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3.2 日本版24時間ルールの施行について
 
 航空機及び船舶の長に対し乗員・乗客名簿、ならびに、積荷目録の事前提出を義務付けることを内容とした法整備がなされ、2007年2月1日から施行されたので、その概要を法務省入国管理局、財務省関税局、海上保安庁警備救難部等から船会社をはじめとする関係業界への通知文等を引用して記述します。
 9.11同時多発テロ事件以来、セキュリティ対策の重要性が世界的に高まってきております。然しながら、国際テロをめぐる情勢には、依然として厳しいものがあり、国民の生命と安全を守るため、国際テロの未然防止対策は、常に見直しを行い必要に応じて対応していかなければなりません。
 これらの認識に立って、政府は、2004年12月に内閣官房長官を本部長とする国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部会合で「テロの未然防止に関する行動計画」を策定しました。
 当行動計画は、国際テロ未然防止に向けた制度・体制等について点検を行い、政府が新たに対応を必要とする項目を取りまとめたものであり、その中で関係省庁は、航空機及び船舶の長に対し乗員・乗客名簿の事前提出を義務付けることを内容とした法整備について2006年度に必要な措置を講ずることと致しました。
 
 また、国際物流におけるセキュリティ強化については、2005年3月に関係7省庁及び関係21経済団体がとりまとめた「安全かつ効率的な国際物流の実現のための施策パッケージ」に輸入貨物に関する積荷目録情報を電子データにて事前に把握・分析するために必要な措置を検討することされました。
 これらを受けて2006年第164回通常国会において、所謂「日本版24時間ルール」といわれる関係法の一部を改正する法律が可決・成立したので、その要旨並びに実施要領を下記の如く分類して解説します。
 
3.2.1 「出入国管理及び難民認定法及び同法施行規則の一部改正」について
3.2.2 「関税法の改正」について
3.2.3 「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律施行規則の一部改正」について
 
3.2.1 「出入国管理及び難民認定法及び同法施行規則の一部改正」について
―法務省入国管理局―
 
3.2.1.1 要旨
 第164国会で出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律が可決・成立し、2006年5月24日に公布されました。
 この法律では、本邦に入る船舶等の長は、あらかじめ、その乗員及び乗客に係る氏名その他の事項を報告しなければならないこととされました。(平成18年法律第43号)また、本改正を受け、出入国管理及び難民認定法施行規則の一部を改正し、事前報告の期限、方法及び事項等を定めました。(同年12月20日公布)
 
3.2.1.2 改正された法律及び施行規則
「出入国管理及び難民認定法」―(抄)―
(報告の義務)
第57条 本邦に入る船舶等の長は、法務省令で定めるところにより、あらかじめ、その船舶等が到着する出入国港の入国審査官に対し、その乗員及び乗客に係る氏名その他法務省令で定める事項を報告しなければならない。
第2項〜第5項 (略)
 
(過料)
第77条 次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の過料に処する。
一、 一の二 (略)
二、 第57条第一項の規定に違反して報告せず、若しくは虚偽の報告をした者
 
「出入国管理及び難民認定法施行規則」―(抄)―
(船舶等の長等の協力義務)
第51条 本邦に入る船舶等の長又はその船舶等を運航する運送業者は、法第56条の規定により、次の各号に定めることについて入国審査官の行う審査その他の職務の遂行に協力しなければならない。
一 船舶にあっては到着する24時間前までに、航空機にあっては到着する90分前までに、適当な方法で、到着を予定している出入国港の入国審査官に対し、当該船舶等の到着時刻、外国人の乗客及び乗員の数、停泊予定時間その他必要と認められる事項を通報すること。
(報告の義務)
第52条 法第57条第1項の規定による報告は、船舶にあっては到着する2時間前までに、航空機にあっては到着する90分前までに行わなければならない。(ただし、以下例外規定(略)――3.2.1.3改正のポイント(3)に後述します。)
 
第2項 (略)
 
第3項 法第57条第1項に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げるとおりとする。
一 船舶にあっては次に掲げる事項
イ 船舶の名称、所属する国名、到着日及び到着する出入国港名
ロ 乗員の氏名、国籍、生年月日、乗員手帳又は旅券の番号及び職名
ハ 乗客の氏名、国籍、生年月日、旅券の番号、出発地及び最終目的地
 
二 航空機(略)
 
(電子情報処理組織による申請)
第61条の三 電子情報処理組織を使用して行うことができる法及びこの規則基づく申請等は他の法令に定めのあるもののほか、次の各号に掲げるものとする。
一 法第57条第1項の規定による乗客名簿及び乗員名簿の提出
二〜五 (略)
 
3.2.1.3 改正のポイント
 この法律では、テロの未然防止のための規定等の整備が行われています。
(1)(報告の義務)第57条では、改正前の{本邦に入り、又は、本邦から出る船舶等の長は、その船舶等が到着し、又は出発する出入国港の入国審査官の要求があったときは、乗客名簿及び乗員名簿を提出しなければならない。}から、あらかじめと報告の義務が事前となりました。
(2)第51条・船舶等の長等の協力義務第1号の改正は、用語を「入港」から「到着」に改めましたが、船舶の長等にとっては、実質的には何ら変更はありません。
(3)第52条・報告の義務第1項の{ただし}以降は、本邦外の特定の近隣地域から本邦の特定の地域にある出入国港に到着する場合には、両地域間の距離その他の事情を勘案して到着前までにする、等を取り決めています。
(4)報告の方法は、相変わらず{書面}となっていて従来民間側から政府に要望している所謂「電子申請化」には、程遠い改正となっています。
第52条・報告の義務第2項では、前項(第1項)に規定する報告はやむを得ない事情がある場合を除き、書面によるものとする、となっていて前述の第61条の三 電子情報処理組織による申請への進展に期待したいところです。
 
3.2.2 関税法の改正(積荷・旅客情報等の事前報告)について
―財務省関税局―
 9.11同時多発テロ事件以降、セキュリティ対策の重要性が世界的に高まってきています。
 我が国におけるテロ行為や国際的な組織犯罪を未然に阻止するためには、我が国への入国者や輸入貨物等に関する情報をその到着前に入手し、ハイリスク貨物の選定等に活用することで、テロに使用されるおそれのある物品等を水際において取り締まることが極めて効果的であることから、2006年度関税法改正において、外国から本邦に到着する船舶及び航空機の積荷及び旅客等に関する事項の事前報告を義務化しました。
 
3.2.2.1 事前報告義務化の概要
 以上の背景を基に、財務省関税局では、関税法等を改正し、外国から本邦の港に入港しようとする船舶の船長に対し、これまで入港後に提出することとされていた入港関係書類のうち、積荷、旅客及び乗組員に関する事項については、入港前の報告を義務付けることといたしました。具体的な措置については、次のとおりです。
 
3.2.2.2 改正された法律
「関税法」―(抄)−
(入港手続)
第15条 開港に入港しようとする外国貿易船の船長は、通信設備の故障その他政令で定める場合を除き、政令で定めるところにより、あらかじめ、当該外国貿易船の名称及び国籍のほか、当該外国貿易船の積荷、旅客及び乗組員に関する事項で政令に定めるものをその入港しようとする開港の所在地を所轄する税関に報告しなければならない。
第2項〜第9項 (略)
 
「改正前の関税法」(入港手続)―(抄)―
第15条 外国貿易船が開港に入港したときは、船長は、入港の時から24時間以内に入港届、積荷目録及び船用品目録を税関に提出するとともに、船舶国籍証書又はこれに代わる書類を税関職員に提示しなければならない。
第2項 (略)
第3項 前2項の場合において、税関長は、この法律の実施を確保するため必要があると認めるときは、船長又は機長に対し、旅客氏名表又は乗組員氏名表の提出を求めることができる。
 
3.2.2.3 関税法15条(入港手続)改正のポイント
(1)改正前は、船長は、{入港の時から24時間以内}に提出・提示を行う所謂・事後報告から、改正によって、{あらかじめ}と事前報告になりました。
(2)また、改正前は、税関長は、この法律の実施を確保するため必要があると認めるときは、{船長又は機長に対し、旅客氏名表又は乗組員氏名表の提出を求めることができる。}から、改正によって{当該外国貿易船の積荷、旅客及び乗組員に関する事項を所轄する税関に報告しなければならない。}と義務化されました。
 
3.2.2.4 関係政令の整備等
 上記の法改正に沿って関係政令が次のように整備されました。
 
「関税法施行令」―(抄)―
第12条第1項 (略)
第2項 法第15条第1項の規定による報告は、次の各号に掲げる事項の区分に応じ、当該各号に定める時までに行わなければならない。ただし、直前の出発港とその外国貿易船が入港しようとする開港との距離その他事情を勘案して、これらの時までに当該報告をおこなうことが困難なものとして財務省令で定める場合には、財務省令で定めるときまでに行えば足りる。
一、 積荷に関する事項 その開港に入港する24時間前
二、 旅客又は乗組員に関する事項 その開港に入港する2時間前
 なお、第2項・ただし以降については、別表によります。
積荷情報
別表1の第1項に掲げる「本邦以外の地域」から「本邦の地域」に入港する船舶 ―――> 入港する12時間前までに報告
 
別表1の第2項に掲げる「本邦以外の地域」から「本邦の地域」に入港する船舶 ―――> 入港する時までに報告
客・乗組員情報
 
別表2に掲げる「本邦以外の地域」から「本邦の地域」に入港する船舶 ―――> 入港する時までに報告
 
【別表1:積荷】
番号 本邦以外の地域
(外国とみなす地域を含む。)
本邦の地域 報告期限
東経百二十八度及び東経百五十六度の線並びに北緯四十度及び北緯五十四度の線で囲まれた地域 北海道 その港に入港する十二時間前
東経百二十八度及び東経百五十二度の線並びに北緯三十四度及び北緯五十度の線で囲まれた地域 青森県、秋田県、山形県及び新潟県
東経百三十三度及び東経百五十二度の線並びに北緯四十三度及び北緯四十七度の線で囲まれた地域 岩手県及び宮城県
東経百四十五度及び東経百四十九度の線並びに北緯四十三度及び北緯四十七度の線で囲まれた地域 福島県及び茨城県
東経百二十二度及び東経百四十度の線並びに北緯三十三度及び北緯四十六度の線で囲まれた地域(東経百二十二度及び東経百二十七度の線並びに北緯三十七度及び北緯四十六度の線で囲まれた地域を除く。) 富山県、石川県、福井県、京都府、兵庫県(日本海に面する地域に限る。)、鳥取県及び島根県
東経百二十五度及び東経百三十一度の線並びに北緯三十二度及び北緯三十八度の線で囲まれた地域(東経百二十五度及び東経百二十八度の線並びに北緯三十五度及び北緯三十八度の線で囲まれた地域を除く。) 和歌山県、大阪府及び兵庫県(瀬戸内海に面する地域に限る。)
東経百二十二度及び東経百三十一度の線並びに北緯三十度及び北緯四十二度の線で囲まれた地域(東経百二十二度及び東経百二十七度の線並びに北緯三十八度及び北緯四十二度の線で囲まれた地域を除く。) 岡山県、広島県、香川県、徳島県、愛媛県及び高知県
東経百十八度及び東経百三十五度の線並びに北緯二十六度及び北緯四十四度の繰で囲まれた地域 山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、熊本県、宮崎県及び鹿児島県(奄美市及び大島郡を除く。)
東経百十七度及び東経百三十一度の線並びに北緯十七度及び北緯三十八度の線で囲まれた地域 鹿児島県奄美市及び大島郡並びに沖縄県(石垣市、宮古島市、宮古郡多良間村並びに八重山郡竹富町及び与那国町を除く。)
東経百十四度及び東経百二十八度の線並びに北緯十五度及び北緯三十四度の線で囲まれた地域 沖縄県石垣市、宮古島市、宮古郡多良間村並びに八重山郡竹富町及び与那国町
東経百三十四度及び東経百五十二度の線並びに北緯四十三度及び北緯五十度の線で囲まれた地域 北海道 その港に入港する時
東経百二十八度及び東経百三十一度の線並びに北緯三十四度及び北緯三十八度の線で囲まれた地域 鳥取県及び島根県
東経百二十七度及び東経百三十一度の線並びに北緯三十三度及び北緯三十七度の線で囲まれた地域 岡山県、広島県、香川県及び愛媛県
東経百二十四度及び東経百三十一度の線並びに北緯三十三度及び北緯三十八度の線で囲まれた地域(東経百二十四度及び東経百二十八度の線並びに北緯三十五度及び北緯三十八度の線で囲まれた地域を除く。) 山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県及び熊本県
東経百二十六度及び東経百二十九度の線並びに北緯三十三度及び北緯三十四度の線で囲まれた地域 鹿児島県(奄美市及び大島郡を除く。)
東経百十八度及び東経百二十三度の線並びに北緯二十度及び北緯二十八度の線で囲まれた地域 沖縄県石垣市、宮古島市、宮古郡多良間村並びに八重山郡竹富町及び与那国町
 
【別表2:旅客及び乗組員】
本邦以外の地域(外国とみなす地域を含む。) 本邦の他域
東経百四十度及び東経百四十四度の線並びに北緯四十五度三十分及び北緯四十七度の線で囲まれた地域 北海道(北緯四十五度から北の地域に限る。)
法第百八条(外国とみなす地域)に規定する令第九十四条(外国とみなす地域)に定める歯舞群島、色丹島、国後島及び択捉島 北海道(東経百四十四度から東の地域に限る。)
東経百二十七度三十分及び東経百三十度の線並びに北緯三十四度及び北緯三十六度の線で囲まれた地域 長崎県対馬市及び壱岐市
東経百二十一度及び東経百二十三度の線並びに北緯二十三度及び北緯二十六度の線で囲まれた地域 沖蝿県石垣市、宮古島市、宮古郡多良間村並びに八重山郡竹富町及び与那国町
 
【別図:本邦の港を経由する場合の報告期限について】
(拡大画面:80KB)


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