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3.2.4 国際貿易の安全確保及び円滑化のための基準
3.2.4.1 ピラー1:税関相互の協力における基準19
 税関当局は、貨物及びコンテナの積荷が国際貿易システムの網の目に沿って流れるよう、国際貿易サプライチェーンのセキュリティ及び円滑化を最大化するために、共通かつ受け入れられた基準について効力的に作業を行わなければなりません。税関相互の協力の柱(pillar)は、この目的を達成するもので、テロ及びその他の国際的組織犯罪の影響に対し、国際貿易サプライチェーンの安全確保のための効果的な仕組みを提供します。20
 
 「ピラー1」の中心となる理念は、コンテナ又は貨物がハイ・リスクであるか否かを特定するために事前電子情報を使用することです。電算化された絞込みツールを使用することにより、税関当局は、仕出港において、又はそれ以前のサプライチェーンにおけるできるだけ早い段階で、ハイ・リスクな積荷を特定します。
 
19 「平成17年度セキュリティ強化の環境下における貿易手続簡易化特別委員会報告書」(平成18年3月刊)の巻末付録「世界税関機構『国際貿易の安全確保及び円滑化のための基準の枠組み』(2005年6月)」から引用。
20 WCO「枠組み」に参加する税関当局は、「ピラー1」の標準化について、改正京都規約、ISCMガイドライン、各国の国内プログラムを引用することが参考になります。また、「ピラー1」にかかる技術的事項は、付属書1に提示されています。
 
 「ピラー1」は、以下の11の基準(standards)から構成されています。
基準1−統合されたサプライチェーン管理(Integrated Supply Chain Management)
 WCOの「統合されたサプライチェーン管理に関するガイドライン」(ISCMガイドライン)に概説されているように、税関当局は、統合された税関管理手続に従うべきである。
基準2−貨物検査権(Cargo Inspection Authority)
 税関当局は、当該国から積み出され、離れ、通過し(積荷状態のままを含む)、または積替えられる貨物を検査する権限を有する。
基準3−検査機器における近代的技術(Modern Technology in Inspection Equipment)
 非破壊検査機器(Non-intrusive inspection(NII)equipment)及び放射線検知器(Radiation detection equipment)は、可能な場合にはリスク評価に沿って、利用可能であり、検査を実施するために使用されるべきである。この機器は、貿易の流れを阻害することなしに、迅速にハイ・リスクなコンテナ又は貨物を検査するために必要である。
基準4−リスク管理システム(Risk-Management Systems)
 税関当局は、潜在的にハイ・リスクな積荷を特定するためのリスク管理システムを確立し、そのシステムを電算化すべきである。システムは、脅威評価の認証(validating threat assessments)、絞込みの決定(targeting decisions)、ベスト・プラクティスの明確化のための仕組みを含む。
基準5−ハイ・リスク貨物又はコンテナ(High-risk Cargo or Container)
 ハイ・リスク貨物及びコンテナの積荷とは、ロウ・リスクと考えるには情報が不十分であること、戦術的な情報がハイ・リスクを示していること、または、安全確保に関連したデータ要素に基づいたリスク評価手法が、ハイ・リスクとして特定しているような積荷をいう。
基準6−事前電子情報(Advance Electronic Information)
 税関当局は、時間内に十分なリスク評価を実施するために、貨物又はコンテナの積荷に関する事前電子情報を必要とすべきである。
基準7−絞込みとコミュニケーション(Targeting and Communication)
 税関当局は、共同の絞込みや選定(screening)のために、標準化された一連の絞込み基準の使用、互換性のある伝達手段及び/又は情報交換の仕組みを準備すべきである。これらの要素は、将来における監視の相互認証システムの構築を支援する。
基準8−達成度指標(Performance Measures)
 税関当局は、審査された積荷の数、ハイ・リスクとした積荷の数、ハイ・リスクな積荷の検査の実施数、非破壊検査技術によるハイ・リスクな積荷の検査数、非破壊検査技術及び物理的手法によるハイ・リスクな積荷の検査数、物理的手法のみによるハイ・リスクな積荷の検査数、通関時間及び検査の該非結果数を含むが、しかしこれらに限定されない、達成度指標を有する統計的な報告を維持すべきである。これらの報告はWCOにより集約される。
基準9−安全評価(Security Assessments)
 税関当局は、国際サプライチェーンにおける物品の動きに関する安全評価を実施するために、かつ特定されたギャップの迅速な解決にコミットするために、他の管轄権を有する当局と共に取組むべきである。
基準10−職員規律(Employee Integrity)
 税関当局及び他の管理権を有する当局は、職員規律における腐敗の防止、違反の明確化及び対処のための計画を必要とすることを奨励すべきである。
基準11−輸出安全検査(Outbound Security Inspections)
 税関当局は、輸入国の妥当な要請により、ハイ・リスクなコンテナ及び貨物の輸出安全検査を実施すべきである。
 
3.2.4.2 ピラー2:税関と民間とのパートナーシップにおける基準21
 各税関当局は、国際貿易サプライチェーンの安全確保に民間企業を関与させるために、民間部門とのパートナーシップを構築する。「ピラー2」の主な焦点は、サプライチェーンにおける民間企業の役割に照らして、高度なセキュリティ保証を提供する民間企業を特定するための国際システムの構築である。これらの民間のパートナーは、迅速な業務処理及びその他の措置の形によるベネフィットを享受すべきである。
 
 民間のパートナーが、認定された事業者の地位(authorized operator status)になることで享受できる最低限のベネフィットに関する一般的合意が必要になります。ベネフィットには、ロウ・リスク貨物の迅速な税関手続、安全性のレベル向上、安全確保の効率化による最適化されたサプライチェーンのコスト、組織の評価向上、ビジネス機会の向上、税関手続の要件についての理解の向上、AEOと税関のコミュニケーションの向上が含まれます。
 
21 前掲脚19と同じ資料から引用。
 
 「ピラー2」は、以下の6つの基準から構成されています。
基準1−パートナーシップ(Partnership)
 国際貿易サプライチェーンに係わっている「認定された経済関連業者」(AEO)は、彼らの内部の方針及び手続が仕向地において税関管理から開放されるまでの間、積荷及びコンテナを危険にさらすことに対する十分な予防措置を提供していることを確実にするため、事前に決定した安全確保の基準及びベスト・プラクティスに照らして測られる、自己評価プロセスに従事する。
基準2−安全確保(Security)
 AEOは、事前に決定された安全確保のベスト・プラクティスを、既存の民間のプラクティスに組み入れる。
基準3−認定(Authorization)
 税関当局は、貿易業界の代表と共に、AEOという地位を通じて民間企業へインセンティブを与える認証プロセス(validation processes)又はクオリティ認定手続(quality accreditation procedures)を作成する。
基準4−テクノロジー(Technology)
 全ての関係者は、近代的科学技術の円滑な使用を促進することによって貨物とコンテナの完全性(integrity)を維持する。
基準5−コミュニケーション(Communication)
 税関当局は、最低限の安全確保のための基準及びサプライチェーンの安全確保のためのベスト・プラクティスを促進するために、税関と民間のパートナーシップ・プログラムを定期的に更新する。
基準6−円滑化(Facilitation)
 税関当局は、税関領域から生じ、通過する国際貿易サプライチェーンの安全確保及び円滑化を最大化するために、AEOと協力的に作業を行う。
 
3.3 WCO「SAFE枠組みに関する決議」22
3.3.1 経過
 WCOは2005年6月の総会で、「グローバル貿易の安全確保及び円滑化のための基準の枠組み」(Framework of Standards to Secure and Facilitate Global Trade)23(以下、「SAFE枠組み」と略称します)を採択しましたが、2006年6月の総会で「SAFE枠組みに関する決議」(Resolution of the Customs Co-operation Council on the Framework of Standards to Secure and Facilitate Global Trade, June 2006)を採択しました。
 
 WCOは2004年6月総会で、「国際貿易サプライチェーンに関するグローバルセキュリティと円滑化方策の決議」を採択し、これに従って「ハイレベル戦略グループ」(High level Strategic Group)[以下、HLSGと略称]が設置されました。2005年6月、「SAFE枠組みに関するする決議」24を行いました。これによりHLSGの委任事項の中に、「SAFE枠組み」を導入するためのガイドライン開発を追加しました。
 
22 Resolution of the Customs Co-operation Council on the Framework of Standards to Secure and Facilitate Global Trade, June 2006.Customs Co-operation Councilは、世界税関機構(World Customs Organization: WCO)の正式名称です。
23 世界税関機構「グローバル貿易の安全確保及び円滑化のための基準の枠組み」(仮訳)は、「平成17年度セキュリティ強化の環境下における貿易手続簡易化特別委員会報告書」(平成18年3月)の巻末に付属資料として掲載されています。
24 Resolution of the Customs Co-operation Council on the Framework of Standards to Secure and Facilitate Global rade, June 2005.
 
3.3.2 決議の内容
 WCOは、「SAFE枠組み」の導入に集中する必要性を認識し、以下の決議を採択しました。
(1)「SAFE枠組み」の導入
1.1 事務局は、HLSGと協議の上、「SAFE枠組み」の「税関相互の協力の柱」(the Customs-to-Customs pillar)の導入を提案するため加盟国から選出された専門家グループを設置し、次期政策委員会に中間報告する。
1.2 事務局長は、関係加盟国に対して「SAFE枠組み」を導入するパイロット計画に参加するための支援と指導を確保し、HLSGおよび副議長と協議してパイロット計画の進捗状況をモニターする。
1.3 各地域担当副議長は、HLSGが承認したメカニズムに従って担当地域における「SAFE枠組み」の導入の促進、助言ならびに報告を継続して行う。
1.4 事務局長は、HLSGと協議の上、「SAFE枠組み」の政策的理解およびこれを支援するための閣僚級フォーラム開催の可能性を検討する。
1.5 事務局は、「SAFE枠組み」を推進し,21世紀における税関の役割を強化するため強力なコミュニケーション戦略を展開し、各国政府、民間企業、その他の国際機関が「SAFE枠組み」のベネフィットについて理解を深めるように努める。
 
(2)21世紀における税関
2.1 事務局は、次期政策委員会が検討する文書(最終案)を作成する目的で、21世紀における税関の役割に関するコメントを収集する。
2.2 事務局は、次期政策委員会で検討するために、21世紀における税関の役割に影響を及ぼす特別な環境要因および税関の役割を拡大する機会について分析する。
 
(3)認定された経済関連業者(AEO)
3.1 WCOの「認定された経済関連業者(Authorized Economic Operators; AEO)に関する国際基準」のコアまたはベーシック部分について必要となっている。
3.2 WCOの「AEOに関する国際基準」の目的は、相互確認を行うことができるようにすることであり、これを達成するために、事務局長は作業部会を設置し、次期政策委員会に報告書を提出する。
3.3 「AEOに関する国際基準」は、「SAFE枠組み」に付け加えられる。
3.4 この国際基準には、関税同盟・経済同盟、又は各国の税関などへの必要な条件を追加することができる。
3.5 事務局は、統合されたAEO文書のSection N(案)を2006年7月15日までにすべてのWCO加盟国に送付し、各加盟国は2006年9月1日までにWCO事務局にコメントを提出する。政策委員会は、これらを適宜協議したうえで、次期会合で本件を審議する。
3.6 事務局は、中小企業が「AEOに関する国際基準」の導入に係わり合いを持つよう、本件に関心を有するすべての加盟国および民間業界からなる作業部会を設置し、HLSGが勧告を作成し、これを次期政策委員会に報告する。
 
(4)キャパシティ・ビルディング
4.1 WCOがこれまでに実施したColumbusプログラムに基づくキャパシティ・ビルディングは賞賛に値する。
4.2 WCOは、キャパシティ・ビルディングの促進を調整する作業を引き続き行う。
4.3 Columbusプログラム・モニタリング・パッケージが承認された。
4.4 事務局は、Columbusプログラムに基づくキャパシティ・ビルディングの分析と評価を四半期ごとに提出する。
4.5 Columbus Programme diagnostic missions及び「SAFE枠組み」の導入に関連したキャパシティ・ビルディングに関する決定事項により生じた作業を遂行するための追加的財政力をWCOに提供するためにキャパシティビルディング基金が一層強化される。
 
(5)HLSGの将来の作業
5.1 WCOは、HLSGが政策委員会の活動と審議に協力することを確認する。
5.2 WCOによるハイレベル戦略グループの委任は1年延長された。HLSGの委任は、2004年6月の国際貿易サプライチェーンに関するグローバルセキュリティと円滑化方策に関する決議(Paragraph A)及び2005年6月のHLSGに関する決議(Annex 1)に述べられている。さらに、HLSGは、「SAFE枠組み」に追加する「模造品・海賊版対策に関するAppendix」の作成・勧告に優先順位を与えた。(その後12月に開催された政策委員会にて同Appendixは「SAFE枠組み」から外して別途検討することとなった。)
5.3 HLSGの作業は、次の方法により、加盟国が広く参加できるようになっている。
(a)Better access to documents
(b)Active involvement in current and ad hoc WCO structures
5.4 事務局長は、「SAFE枠組み」及びキャパシティ・ビルディングの導入に関する勧告を開発するため、WCOの各種作業部会に要請し、また必要に応じて、新しい作業部会を設置し、HLSGに対して報告する。
5.5 各地域担当副議長は、それぞれの地域の加盟国に対し、HLSGの会合について報告する。
5.6 事務局は、HLSGの全文書を、WCO加盟国のウエブサイト経由を含め、加盟国が入手できるようにする。
5.7 加盟国は、HLSGが取り組んでいる課題について検討し、各地域担当副議長を通してコメントを述べる機会を有する。
5.8 HLSGは、「SAFE枠組み」の導入状況を調査・評価し、これを政策委員会に報告する。
5.9 各地域担当副議長は、HLSGが検討する予定の文書及び問題点について、HLSGの会合前に各地域の加盟国に諮問する。
 
(6)民間業界との協議
6.1 民間業界諮問グループを継続させる必要がある。
6.2 事務局長は、HLSGと協議の上、民間業界諮問グループのための指針(roadmap)ならびに民間業界諮問グループと取組む課題リストを開発し、次期政策委員会に報告する。
 
(7)国際標準化機構(ISO)との作業
7.1 WCOの政策と標準およびISOの標準との関係を考慮して、WCOとISOの事務局は両機関の関係とそれぞれの役割を明確にする正式手続に取り組み、次期政策委員会に報告する。
7.2 両機関の現在および中期的共同作業計画を策定する。
 
(8)2005年10月のHLSG決議の懸案事項
8.1 事務局長は、2005年10月のハイレベル戦略グループ決議のその他の懸案事項に取り組む。


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