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4. 外気浴、日光浴、運動(体操)
 外気浴、日光浴、運動は、障害の有無を問わず健康を保つ上で大切です。重度障害のある子どもの場合は、発熱や風邪をひきやすいなどの理由からそれが過度に制限され、逆に病気に罹りやすい虚弱体質をつくってしまうということもあります。日中トロトロ眠っていて食事以外は寝たきりの生活が長く続くと、顔は青白く、皮膚や粘膜も弱くなり、皮膚病にも罹りやすくなります。
 子どもは日光浴や運動が大好きです。食欲があり機嫌の良い時はチャンスです。平常時には時間や回数をあらかじめ決めて生活日程に組みこんでみて下さい。しかし、あまり神経質に捉われ過ぎないで、一般状態の良い時や目覚めた頃をみはからって臨機応変にさせて下さい。
 外気浴は散歩や買物又はお出かけなどの機会についでにする程度でもよく、抱いてベランダから外をながめるだけでも結構効果があります。負担にならない程度に工夫してみましょう。
 日光浴をする場合、顔や頭の部分には日が当たらないようにします。帽子をかぶるのもよいでしょう。また、急に全身に直射日光を当てることは避け、下肢から腹部、背部へと様子をみながら広げ、時間も5分、10分と延ばしていきます。
 外気浴にしても日光浴にしても、始める前にオムツを替え、終ったら、白湯、麦茶などの水分を50cc〜100cc程度(牛乳1本は200cc、約半分)飲ませてあげることが大切です。
 日光浴に合せて手足や全身の運動(体操)をさせてあげると、子どもは喜び、毎日くり返していくと楽しみに待つようになります。できれば、歌に合わせて体操コースを作りカセットテープにとっておくことをおすすめします。通園センターや保育園、幼稚園に通っている子どもは、耳に馴染んだ音楽に合せ、そこでやっている体操をお家でもやってあげるのもよいでしょう。
 体操をさせる時は過度な運動は禁物です。関節に拘縮があったり(関節をとりまく軟部組織が固くなってある一定の方向に曲り、運動制限されている状態)、全身の緊張が強く、変形のあるような子どもの場合は、全身運動のさせ方には注意を払わなければなりません。また、関節をどの程度曲げたらよいか、伸ばしてもよいかは、個々人によって異なります。PT(理学療法士)あるいはOT(作業療法士)などの専門家から教わったり注意事項を聞き、その“コツ”を学びますと、お家でも安心してできるようになります。原則は、無理なく、子どもが喜ぶ運動を選ぶことです。
 
5. 清潔を保つ
 清潔感を身につけ、清潔を保つことは、二つの大切な意味があります。一つは健康保持の目的で、もう一つは一人の人間として社会人として生活していく上でのエチケットとしての意味合いです。ところが、お母さん方の関心は、運動訓練やことばの問題、食事、睡眠の問題などに多くが傾けられ、清潔感を育成する大切さは後まわしになりがちです。
 障害を有するゆえに健常児より清潔が保ちにくいという面はあります。特に、歯みがきを含めた口腔内清潔の問題、よだれの問題、皮膚や頭髪、爪の清潔の問題が代表的です。これらは、ちょっとした工夫を試み、できることを毎日の生活の中で励行していくうちに自然に清潔感が身につき、健康を保つことにもなります。
 
(1)口腔内清潔
 口腔内清潔とは口の中をきれいに保つことですが、摂食機能に障害を有している脳性マヒ児にとっては特に困難となります。うがいをしたり、歯をみがいたり、唾液を口の中でコントロールしたり、痰を出したりすることが容易ではないことが大きな理由となっています。食事をする時に、固い物や繊維質の多い食物を咀しゃくしたり、食後に水を飲んだりすることで、いく分口の中の清潔が保たれますが、脳性マヒの子どもにとっては大変苦手な動作です。
 それではどのようにして障害部分をカバーしながら口腔内清潔を保ってあげたらよいのか、工夫の仕方、介助の仕方を紹介します。
 
口の中に食物を残さない工夫
 高口蓋といって、硬口蓋から軟口蓋部分が深く掘れたように溝になっている子どもが多くいます(図1-13)。ペースト状の食物がその溝に入り込み、ベタッと張りついて何時間もそのままになっていると、口臭や歯を悪くする原因となります。普通は、舌先で取ったり、果物などを口を回転させるようにして噛みくだく動作の中で自然にとれるものですが、これは障害ゆえに難しい動作ですから、お母さんのひとさし指で取ってあげて下さい。
 ただし、咬反射といって、上下の歯を咬みしめるように閉じて自分で口を開くことのできない原始反射が残存している子の場合、お母さんの指を咬まれてしまうことがありますから、まず、口を開けることができるように全身の緊張をボールポジションにして緩め、下顎を胸の方へ近づけるように頭を前屈させておいてから、気をつけてすばやく指を入れて取ってあげて下さい。
 食事の終り頃に、みそ汁や麦茶、白湯などを数回に分けて飲ませることも、上顎に張りついた食物をとりやすくし、口の中をさっぱりさせてくれます。
 
歯みがきの工夫
 歯みがきも苦手な子どもが多く、虫歯、歯周炎、歯槽膿漏に罹りやすい状態になっています。痛みが出て歯科受診するのはもっと大変なことです。そうなる前に予防したいものです。
 歯は、特に咀しゃくすることで歯茎を丈夫にし発達させるものですが、咀しゃく機能そのものがまだそのレベルまで発達していなかったり未熟ですから、歯を支える土台となる歯茎も軟弱になってしまいます。歯の健康もさることながら、歯茎を丈夫にすることも大切なことです。それには何といっても歯みがきが一番です。
 
図1-13 高口蓋の口腔内清潔
a 頭頸部の断面
 
b 口腔の前面
 
 口腔機能障害があると、歯ブラシを口に入れる時、口を自分の意志で開閉したり唇を閉じることが困難です。歯ブラシをせっかく口の中に入れても咬んでしまい、動かすことができません。無理にさせようとしたり叱ったりすると、ますます全身の緊張が高まり、あげくの果てには歯みがきが大嫌いになり、やりにくくなります。
 このような場合は、歯ブラシを使わないで、ガーゼか脱脂綿を塩水にひたして軽くしぼったものをお母さんのひとさし指に巻いて、歯の外側部分と歯茎部分の清掃をします。この時注意しなくてはいけないことは、口唇のまわりが過敏になっていますので、まず口辺を回すように擦ってあげたり、両方の頬を軽くマッサージしてから始めて下さい。
 次に注意しなくてはならないことは、唇や歯茎へのタッチの仕方です。ソフトなタッチはかえって刺激が強く、全身の緊張や口辺の緊張を高めてしまいます。ですから、しっかりしたタッチで、ひとさし指の指腹全体を歯茎に押しつけるようにして(ひとさし指を立てて爪で刺激してはいけません)前歯にタッチします。前歯に押しつけた指はすぐには動かさず、緊張が緩むのを待ちます。緊張が緩んだら、前歯、歯茎を左右上下に擦ります。次に左横から奥歯の方向を擦り、同じように右側も擦ります。馴れてきたら、歯ブラシ(子ども用の小さい物を用意する)を使ってみましょう。
 次は歯の内側に移ります。子どもに「アーンと口を大きく開けて」と話しかけながら協力させ、自分でみがくという自覚や意識づけを促し、意欲的に参加させることが大切です。咬反射残存のため指を咬まれないよう十分配慮して下さい。歯ブラシを強く咬んでしまったら、無理に引っぱり出そうとせず、全身をエビのように丸めて(ボールポジション)じっと待っていますと、スーッと全身の緊張が緩み、口も開けやすくなります。
 口を動かしてゆすいだり、うがいをした水を吐き出すことは難しい動作となっており、飲みこむことが多くなりますので、ねり歯みがき類はしばらくは使わない方がよいでしょう。塩水やただの水でも十分です。
 
図1-14 ボールポジション


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