6. 呼吸障害のある子の健康管理
呼吸は、生命維持のため、酸素を口や鼻から取り入れて血液とともに全身をめぐり、代謝の結果生じた炭酸ガスを体外に排出する働きをしています。呼吸には、胸郭の運動による胸式呼吸と横隔膜の運動による腹式呼吸があります(図1-20)。空気を吸入する時は、胸郭を挙上し、横隔膜を沈下させ、深呼吸をする時には、さらに脊柱を伸ばす筋や肩を上に引き上げる挙上筋も補助的な働きをします。炭酸ガスを吐き出す時には、胸郭を沈下させ、横隔膜を挙上させます。呼吸数の測り方は、安静時に腹部に手のひらを当て、上下で1回と数えます。呼吸数は、1分間に腹部が何回上下するかを数えます。新生児に40回以上であった呼吸数も発達とともに減少し、成人になると約半数の16〜18回前後となります。大まかには、1歳代30回、3〜4歳代25回、5〜10歳代では20〜25回となります(表1-10)。
図1-20 呼吸のメカニズム
表1-10 小児の呼吸数
年齢 |
呼吸数 |
新生児 乳児 1年 2〜4年 5〜10年 10〜12年 成人 |
40〜55
30〜45 30〜40 25〜30 20〜25 18〜20 16〜18 |
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(宇留野勝正:「小児保健」. 南江堂. 1973)
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呼吸障害とは、呼吸数の増減、呼吸のリズムの乱れ、呼吸パターンの異常、呼吸の深さの乱れなどがあり、発熱、肺炎、気管支炎、喘息などの病気によって引き起こされます。病気とは関係なく、泣いたり運動したりによっても一時的な乱れが生じますが、数分で元に戻ります。
障害児の場合は、健常な一時的なもの、疾病による一過性のものとは異なり、発達に伴う二次的障害として、主として胸隔の変形や側弯などの合併症とともに徐々に呼吸の障害が出てくるもので、永続する障害といえます。
呼吸障害の出やすいタイプは、全身の筋緊張が低下して、体が柔らかく弾力性のない弛緩型と脳性マヒ児に多い、全身緊張型です。
(1)弛緩型
このタイプの子どもは、一般的に手のかからないおとなしい子どもとしてあお向けに長期臥床していることが多く、両手両足を図1-21のように軽く曲げ、外に開いた姿勢となっており、胸部は偏平で、浅い呼吸状態となります。
図1-21 呼吸障害が出やすいタイプ
弛緩型
呼吸に関係した胸隔は外に開かれ、横隔膜は上に挙がり、腹筋も弾力性がなく、力が入りません。この肢位が長期持続するとちょうどたるんだゴムのように張りがなく、呼吸筋も筋がやせ細り(廃用萎縮)、呼吸機能が低下します。気管支や肺にたまった痰なども排出しにくくなり、沈下性肺炎を起こしやすくなります。
(2)全身緊張型
このタイプの子どもも、肩や胸隔はあお向けになった状態で長期に寝ていることが多く、反射の成熟や運動発達が遅れ、徐々に胸郭や腹部の変形が出てきます。弛緩型よりも顕著な変形となり、左右は非対称性となります。
胸郭を見ますと、肋骨下部が突出して上に引き挙げられ、左右の肋骨が外側に開かれ、ゴツゴツした感じになっています。また、横隔膜は左右にピーンと張られて上に引き挙げられ、張りつめたゴムのように平らになります。腹筋も緊張して、まるで背中にくっついてしまうのではないかと思われるほどペコンとひっこませています。
呼吸は、特に呼気が短く浅くなり、呼気と吸気のリズムが乱れ、呼吸パターンの協応障害を示します。口を閉じて鼻で深呼吸をすることは苦手となり、口を開けて浅く呼吸している子どもも少なくありません。小鼻を動かしてあえぐような呼吸をしたり息苦しそうにゼーゼー、ゴロゴロ痰をからませた呼吸になったりもします(喘鳴型呼吸)。
全身に強い緊張が高まった時にはしばらく呼吸を止め、顔を真紅にし、その後あえぐように肩で呼吸をしたり、ひどい時には口唇が紫色に変色してチアノーゼを起こしてしまいます。排痰させると呼吸が楽になりますから、薬局で市販されているスポイトか電動吸引兼用ネブライザーで吸痰させ、呼吸が楽にできる姿勢に変えてあげなければなりません。
(3)呼吸を楽にしてあげる工夫
呼吸を楽にしてあげる方法は、日頃の健康管理として行う場合と、緊急を要する場合の対応方法として知っておかなければならないものと、二通りに分けられます。
日頃の健康保持を目的として行う場合は、あお向けに寝かせっぱなしにしないことです。誰でも同じ方向で長く寝ていることは苦しいものです。あお向けはもちろんのこと、横寝やうつぶせ(首がすわっていない時は見守りながらさせる)に寝かせたり、時には抱っこしたり、お母さんの手で寝る向きを変えてあげて下さい。
図1-22 呼吸が楽になる座位姿勢
特に横寝は胸隔や横隔膜の形を呼吸しやすいように整え、深い呼吸がしやすくなりますから、左右の方向を変えながらその姿勢をとらせ、馴染ませてあげて下さい。馴れていない子どもの場合は、すぐにあお向けに戻ってしまい、一見嫌がっているかのようにみえたり、結構難しい寝かせ方です。横寝の上手なとらせ方のコツについては、 図1-6で紹介していますので参照下さい。
緊急を要する場合は、病気の時や、暑い時、体調の悪い時などに全身の緊張が強度に高まった時に起きます。このような時は、あお向けに寝ている状態は呼吸が苦しいものですから、横抱きにして、エビのように丸めた“ボールポジション”( 図1-14)にしてあげて下さい。ある程度おさまったら、図1-22のように座位姿勢をとらせてあげて下さい。次に、痰がからみ、つまったりしますから吸引器で素早く取ってあげて下さい。取り方は専門家や先輩のお母さん方から教わって下さい。
いつもと様子が異なってグッタリしたり、呼吸をしばし止めたり、チアノーゼが長く深い様子の時には緊急を要します。至急主治医のもとにかけ込んで下さい。夜中なら緊急外来を利用します。日頃から注意深く観察を行い、自分で見定める目をしっかり養い、また、主治医とのコンタクトをよくしておき、いつでも救急対応できるように準備しておかないと、とっさの時に焦りあわてて、適切な対応ができにくいものです。また、健康保険証や財布、タオル、オムツ、着替えなどの必要品をバッグに詰め、いつでも入院できるよう準備しておくことも賢明です。
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