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3. 日本におけるセキュリティ強化への取り組み
3.1 セキュリティ強化とコンプライアンス
 
3.1.1 特定輸出申告制度(平成18年3月導入)
3.1.1.1 経緯
 9.11同時多発テロ事件以降、セキュリティ対策の強化が進められる中、米国税関は物流を滞留させないための方策としてコンプライアンスに問題のない荷主には貨物検査の頻度を減らす等迅速通関の恩典を与え、リスクの高い貨物の監視に勢力をぐというリスク管理を一層強化してきたといえます。
 かかる状況下、我が国においてもセキュリティの確保と効率化を両立させるための方策について種々議論がなされ、各経済団体等からも物流の全体最適化の観点からの提言、要望がなされてきた経緯があります。
 
 2004年6月、(社)日本経済団体連合会は、コンプライアンスを活用した諸制度の構築を図り、優良事業者に対するインセンティブ措置を導入すること、物流プロセスの最適化を図ることを提言しました。1
 提言では、物流全体の効率化策として、輸出については、(1)保税地域外の自社施設での通関を可能にすること、(2)貨物検査についてはセキュリティの検査と徴税のための検査の区別を徹底し、検査の効率を上げること、等が纏められました。
 
 また、同経済団体連合会と同様、他経済団体等からも手続の簡素化、電子化推進の見直し等と併せ、保税制度の見直し、輸出について許可制から届出制への見直し等制度の改革について種々提言がなされました。
 
 各方面からのかかるセキュリティ確保と物流迅速化の両立に関する提言も反映され、平成17年度関税改正では、コンプライアンスを活用した通関制度の導入が盛り込まれ、平成18年3月1日よりいわゆる「特定輸出申告制度」が実施され今日に至っております。
 本制度が実施されて以降、より使い易い制度にするための改善要望、問題点の指摘等がなされていますが、平成19年度関税改正(4月1日より施行)により一部見直し措置が講じられる予定になっております。
 
 本制度については、本来の迅速物流に資するための改善が加えられるよう望まれるところですが、制度の概要、制度利用のための手続の概要等について整理し、制度の見直し要望、課題と思われる事項等について述べることとします。
 
1 輸出入・港湾諸手続の効率化に関する提言(2004年6月22日)
 
3.1.1.2 制度の概要2
 コンプライアンスの確保等を条件に予め税関長の承認を受けた輸出者(特定輸出者)については、保税地域外に貨物を置いたままで輸出手続(申告及び許可)を行なうこと(特定輸出申告)を可能とするとともにコンプライアンスを反映した審査及び検査を実施する(関税法第67条の三)というものですが、メリットとしては下記点が挙げられています。
 
(1)保税地域に貨物を搬入することなく輸出通関を行うことができ、輸出許可を受けた後も保税地域への蔵置、保税運送の承認を必要としないことにより外国貿易船への積み込みが迅速となりリードタイムの短縮に繋がります。
(2)仕入書の提出省略等ペーパーレス化が望めます。
(3)通関時の審査、検査の予見可能性が高まります。
(4)コンテナヤードの混雑回避が望めます。
 
3.1.1.3 制度利用のための手続3
 承認申請に当たっての提出書類、承認の要件等の概要は下記のとおりです。
 
(1)特定輸出者の承認申請
 「特定輸出者承認申請書」2通を主たる輸出業務を行っている事業所の所在地を管轄する税関に提出する。承認申請書には、法令遵守規則2通、登記事項証書1通を添付する等が必要となります。
 
(2)承認の要件
 承認申請があった場合、申請者(法人の場合、役員、代理人、使用人その他従業者4を含む。)が過去の一定期間に法令違反がないこと、特定輸出者の承認を取消された者でないことについて審査されることになります。
 具体的には、過去2年間に法令違反がないこと、特定輸出者としての実務能力を有し特定輸出申告の遂行体制が整備されていること、法令遵守規則が定められていること、通関業者、倉庫業者等に業務を委託している場合、これら業者においてコンプライアンスが確保されていること等が要件となります。
 また、平成19年度関税改正により電子的に情報提供が出来ることがコンプライアンス要件の一つとして加えられることになりました。
 
(3)法令遵守規則の記載事項の例
 申請者の実情に応じて法その他の法令の規定を遵守するために必要な事項を記載することが求められますが、下記は、税関が記載事項の例として示したものです。
 
2 財務省ホームページ関税・税関 www.mof.go.jp
3 税関ホームページ www.mof.go.jp 関税等審議会資料を引用
4 使用人その他の従業者とは、支配人、これらの者を直接補佐する職にある者、輸出に直接携わる担当者を指す。
 
項目 記載内容
総則
(目的、適用範囲)
規則制定の目的、規則が適用される業務範囲を定める。
組織
(社内体制、従業者の適正配置)
責任体制を明らかにするため申告する部門、貨物の管理をする部門、法令遵守状況を監査する部門、これらの部門を総括する部門の名称、具体的な業務の内容、業務の手順、部門の責任者及び責任範囲を定める。従業者が部門ごとに適正配置されることを定める。
税関手続
(申告貨物の管理、リストの審査、税関手続の方法、検査への対応)
貨物リストを作成し、統計品目番号、他法令の条項等に誤りがないか、総括部門で審査すること、税関手続の留意事項、税関検査の場合の手順等を定める。
貨物管理
(貨物と書類の対査確認、在庫、出庫、移動、積み込み等の管理)
書類に記載された貨物と輸出しようとする貨物とが同一であること、輸出された貨物の保管施設、移動、外国貿易船又は外国貿易機への積み込みの際の管理方法を定める。
監査 定期的、継続的監査制度の確立、違反があった場合の指導、勧告等に関する対応措置を定める。
関連会社の指導
(関連会社の責務、指導、管理)
関連会社は適正に遂行する責務を有すること及びその責任範囲を定める。通関業者、貨物の保管、取扱いを委託する会社について適正な業務の遂行を確保するための指導、管理体制、方法、手順について定める。
税関との連絡体制 特定輸出貨物についての事故、法令違反等があった場合の税関への連絡方法、手順等について定める。
報告、危機管理 特定輸出貨物についての事故、法令違反等があった場合の社内の報告、連絡体制の整備について定める。
帳簿書類の管理
(記載、保存)
帳簿に記載する者、保管場所、保管責任者を定める。
研修、教育 実施方法について定める。
懲戒規定 法令遵守規則又は法令に違反する行為があった場合の懲戒規定について定める。
 
(4)承認後の義務
 特定輸出貨物の品名、数量等を記載した帳簿を備付け、貨物の輸出に関して作成し、又は受領した書類(仕入書、契約書)とともに輸出許可の日から5年間保存する義務が生じます。
 
3.1.1.4 制度見直しの要望
 これまで各方面から本制度に対する要望が寄せられてきましたが、下記については、平成19年度に見直し措置が講じられる予定となっています。
 
(1)申告官署の弾力化
 貨物を蔵置する場所を管轄する税関と積出予定港を管轄する税関の何れかに申告を行なうことを可能とする。
(2)混載貨物の適用対象化
 本制度の適用対象外となっている混載貨物についても適用対象とする。
 
現行要件 平成19年度見直し(変更事項)
・承認要件
特定輸出申告者として実務能力を有すること、法令遵守規定の制定、法令違反がないこと等

電子情報による申告を承認要件に追加する。
・申告
貨物が置かれている場所を所轄する税関に申告

蔵置場所を管轄する税関、船積み予定地を管轄する税関の何れかに申告可能とする。
・対象貨物
コンテナに混載される貨物を除く。

混載貨物も対象とする。
 
3.1.1.5 制度改革の課題5
 上記運用上の課題については、見直しがなされることになりましたが、法令遵守規定に記載すべき事項は、経済産業省所轄の輸出貿易管理に関する法令遵守プログラムとも重複するところもあり、当該輸出貿易管理規定に準拠する等統一的運用についての要望がなされています。この要望に対しては、輸出者の負担軽減の観点から関係省庁とも連携を図っていくとの財務省考え方が示されていますが、コンプライアンスが確保されることを前提に申請者の負担が軽減されるよう要件の緩和等についての継続的検討が望まれます。
 
 また、包括事前審査制度6の今後のあり方について、廃止を含めて検討を行い、方向性が定まった段階で公表する、とされていますが、利用者の利便性を図る観点からも包括事前審査制度との並存を求める要望が極めて大きいと考えます。
 
5 セキュリティの確保及び法令遵守体制の確立を反映した税関制度の検討についての財務省意見募集結果(平成18年12月6日)
6 同一種類の貨物を継続して輸出する場合、予め包括的に審査を行なうことにより輸出通関の迅速化を図ることを目的とする制度。
 
参考)輸出申告制度の比較
通常の輸出申告制度 包括事前審査制度 特定輸出申告制度
申告の時期 保税地域に搬入した後 同左 保税地域外の自社施設等に置いたままで申告が可能
対象貨物 全ての貨物 継続して輸出する同一種類の貨物(輸出統計品目番号の上4桁が共通するもの) 適用除外貨物:一の海上コンテナに混載される貨物、航空貨物のうち、他の荷主の貨物とともに一のULDを利用して輸出される貨物、コンテナに詰め込んで輸出する貨物以外の貨物(注1)、武器・懸念4カ国向け貨物、再輸出免税、加工再輸入減税適用貨物
仕入書提出 輸出許可後3日以内に提出 同左 提出省略
承認の審査等 なし 法令遵守体制等の審査 同左
承認有効期限 なし 3年を超えない期間(注2) なし
帳簿等の備付、保存 輸出貨物の品名、数量、許可日等を記載した帳簿の備付け、船積関係書類の保存 同左 特定輸出貨物の品名、数量、許可日等を記載した帳簿の備付け、船積関係書類の保存
輸出貨物の管理 なし 同左 特定輸出貨物通関リストの整備
1)平成19年度関税改正により混載貨物も特定輸出申告制度の対象。
2)平成18年3月の特定輸出申告制度導入に伴い、更新期限は平成20年12月末までとなっています。


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