればするほどそれは輸送状態と密接に関係しています。輸入冷凍食肉のカートンが潰れていることにより受け入れを拒否されたり、カートンに濡れしみが出ていることにより受け入れが拒否される状況も発生しています。カートンの潰れや冷凍・冷蔵品の外装の濡れは輸送中のコンテナの揺れやコンテナ内の温度変化などにより発生しますが、これは輸送上ある程度は自然発生的なものです。しかし、輸入業者としてはこの受け入れ拒否のリスクを保険にリスク転化して損害を軽減したいと考えます。しかし、外航貨物海上保険では損害率によりその保険料率を決定しますからHACCP導入により損害率の悪化があれば保険料率が引き上げられます。管理基準の設定の仕方により保険料率は大きく影響されます。
 
5.3.2 ISO
 ISO9001が設定された時点でもHACCPと同様のことが発生しています。
 ISOとは、国際標準化機構(International Organization for Standardization)の略称です。日本では1991年にJIS(日本工業規格)から翻訳規格としてJIS Z 9900、9901、9902、9903、9904が制定されました。
 ISO9001規格も当初は1992年に改定を予定していましたが、実際には1994年に改定規格として1994年版が発行されました。1994年版では小幅な改定にとどまっていましたが、中小規模の組織の導入についての配慮や実施運用における数多くの経験等を踏まえた根幹的な見直しの結果、2000年12月20日に2000年版への改定が行われました。
 この改定により1994年版ISO9001、9002、9003はISO9001に統一されることになりました。ISO9001規格は、企業が規格要求事項を守って品質マネジメントシステムを実施していることを保証するために、第三者の審査を受けるところが大きな特徴となっています。
 外航貨物海上保険や運送保険では機械類の破損事故は修理が前提となっています。しかし、企業内の品質規格が強化され品質マネジメントを堅実に遂行するようになった為に以下のような現象が起きました。
1)盗難された家電品やパーソナルコンピュータについてその品質保証をできない。
2)工場の検品ラインが新品の検品用に組まれていて再検査用にはなっていない為、検品が出来ない。
3)修理を行なった場合に正常品と同一の性能を出せるかの保証が出来ない。
4)その部品を組込む製品の品質に影響を及ぼす可能性があるため納入出来ない。
 これらにより保険金の支払いが増加するなど損害率の悪化を招きました。
 
 その後、環境マネジメントの規格が提示されISO14001により環境へ与える影響を考慮するようになりました。ISO14001では、継続的改善に関する約束を含んだ環境方針を定めることを要求していますが、「継続的改善」は次のように定義されています。
継続的改善
 組織の環境方針に沿って全体的な環境パフォーマンスの改善を達成するための環境マネジメントシステムを向上させるプロセス。
 
 この定義では、環境マネジメントシステムの向上に触れていますが、環境マネジメントシステムの改善のみが、継続的な改善の目的ではないようです。より高い目標は、全体的な環境パフォーマンスの改善にあると考えるべきでしょう。したがって、継続的な改善とは、究極的には環境パフォーマンスの改善であるべきだといえます。
 ここでいう、「環境パフォーマンス」とは、環境マネジメントシステムの結果のことです。具体的には、“エネルギーの使用量を20%削減する”等をいいます。
 つまり、ISO14001では、その精神において、マネジメントシステムそのものの改善だけでなく、省エネや廃棄物削減といった成果も求めています。
 これにより、事故貨物の安易な全損処理や廃棄などが環境に与える負荷を考慮することになり事故貨物への対応も変化せざるをえなくなり、リサイクルし易いように使用部品の材質ごとに分解、分離がし易く設計されるなどリサイクルの手法なども発達し、事故処理も全損処理から修理、部品交換などに変わり損害率は改善されてきています。


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