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3.4 WCO「認定された経済関連業者ガイドライン」
3.4.1 AEOガイドラインの構成
 「認定された経済関連業者ガイドライン」は、以下のような構成になっています。
1. 条件、要件及びベネフィット
序論、定義、税関とAEOのための条件と要件、AEOに対するベネフィット
2. 認証(Validation)と認定(Authorization)
序論、申請(application)と認定(authorization)、認証手順(validation procedure)、再調査(review)と保守(maintenance)、将来の開発
付属書:Process outline for businesses involved in the handling of cargo within the international trade supply chain
3. 相互認識(Mutual Recognition)
序論、AEOに関する相互認識、税関監視に関する相互認識、WCOの役割
 
3.4.2 ガイドラインの必要性
 WCOは国際貿易における物流のセキュリティと円滑化のための標準を設計しました。これはWCOの2005年6月総会で「SAFE枠組み」(SAFE Framework of Standards、または“SAFE Framework”と略称)として採択され、大多数の加盟国の税関当局が「SAFE枠組み」の導入手続を始める意思表示をしています。
 
 この「SAFE枠組み」は「認定された経済関連業者」(Authorized Economic Operator: AEO)というコンセプトと一体となっているので、WCOは新しいプログラムを遅滞なく発足させたいと考えて、グローバルサプライチェーンのセキュリティと円滑化に関する最も重要な「AEOの概念」に関する詳細な規定の開発に取り組みました。
 
 「認定された経済関連業者ガイドライン」(WCO SAFE Framework of Standards, Authorized Economic Operator Guidelines)は2006年6月に採択された文書で、WCO加盟国と国際貿易業界との間におけるグローバルレベルでのAEOを導入するための基本的な技術ガイドラインです。これは、「SAFE枠組み」の「ピラー2 税関対民間パートナーシップ」に述べられている基準の有効な適用を支援するものです。このガイドラインは、グローバルレベルで税関とAEOの双方に長期的に適用される標準を規定しています。これらのコア国際標準は、目的達成に携わるすべての当事者が従わなければならない基準線(baseline)を形成するものです。また、このガイドラインに、各国の税関当局が個別的に補足的国内基準を挿入することができます。
 
 国際貿易サプライチェーンとは、様々な貿易取引関連分野を代表する参加者たちから成る一連の構成物です。あるサプライチェーンは、特定の国に定期的に輸入する業者の立場から見ると、長期的基盤で同じ業務を反復して行うという点で、永続的な性格を持っています。他のサプライチェーンでは、個々の輸入取引を行うにあたり、取引相手や運送・保管・通関などの関係者の組み合わせを変えることがあります。それぞれの貿易サプライチェーンが定期的なものであるか、臨時的なものであるかにかかわらず、税関は、貿易サプライチェーンのどの部分をも持たないことを認識しています。グローバルサプライチェーンは、チェーンのひとつひとつを担う多数の民間業界が所有するので、民間の関連業者の支援と参加が「SAFE枠組み」の成功にとって必須となるのです。
 
 「SAFE枠組み」のセキュリティと円滑化の目的達成のため、税関当局は、今後ますます近代化され、国際貿易取引業界のために調整・改善される税関業務の分野で、透明性かつ協力的な姿勢をとらなければなりません。国際貿易・国際運送業界は、それぞれの業務の迅速・安全管理について、税関行政の役に立つような経験と知識を持っています。民間業界は、税関と新しい関係を築き、セキュリティに関する委任契約に従って税関行政に協力することが求められています。
 
 民間業界の支援を集め、維持するために、AEOの地位(status)について明確に記載した文書が必要になります。AEOの地位の条件(conditions)と要件(requirements)について共通の理解が必要であり、これらは国内AEOプログラムの中で詳細に列挙されなければなりません。基本的なことですが、第一歩として、「SAFE枠組み」計画の参加者が理解できるように具体的なベネフィットを明確に提示しなければなりません。WCO加盟国の税関当局が提供するベネフィット、ならびにグローバルサプライチェーンの強化に積極的に参加するベネフィットについて、民間業界が正しく評価することが、現行のセキュリティ対策を強化する過程で生じる追加コストの正当性を認めてもらうための重要な要因です。明確かつ具体的なベネフィットが民間業界に対するインセンティブを提供するのに役立ちます。
 
 WCO加盟国の税関当局は、AEOプログラムをスタートするにあたり、種々の困難な問題に直面するであろうが、ただ一つはっきりしていることは、現在、税関は世界の経済的・物質的な福利の安全確保の主要な参加者として、グローバルサプライチェーン全体を通して貿易の流れを守ることによって、税関のグローバル・プロフィールを高める時代になってきたことです。WCO加盟国の税関は、独自のAEOプログラムの開発に取り組む範囲内で、AEOプログラムを上手に管理できます。AEOガイドラインはこのような開発達成のベースラインです。
 
 最後に、各加盟国が相互にAEOを認識するグローバルシステムがいつか完成して、これによって、WCO加盟国および事務局は、「SAFE枠組み」が、次第に「段階的アプローチ」(phrased approach)という形で導入され、将来的に、AEOプログラムに関する税関の管理システムを相互に認識できるようになることを期待しています。税関と民間業界のパートナーは、できるだけ速やかに「SAFE枠組み」の導入に肯定的な行動を起こすことを条件として、その勢いをとらえて、国際サプライチェーンのセキュリティと円滑化の双方に一層の有効性を高める努力をすべきです。
 
3.4.3 定義
 AEOガイドラインで使用されている若干の用語の定義は以下のとおりです。
・「認定された経済関連業者」(Authorized Economic Operator)とは、「基準の枠組み」によると、25どのような機能であれ、物品の国際移動に携わり、WCOや同等のサプライチェーン安全基準を遵守しているとして国家の税関に承認されるか、またはそれを代行する者をいう。認定された経済関連業者は、特に、製造業者、輸入者、輸出者、通関業者、運送業者、混載業者、仲介業者、港湾、空港、ターミナルオペレーター、総合オペレーター、倉庫業者、卸業者を含みます。
 
・「船積み・輸送手段」(Shipment or transport conveyance)には、海上貨物コンテナ、航空機用コンテナ、トラック・トレイラー、鉄道貨車を含みます。
 
・「第三者認証者」(Third party validator)とは、セキュリティ評価の検討および関連する認証手続を行うために税関当局が雇用する外部(税関以外)の実体をいいます。AEOの資格およびベネフィットのレベルを認定する税関当局者は第三者認証者になることができません。
 
・「認定」(Authorization)とは、「SAFE枠組み」のコア国際基準に従って、AEO申請者が提出した書類、物理的な作業現場、セキュリティ手順などの点検といった手順を含めて、AEOプログラムの中でAEOの地位を認めることです。
 
・「段階的アプローチ(Phased approach)とは、「SAFE枠組み」および「AEO文書」をキャパシティに応じて、AEOの地位の相互確認を達成する目的に従って、税関当局が段階的に導入することをいいます。
 
・「認証」(Validation)とは、AEOのサプライチェーン手順、その資格に到達するためのすべての関連手順は、税関当局及び/又は税関が指定した第三者認証者によって完全かつ透明的に調査することをいいます。
 
25 World Customs Organization, Framework of Standards to Secure and Facilitate Global Trade, June 2005, Foot Note 1, at p.8.
 
3.4.4 税関とAEOのための条件及び要件
 「SAFE枠組み」は、国際サプライチェーンの複雑性及びリスク分析に基づくセキュリティ対策の適用と導入を是認しています。そこで、「SAFE枠組み」は、AEOのビジネス・モデルに基づくセキュリティ計画の柔軟性と特殊性を容認するのです。ある税関で確認されているベスト・セキュリティ標準とベスト・プラクティスがこのガイドラインの中で検討されています。これらは、AEOの地位を求める貿易関係業界がリスク評価とAEOのビジネス・モデルに基づいて日常の業務に取り入れることを要請されている標準、慣行及び手続なのです。
 
 WCOの「AEOガイドライン」に述べられている税関で確認されているベスト・セキュリティ標準とベスト・プラクティスは、IMO、UN/ECE、ICAOといった国際機関が制定したセキュリティ要件と一部または全部が同じ構成です。詳細説明は省略しますが、大項目は以下の通りです。
 
A. Demonstrated Compliance with Customs Requirements
B. Satisfactory System for Management of Commercial Records
C. Financial Viability
D. Consultation, Co-operation and Communication
E. Education, Training and Awareness
F. Information Exchange, Access and Confidentiality
G. Cargo Security
H. Conveyance Security
I. Premises Security
J. Personnel Security
K. Trading Partner Security
L. Crisis Management and Incident Recovery
M. Measurement, Analyses and Improvement
 
3.4.5 AEOに対するベネフィット
 「SAFE枠組み」は4つの主要要素(core elements)26を前提としていますが、そのうちの最後の要素が税関と民間とのパートナーシップにおける基準の中心になっています。また、「SAFE枠組み」の3.3項「税関と民間とのパートナーシップの柱」に、考慮すべき問題点が述べられています。結論的に言うと、「SAFE枠組み」の効果的な導入は、グローバル貿易におけるセキュリティ強化と円滑化とのバランスを打ち出すことによって実現が可能になり、このようなバランス対策がAEOに対する具体的なベネフィットの提供です。
 
 WCO加盟国は、自国の法令に照らして、税関管理の範囲内で可能な限りのベネフィットを定めて、提供することが望ましいと考えます。「SAFE枠組み」の「ピラー2の基準3-認定(Authorization)」は、このようなベネフィットを具体的に作成する手順と手続を示しています。AEOでない業者と仕事を一緒に行い、通常の手順で到達できる結果に至らなかったとき、AEOに提供するベネフィットが、通常の手順で到達できる結果を超える、それ以上の結果を可能にするものであることを、はじめて理解されます。
 
26 「SAFE枠組み」1.3項。本稿3.2.2.3項を参照
 
 当然のことですが、ベネフィットは有効なインセンティブ効果をもたらすものであり、測定可能かつ報告可能なものでなければなりません。WCOは、研究成果物、条約、加盟国の税関資料、EUの法令、貿易業界の資料などを参考にして、以下のような項目をベネフィットのガイドラインとして作成しました。
 
A. Measures to expedite cargo release, reduce transit time and lower storage costs:
1. A reduced data set for cargo release;
2. Expedited processing and release of shipments;
3. Minimum number of cargo security inspections;
4. Priority use of non-intrusive inspection techniques when examination is required;
5. Reduction of certain fees or charges for AEOs in good standing;
6. Keeping Customs offices open on a continuous basis when a tangible need for such coverage has been specifically identified.
B. Providing access to information of value to AEO participants:
1. Names and contact information for other AEO participants, with the consent of those participants;
2. List of all countries adopting the SAFE Framework;
3. List of recognized security standards and best practices.
C. Special measures relating to periods of trade disruption or elevated threat level:
1. Accord priority processing by Customs during period of elevated threat conditions;
2. Priority processing following an incident requiring the closing and re-opening of ports and/or borders;
3. Priority in exporting to affected countries after an incident.
D. First consideration for participation in any new cargo processing programmes:
1. Account-based processing rather than transaction-by-transaction clearance of accounts;
2. Simplified post-entry or post-clearance audit programmes;
3. Eligibility for self-audit or reduced audit programmes;
4. Expedited processes to resolve post-entry or post-clearance inquiries;
5. Favourable mitigation relief from Customs assessments of liquidated damages or non-criminal administrative penalties, except for fraud;
6. Increased paperless processing of commercial shipments for both export and import;
7. Priority response to requests for ruling from national Customs authorities;
8. Eligibility for remote Customs clearance procedures;
9. Ability to file a corrective action or disclosure prior to the initiation of a Customs non-criminal administrative penalty procedure, except for fraud;
10. No penalties or liquidated damages imposed for late payment of duties, with only interest accruing.


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