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4-3 改善方向性の整理
 課題の明確化のための実態調査を踏まえて、メーカー(車体、装置、車いす)における開発状況も視野に入れながら、ノンステップバスにおける利便性と安全性に優れた乗降装置、固定装置の改善方策の方向性を検討した。
 
4-3-1 乗降装置
 現状のスロープにおいて、考えられる改善点を抽出した。
 
(1)引き出し型スロープ等の改良
 電動スロープは故障が多いため、現状使用されている引き出し型スロープの展開方法、可搬型スロープの設置手順の検討を行う。
・引き出し型スロープ:引き出したスロープを最後に床面へ折り返すことが必要。
・可搬型スロープ:収納箱から取り出し、フックをかけてから、左右のバンドで固定している。
 
図4-3 引き出し型スロープの展開手順
(引き出してから一部を折り返して使用する)
 
(2)スロープのエッジ取り付け
 脱輪防止のためのエッジが取り付けられた製品の採用を推奨する。
 
(3)スロープの長さ調節
 ノンステップバスの標準仕様では、実用的なスロープの長さは1,050mm以下と定められている。これは、道路の移動円滑化ガイドラインによる歩道の最低幅員2,000mm)にスロープを展開した場合、車いすの回転に必要な最小スペースが1,100mm以上必要なことによる。標準仕様におけるスロープ(長さ1,050mm)は、歩道がない等、歩道にスロープを展開できない場合、スロープの勾配は急となる。
 道路断面によって事業者が適切な長さを選択できるようにする。
 現状の対応策としては、可搬型の長、短2本のスロープを使い分けている路線はあるが、乗降時間の短縮のために長さを2段階に調節可能なスロープの開発を検討する。
 
注)バリアフリー新法(移動等円滑化のために必要な道路の構造に関する基準)の基準では、1,500mmも認められることとなったので、一部歩道部ではスロープ展開時の乗降、歩道での車いすの方向転換がしにくい場合がある。
 
参考.ノンステップバス(ニーリング中)と歩道の関係
 
 
参考.ワンステップバスと歩道の関係
 
 
(4)耐荷重の検討
 車いす使用者と介助者の安全確保のために、スロープの耐荷重を検討する。
根拠:電動車いす(100Kgと仮定)+車いす使用者(65Kg)+介助者(65Kg)+α(十分に安全なように)=300Kg
 
(5)可搬型スロープのフック
 確実に車体に装着できる(はずれない)フックについて検討する。
 
4-3-2 固定装置
 
 次年度の検討に際して、既存の固定装置の参考となる部分に、路線バス以外の車いす固定装置等の事例のなかから参考となる方式を挙げた(詳細は巻末の参考3を参照)。
 
(1)ワイヤー引き込み式
 前後各2本、合計4本のフック付ワイヤーを床から引き出して車いすに掛け、手動または自動で引っ張ることにより車いすを固定する。
 
図4-4 福祉車両のリフト面、及び車内におけるワイヤー式固定
 
(2)連結タイプ
(後方から専用の連結器で固定。車いす側にも連結器を準備)
 
 車両側と車いす双方に連結器を設置する等の可能性を検討する。車いす側は、バス乗車を前提とするユーザーが予め装着しておく。
 
図4-5 UNWIN社のEasilok
 
※事例
・「背面固定式(試作品)」車いす背面のパイプをリジットな治具で押さえつける。
 次世代普及型ノンステップバスの標準仕様策定報告書(別冊)、バス用車いす固定装置の評価試験・報告書、p.59〜66
 
 
・ISO 10542の「Docking-type tiedown systems」 Technical systems and aids for disabled or handicapped persons- Wheelchair tiedown and occupant-restraint systems- (自転車関係者での検討)
 
(3)後向き・背もたれ板式、前向き(3点ベルト式等)兼用
 
 1脚分の車いすスペースに進行方向前向き、後向きの両方式の固定に必要な装置を設置する。車いす使用者に進行方向前向き、後向きのいずれかを選択していただく。2脚分の車いすスペースがある車両では、前輪タイヤハウスに接する前部スペースの方が設置しやすい。
 進行方向後向き乗車のためには、背もたれ板を車内に設置し、車いすを横ベルトで固定する。横すべり防止のために、スタンションポール、又はサポートバー等を設置する、又は輪留めを使用することも考えられる。
 本調査の車いす使用者へのアンケートでは、46%の人が「後向きでもかまわない」と回答している一方、54%の人は「必ず進行方向前向きに乗車したい」と回答しているので、今後も利用者の意見を踏まえた継続的検討が必要である。
 
図4-6 進行方向後向き乗車について
利用者アンケートでは、45.9%の車いす使用者が「後向きでもかまわない」と回答した。
 
※事例(後向き・背もたれ板式)
・「後向き固定・背もたれ板式」次世代普及型ノンステップバスの標準仕様策定報告書
・旅客輸送用車両構造のEU内統一基準(2001/85EEC)
 
※欧州バス車両における後ろ向き乗車の事例
後向き・背もたれ板式(バンホール社A309)
車いすスペースの座席は折りたたまれている。
写真右が車両進行方向→
 
後向き・背もたれ板式(マン社Lion's city)
優先席と中扉の間に設置。
←写真左が車両進行方向
 
(4)固定装置をとりまく設備
 
1)シートベルトの設置
 ノンステップバスの標準仕様においては、(2点式)シートベルトの装着が明記されている。シートベルトは、車いす使用者の腰の適切な位置をサポートできるように設置する。
 シートベルトの機構として、壁側から引き出して使用する巻き取り2点式等が考えられる。腰骨に当たるようにするために、ベルトの引き出し位置を床面近くの低い位置とする関係上、車いす固定後では乗客の陰になってベルトが引き出しにくくなるため、予め引き出して一時的に金具を掛けておくためのフックが必要となる。
 
2)車いすスペースの座席の収納
 車いすスペースの広さを最大限に活用するために、車いすスペースに設置する座席は、薄型の折りたたみ式進行方向横向きシートとすることが考えられる。横向きシートは、前向きシートに比べて収納がワンタッチで、車いす使用者の乗降時間の短縮にもつながる。混雑時は、横向きシートを跳ね上げて立席スペースとして使用することも可能であるが、車両保安基準の座席定員と立席定員の比率に適合させる必要がある。
 
3)車いすスペースの位置
 車いすスペースの位置は、車いすの方向転換がしやすい中扉の正面が基本的な位置となっている(ノンステップバスの標準仕様)。
 2台分のスペースを設ける場合、例えば、前のスペースは車いす使用者とベビーカー利用者が共用できるスペースとすることも考えられる。
 
注)車いす固定装置の強度確保については、現在JISで基準がない。バス車体規格集では、引っ張り強さ3.92kN(400Kg以上)と定められている。
 
4-3-3 車いす
 
(1)車いす自体の強度確保
 車いす自体の強度については、現在JISで基準がなく、ISO衝突安全性に係る試験は、48km/h±2kmのスレッド試験(20Gの継続時間0.015秒以上、15Gの継続時間0.04秒以上)、減速継続時間0.075秒以上と定められている。
 しかし、国内の車いすの多くは20G対応を求めて実験を行った場合、損壊することが想定される。頑強な仕様にした場合は重装備となり、利用者の使い勝手が悪くなる可能性もあり、耐衝撃性の水準設定の際には十分な検討が必要となる。
 
(2)車いす側のマーキング
 オレゴン州ユージーンのLTD(Lane Transit District)の公共交通機関のように、車いす側のベルトをかける位置(4ヵ所)に、共通化した黄色い輪を付ける事は、ベルトのフックをかける場所が明確となり、固定時間の短縮が図れる。
 
 車いすに巻いてある黄色いビニールテープが固定マーキング。固定位置が容易に発見できる。
 
 黄色いビニールテープにアタッチメントである紫のナイロン製ベルトをひっかけている。このベルトは、車いす機種により、バスのベルトが届かない時のエクステンションである。
 
(3)シートベルトが通せる構造
 シートベルトは、車いす使用者の腰骨の適切な位置をサポートできるように設置する必要があるが、多くの車いすは肘掛けの下をシートベルトが通らない。この点を改良した製品の普及が望まれる。
 
福祉車両を例にしたシートベルトの通し方
 上の写真は福祉車両を例にした車いすへのシートベルトの通し方。車いすの肘掛け下のボートを取り外さないとベルトを通せない(写真は3点式シートベルト)。


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