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2.4 テロ行為防止のための税関・産業界提携(C-TPAT)
2.4.1 C-TPATの目的と経緯
 米国関税庁(US Customs Service; 現在のCBP)は2001年11月、「テロ行為防止のための税関・産業界提携」(Customs-Trade Partnership Against Terrorism: C-TPAT)というプロジェクトを発表しました。これは米国の輸入者側のセキュリティ・プログラムです。米国政府は2003年、CBPの監督の下で、グローバルサプライチェーンに係わる国家安全保障(National Security)を強化する目的で、C-TPATプロジェクトを整備しました。CBPは、グローバルサプライチェーンの関係業者(輸入者、運送人、通関業者、倉庫業者、製造業者)との密接な協力によって、最高水準のセキュリティを確保できると確信して、C-TPATを実施しました。
 
 2003年8月18日から、CBPは、メキシコ以外の製造業者および輸出用梱包業者を含む対米輸出関連業者に対して、C-TPATへの参加を奨励しています。さらに、2005年3月25日以降、米国の輸入者は、取引先である海外製造業者がC-TPATのセキュリティ基準を満たしていることを文書で証明することを、CBPによって求められるようになりました。このようにして、グローバルサプライチェーンの関係業者すべてがセキュリティ基準にある場合、輸入者はロウ・リスクである(law-risk importer)と見なされて、一種のベネフィットとして、“green lane”扱いとして貨物検査を省略し、到着後即時引取りが認められます。
 
2.4.2 C-TPATへの参加手続
 C-TPATに参加したい企業は、C-TPATガイドラインに従って、企業内のセキュリティ対策を整備し、サプライチェーン関係の取引先に自社のセキュリティ・ガイドラインを通知することが要請されます。C-TPATに参加するためには、以下の行為を実施する旨の合意(Agreement)をCBPと締結しなければなりません。なお、2005年7月15日以降、C-TPATへの申請手続はすべてOnline C-TPATで行われることになり、紙の書類による申請を受け付けないことになりました。
1)C-TPATセキュリティ・ガイドラインに従って自社のサプライチェーン・セキュリティ評価を徹底的に行うこと。
2)評価の対象には、手続上のセキュリティ、物理的セキュリティ、従業員等の人的セキュリティ、教育・研修、アクセス管理、マニフェスト手続、輸送関係セキュリティです。
3)サプライチェーン・セキュリティ・プロファイルをCBPへ提出すること。
4)C-TPATガイドラインに従って、サプライチェーン全体のセキュリティ強化計画を開発し、これを実施すること。
5)C-TPATガイドラインをサプライチェーンの他企業に知らせて、これらの企業との取引関係にガイドラインを導入すること。
 
2.4.3 SAFE Port ActのC-TPAT関係の規定
 SAFE Port Act of 2006、第II章国際サプライチェーン・セキュリティ、B節テロ行為防止のための税関・産業界提携(Sec.211〜Sec.223)のうち、Sec.211〜Sec.216を以下に紹介します。
 
2.4.3.1 Sec.211 制定
 (a)制定―DHS長官に対して、CBP Commissionerを通じて行動することにより、国際サプライチェーン全般のセキュリティ及び米国の国境セキュリティの強化、並びにC-TPATプログラムの要件を満たす参加者にベネフィットを与えることで、国際サプライチェーンにおける安全な貨物の移動の円滑化(facilitation)を図るため、C-TPATとして知られている自発的な政府と民間企業の提携プログラムを制定する権限が与えられる。C-TPATの参加者には、第1段階、第2段階及び第3段階の参加者が含まれる。
 (b)最小限のセキュリティ要件―DHS長官は、CBP Commissionerを通じて行動することにより、少なくとも毎年1回、C-TPATの最小限のセキュリティ要件を見直し、必要があるときは、これを更新すること。
 
2.4.3.2 Sec.212 対象企業
 国際サプライチェーン及び国際輸送システムに携わる輸入者、通関業者、海貨業者、航空・海上・陸上運送業者、契約物流事業者、及びその他の事業者は、C-TPATプログラムに基づいて、DHSとの提携に自由意志で参加申請を行う資格を有する。
 
2.4.3.3 Sec.213 最小限の要件
 C-TPATに参加を求める申請者は、
(1)国際サプライチェーンにおける貨物移動の記録を証明すること。
(2)CBP Commissionerを通じて行動するDHS長官により制定されたセキュリティ基準に基づくサプライチェーン評価を行うこと。これには次のものを含む。
(A)業務提携契約(Business Partner Agreement)
(B)コンテナ・セキュリティ
(C)物理的なセキュリティ及びアクセス管理
(D)人的セキュリティ
(E)手続上のセキュリティ
(F)セキュリティ訓練及び脅威に対する認識度
(G)情報技術のセキュリティ
(3)CBP Commissionerが定めたセキュリティ基準を満たすセキュリティ対策及びサプライチェーン・セキュリティの実施を向上・維持すること。
(4)Commercial Operations Advisory Committeeと相談して、CBP Commissionerが定めたその他すべての要件を満たすこと。
 
2.4.3.4 Sec.214 C-TPATの第1段階参加者
 Sec.214は、C-TPAT第1段階参加者について、次の規定を定めています。
 (a)ベネフィット―DHS長官は、CBP Commissionerを通じて行動し、次の(b)項に定めるガイドラインに従って認定された第1段階参加者に限定的なベネフィットを提供すること。このベネフィットには、DHS長官が制定したAutomated Targeting Systemに割り当てられたスコアを、high-risk thresholdの20%程度下げることが含まれる。
 (b)ガイドライン―SAFE Port Act施行後180日以内に、DHS長官は、CBP Commissionerを通じて行動することにより、本条に基づくC-TPAT参加者のセキュリティ計画及びサプライチェーン実施状況を認定するガイドラインの最新版を準備しなければならない。
 (c)認定手続期間―DHS長官は、CBP Commissionerを通じて行動することにより、C-TPATへの参加申請を受理した後90日以内に、第1段階の認定手続を完了する。
 
2.4.3.5 Sec.215 C-TPATの第2段階参加者
 Sec.215は、C-TPAT第2段階参加者について、次の規定を定めています。
 (a)確認―DHS長官は、CBP Commissionerを通じて行動することにより、本条(c)項に定めるガイドラインに従って、第1段階参加者のセキュリティ計画及びサプライチェーン実施状況を確認(validate)する。この評価には、第1段階参加者がサプライチェーンで使用している外国の営業所(foreign locations)での現地評価(on-site assessments)が含まれる。また、可能な限り、第1段階参加者として認定した後1年以内に確認が完了すること。
 (b)ベネフィット―DHS長官は、CBP Commissionerを通じて行動することにより、本条に基づいて第2段階参加者と認定されたC-TPAT参加者に対するベネフィットに、以下のものを追加する。
(1)Automated Targeting Systemのスコアを下げる(reduced scores)
(2)貨物の検査回数を少なくする(reduced examinations of cargo)
(3)貨物検査の優先度(priority searches of cargo)
 (c)ガイドライン―本法の施行後180日以内に、DHS長官は、CBP Commissionerを通じて行動することにより、本条に基づく参加者のセキュリティ計画及びサプライチェーン・セキュリティ実施状況を評価するスケジュールを開発し、ガイドラインの最新版を準備しなければならない。
 
2.4.3.6 Sec.216 C-TPATの第3段階参加者
 Sec.216はC-TPAT第3段階参加者について、次の規定を定めています。
 (a)一般規定―DHS長官は、CBP Commissionerを通じて行動することにより、Sec.215に定めるC-TPATの第2段階参加者として評価するガイドラインを超えるセキュリティ計画及びサプライチェーン・セキュリティ実施状況を継続して維持する参加者に対して、さらに追加ベネフィットを提供する、C-TPAT参加の第3段階を設定しなければならない。
 (b)基準―DHS長官は、CBP Commissionerを通じて行動することにより、C-TPAT参加者を本条に基づく第3段階参加者として評価する基準(criteria)を指定しなければならない。この基準には次のものが含まれる。
(1)本法Sec.215に定めるC-TPAT参加者を第2段階参加者として評価するガイドライン、特にサプライチェーン全体を通して貨物へのアクセスを管理するガイドラインを超えるもので、DHS長官が制定した追加的ガイドラインの遵守
(2)DHS長官が決定した船積み前の貨物に関する追加情報の提供
(3)コンテナ・セキュリティ装置、技術、政策またはDHS長官により制定された標準もしくは基準の使用
(4)DHS長官により制定されたその他の貨物要件の遵守
 (c)ベネフィット―DHS長官は、CBP Commissionerを通じて行動することにより、かつthe Commercial Operations Advisory Committeeおよびthe National Maritime Security Advisory Committeeに諮って、本条に定める第3段階参加者として評価されたC-TPAT参加者に対して、次のものを含むベネフィットを追加する。
(1)DHS長官が指定するすべての危険レベルにおいて、米国内の仕向け港で第3段階参加者の貨物の迅速な引渡し
(2)貨物の検査回数の一層の削減
(3)貨物検査の優先度
(4)Automated Targeting Systemのスコア引き下げ
(5)必要な場合、joint incident management exercisesへの包含
 (d)期限―本法の施行後2年以内に、DHS長官は、CBP Commissionerを通じて行動することにより、本条(b)項に従って評価基準を指定し、(c)項に従って第3段階参加者と評価されたC-TPAT参加者にベネフィットを提供しなければならない。
 
3. WCOの「認定された経済関連業者ガイドライン」
3.1 WCOの国際貿易ルールへの取組み
3.1.1 WCOの国際貿易円滑化ルール
 世界税関機構(World Customs Organization: WCO)は1952年に設立された国際機関で、条約上の正式名称は関税協力理事会(Customs Co-operation Council: CCC)ですが、1994年からWCOを使用しています。WCOは長年にわたり国際貿易の簡易化と調和に取り組んできました。WCOの「税関手続の調和に関する国際規約」(1976年発効)は1999年に改正され、「改正京都条約」として知られています。13また、「商品の名称及び分類についての統一システム」(1988年1月発効)14もWCOで開発された条約です。
 
13 「税関手続の簡易化及び調和に関する国際規約の改正議定書」(1999年6月22日ブラッセルで作成された議定書)。日本は1976年に加入しました。欧州連合の近代化関税法は、改正京都規約の線に沿っています。
14 「商品の名称及び分類についての統一システム」は、国際的に統一された商品分類を定める品目表で、あらゆる国際貿易対象品目を6桁ベースで5,051品目に分類しています。日本は1987年に加入。現行の改正HS条約は2007年1月に発効しました。
 
3.1.2 WCOのサプライチェーンのセキュリティと円滑化ルール
 2001年9月11日の同時多発テロ事件後、カナナスキス・サミットの「交通保安に関するG8協調行動」に基づいて、WCOは2002年6月総会で「国際貿易サプライチェーンの安全確保と円滑化に関するWCO決議」を採択し、これに基づいて、タスク・フォース(税関当局、IMO、INTERPOL、ICCなど)が設置されました。2003年6月総会では、「税関間の情報交換に関する税関相互支援条約」(ヨハネスブルグ条約)、「ハイリスク貨物の選別のためのガイドライン」15、「データモデル」の改訂、「UCR (unique consignment reference) Number」の採択、「事前貨物情報の電子交換に関するガイドライン」、「税関と民間との協力に関するガイドライン」などが採択されました。2004年6月総会では、「統合されたサプライチェーン・マネジメントに関する税関ガイドライン」(ISCMガイドライン)16が採択されました。また、この総会で、関税局長・長官クラスで構成される「ハイレベル戦略グループ」(High Level Strategic Group: HLSG)が設置され17、1年間で国際貿易の安全確保及び円滑化を推進するためのWCO「SAFE枠組み」(SAFE Framework of Standardsまたは“SAFE Framework”と略称)を検討することが決定しました。HLSGは3回会合を開いてWCO「SAFE枠組み」を検討し、政策委員会における若干の修正を経て、2005年6月総会において「SAFE枠組み」を採択しました。
 
3.2 WCO「SAFE枠組み」18
3.2.1 「SAFE枠組み」の構成
 「SAFE枠組み」は、(1)序論、(2)ベネフィット、(3)国際貿易の安全確保及び円滑化のためのWCO基準、(4)付属書から構成されています。
 
15 World Customs Organization, Risk Management Guide, June 2003.
16 World Customs Organization, Customs Guidelines on Integrated Supply Chain Management; ISCM GUIDELINE, June 2004.
17 HLSGメンバーは、総会議長(南アフリカ)及び各地域から地域代表を含む2カ国の関税局長・長官クラス。
18 WCO「国際貿易の安全確保及び円滑化のための基準の枠組み」(Framework of Standards to Secure and Facilitate Global Trade, June 2005)を「基準の枠組み」と略称してきましたが、「グローバル貿易の安全確保及び円滑化のための基準の枠組みに関するWCO決議」(2006年6月)、「認可された経済関連業者ガイドライン」(2006年6月)、欧州委員会の資料などで「SAFE Framework」という略称を用いているので、本報告書でも「SAFE枠組み」という略称を使用することにしました。
 
3.2.2 「SAFE枠組み」の概要
 序論は、(1)導入、(2)目的と原則、(3)「枠組み」の4つの中心となる要素、(4)「枠組み」の2本の柱、(5)ベネフィット、(6)キャパシティ・ビルディング、(7)実施の7項目から成っています。
 
3.2.2.1 近代的な税関の役割と機能
 序論の冒頭で、国際貿易は経済的繁栄にとって不可欠な原動力であるが、国際貿易システムは、世界経済全体に深刻な打撃を与えるテロリストの行為に対して脆弱なので、税関当局は、物品の国際的な流れを監視・管理する政府機関として、グローバルサプライチェーンのセキュリティ強化と円滑化を通じて社会・経済の発展に寄与するという特有の立場にあることを強調しています。
 
 国際貿易サプライチェーンのセキュリティ強化と円滑化を継続的かつ確実に進めるためには、包括的なアプローチが必要であり、そのために、税関は他の政府機関との協力的な取決めを開発しなければなりません。また、全ての輸送貨物を検査することは不可能であり、不必要な負担となるので、近代的な税関当局は、様々な問題についてリスク管理を行うための電算システムや先端技術を用いた探知機器などを使用することが必要です。
 
3.2.2.2 目的と原則
 以下のことが列挙されています。
・確実性および予見可能性を促進するために、世界レベルでサプライチェーンの安全確保及び円滑化について規定する基準を定める。
・全ての輸送手段について統合されたサプライチェーン管理を可能にする。
・21世紀の課題及び機会に適合する税関の役割、機能および能力を高める。
・ハイ・リスク貨物を検知する能力を向上させるために、税関当局間の協力を強化する。
・税関と民間業界の協力関係を強化する。
・安全な国際貿易サプライチェーンを通じて物品のシールレスな流れを促進する。
 
3.2.2.3 「枠組み」の4つの中心となる要素
 「SAFE枠組み」は次の4つの主要要素から成ります。
(1)輸出入及び通過貨物に関する事前電子貨物情報の国際的な調和。
(2)国際的に整合的なリスク管理アプローチの利用。
(3)輸出国による非破壊検知機器(大型X線検査装置等)を使用したハイ・リスク貨物の検査の実施。
(4)サプライチェーンの安全基準及びベスト・プラクティスに適合する民間企業に対して税関が与えるベネフィットの明確化。
 上記の4つの主要要素に基づいた「SAFE枠組み」は、税関相互の協力及び税関と民間とのパートナーシップという2本の柱(pillar)に拠っています。(1)〜(3)の要素はピラー1の、そして(4)はピラー2のコアとなっています。
 
3.2.2.4 実施
 「枠組み」が実施(implementation)されるためには、キャパシティ・ビルディングだけでなく、段階的なアプローチ(phased approach)が必要です。「枠組み」が全ての税関当局によって直ちに実施されると期待するのは不合理的で、各税関当局の能力及び法的権限に応じて、様々な段階で実施されます。WCO事務局は、HLSGと共同して「枠組み」の実施計画を開発します。
 
3.2.3 ベネフィット
 「SAFE枠組み」を採択することにより、国/政府、税関当局及び民間企業は様々なベネフィットを享受します。
 
3.2.3.1 国/政府が享受するベネフィット
 「枠組み」の主要な目的の一つは、国際貿易のセキュリティと円滑化なので、これを採択することにより、国際貿易の安全確保及び円滑化により経済成長と開発を促進し、ひいては税収確保や国内法及び規定の適切な適用の向上に資することになります。また、税関と他の政府機関との間の協力的な措置の構築を可能にします。
 
3.2.3.2 税関当局が享受するベネフィット
 「枠組み」の主要な目的の一つは、安全な国際貿易サプライチェーンを通じて、物品のシームレスな流れを促進するために税関相互の協力を構築することです。このことは、ハイ・リスク貨物を探知する税関の監視能力の向上、国際貿易サプライチェ−ンにおける税関業務の向上、税関資源の効率的な配置を可能にするので、これらを通じて税関改革及び近代化に取組む基盤を構築することが考えられます。
 
3.2.3.3 民間企業が享受するベネフィト
 「枠組み」は、国際貿易の安全確保だけでなく、貿易取引の円滑化を図り、手続の簡易化を促進します。例えば、「認定された経済関連業者」(Authorized Economic Operator: AEO)は、検査率の減少を通じて、税関による物品のより迅速な通関処理といったベネフィットを享受することができるので、結果として、時間及びコストの削減につながります。「枠組み」の中心となる原則の一つは、一組の国際基準を作成することであり、このことが、統一性及び予見可能性を構成するのです。これらのプロセスは、AEOが、優れたセキュリティ・システムと業務に対する投資に対して、リスク絞込み評価と検査の減少、迅速な物品の処理を含むベネフィットを享受することを保証するのです。


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