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第2部 各論
1. 欧米におけるセキュリティ強化への取り組み
 総論では、米国の「SAFE Port Act of 2006」及びWCOの「認定された経済関連業者ガイドライン」およびECの「認定された経済関連業者;標準と基準のガイドライン」の制度的枠組み及びその概要をとりまとめているので、第1章では、主としてセキュリティ関連の標準化や関連する社会実験、技術開発動向を中心に整理します。
 
1.1 米国のセキュリティ対策の動向
1.1.1 セキュリティ対策の経緯
 
1.1.1.1 DHS設立
 2002年11月25日、国土安全保障体制の再編を目的とする「2002年国土安全保障法」(Act to establish the Department of Homeland Security, and for other purposes., Nov.25,2002, Pub.L.107-296, 116 Stat.2135)が成立しました。この法律によって、テロ対策を中心とした8省庁、22機関の組織機能を再編・統合し、2003年1 月23日には、「国土安全保障省」(Department of Homeland Security)が正式発足しました。
 
1.1.1.2 国土安全保障省CBPのテロ対策の概要
 税関業務の基本的方向性は、以下の3本の柱から構成されています。
(1)「より安全で効率的な国境の構築」(CBPの最重要課題となっているテロ対策の国境安全強化)
(2)「IT・自動化」(次世代税関システムACE等の開発)
(3)「その他伝統的業務」(密輸阻止、関税徴収等)
 このうち(1)の「より安全で効率的な国境の構築」の内容は、以下の施策から構成されています。
 
(1)ハイリスクなヒトと貨物の発見能力の強化
(1)事前電子情報の入手
 国際貨物のマニフェスト事前申告ルール(24時間ルール)
 事前旅客情報システム(APIS: Advance Passenger Information System)
(2)ナショナル・ターゲティング・センター(NTC)
(3)自動ターゲティングシステム(ATS)(APISの貨物版)
 
(2)他国との協力による米国のセキュリティ・ゾーンの海外への拡張
(1)貨物CSI(Container Security Initiative)
(2)旅客ISI(Immigration Security Initiative)
 
(3)民間との協力による米国のセキュリティ・ゾーンの海外への拡張
(1)C-TPAT(Customs-Trade Partnership Against Terrorism)
(2)FAST(Free and Secure Trade):カナダ、メキシコ国境トラック輸送対策
 
(4)大量破壊兵器発見のための先進検査技術・装置の配備(港湾・空港)
 非破壊検査装置(NII: Non Intrusive Inspection)の利用:外部からコンテナ内の積載貨物を透視できるX線検査装置やガンマ線検査装置を配置
 
(5)国境監視向上のため先進モニタリング機器の配備(国境)
(1)統合監視システム(ISIS: Integrated Surveillance Intelligent System)
(2)無人偵察機(UAV: Unmanned Aerial Vehicles)
カナダ、メキシコ国境におけるカメラ、センサー装置及び偵察機器
資料:小黒、岡「税関のテロ対策」財務総合政策研究所、PRI Discussion Paper Series(No.06A-25)、2006年8月
 
 米国では、SAFE Port Act of 2006の制定(2006年10月13日)以後、連邦議会選挙によって民主党が多数を占めたこともあり、国家安全保障省の役割も含めて民主党主導によるテロ対策の全面的な見直しが進められています。
 同時に、「SAFEPortAct2006」では、米国の主要22港で平成19年末までに全輸入コンテナについて放射性物質探知検査を実施するとともに、CSIとC-TPATを成文化し、両施策を強力に推進するとされています。平成19年1月には、海外の港湾における米国向け全コンテナ貨物の検査を義務付ける法案(H.R.1)が米国下院議会で可決され、セキュリティ確保策をより一層強化する動きもあります。
 
1.1.2 セキュリティ対策の技術的な概要
 米国では、米国規格協会(ANSI)内にホームランドセキュリティ標準パネル(HSSP)を設けて多様な分野の標準規格の作成を進めています。
 
1.1.2.1 リスクマネジメント(危機管理)の概要
 セキュリティ施策の基本となるコンセプトにリスクマネジメント(危機管理)があります。リスクマネジメントでは、以下のような項目を特定して、対応手段や方法を整理し、各種手法の適用効果、被害時の影響等の分析、対策の有効性・長短の分析をふまえた対策の作成が必要になります。
・対応すべき目標となる脅威の種類
・目的
・破壊の程度
・発生頻度
・利用機器(武器)、大量破壊兵器
・輸送・爆破の方法
・強制的攻撃や内通による攻撃か
・遠距離からの攻撃か直接攻撃か
・遠隔操作による爆破か自爆か
 
テロ対策の戦略モデル
 
 また、どのようなリスク管理でも、無制限に資源を投入できるわけではありませんので、費用対効果(被害の軽減度)に応じて実行可能かつ合意可能な施策を検討することが必要になります。
資料:Todd Stewart, Ph.D., ANSI HSSP, Perimeter Security Standards Task Group, September 29-30, 2005
 
危機管理の費用対効果
 
1.1.2.2 施設保安基準
 標準規格のうち我が国ではあまり馴染みがありませんが、警備保障やTAPAの認定基準にも関連の深い分野では、施設保安設備の設置基準規格があります。
 施設保安基準は、通常の技術基準に加えて、以下のような機能を特定しています。
・目標の特質
・目標のリスク(脅威・脆弱性・被害の程度)
・予算制約・許容可能なリスクの水準
・保安措置の費用対効果(各種選択肢のリスク軽減度に関する費用対効果比較)また、施設保安基準は、下記の点を考慮する必要があります。
・技術的実行可能性
・法制度的実行可能性
・社会的許容可能性
・商取引への影響
・環境への影響
・政治的制約
・法令遵守
・検証可能性等
資料:Todd Stewart, Ph.D., ANSI HSSP, Perimeter Security Standards Task Group, September 29-30, 2005
May 17th ANSI-HSSP Workshop on Perimeter Security Standardization
 
 ANSI HSSPにおける施設保安基準作成WGの概要は、以下のとおりです。
 
(1)目的
 施設保安のために有効かつ実用的な基準の開発を促進すること。
 
(2)成果目標
 多様な標準規格開発組織が、ホームランドセキュリティに関する施設保安基準を開発することを支援し、考慮すべき事項を勧告すること。
 ホームランドセキュリティと国防に責任のある政府部門にとって、これらの規格は、有効かつ実用的なリスク管理施策、戦略及び規則の整備にとって重要です。
 
(3)戦略
 標準化作業部会の戦略は、主要な用語の定義を行い、関連する問題を整理し、保安施設基準の判断基準を作成し、既存施設の整備水準とのギャップ分析を行い、標準規格を開発し、政府、産業界、貿易組織及び研究機関などの全ての利害関係者に研究成果を提供することです。
 保安施設は、他の多くの標準開発プロジェクトに横断的に関連しているので、その相互調整が大きな課題になっています。
 
図 施設保安基準の基本的枠組み1
 
図 施設保安基準の基本的枠組み2
 
(4)標準規格の構成要素
・目標
 認証されたアクセスを損なうことなしに、未認証のモノ、人、保護すべき行事へのアクセスを排除すること。
 適切な保安施設を最低の費用で提供すること。
 適切な保安施設は、有効性・信頼性に関する標準に適合した施設であること。
 
・施設保安運営システム標準
 施設保安の全システムは、特定の脅威の結果を防御し、遅延させ、軽減させるものです。人(内部・外部)、所有、活動、ハードウエア(障壁、センサー、照明、施錠等)、ソフトウエアなどのサブシステム標準は、積極的・受動的活動の双方に関係します。
 
(5)今後の課題
・問題領域の特定、ギャップ分析の基本的・理論的枠組みをつくること。標準規格の要求仕様を特定し、既存標準規格及び開発中の標準規格を評価し、開発すべき標準規格を特定すること。
・化学産業を規制するための法制度を分析評価すること。
・各政府部門や関連機関の責任のある各種標準化団体の間の情報共有を図り、所要の改善を図ること。


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