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8月7日(月)
本日のスケジュール・内容
1)WHO西太平洋地域事務局(WPRO)訪問・研修
2)学生主催懇親会開催
 
1)WHO/WPRO訪問・研修
8:15〜8:30
Introduction, Orientation and Guidelines
Mr. Wu Guogao
Acting Officer, Programme on Technology Transfer
Dr. Sumana Barua
Medical Officer, Stop TB and Leprosy Elimination
 
8:30〜9:00
Mechanism of WHO/WPRO, and Its Role in the Improvement of Public Health
Dr. Richard Nesbit
Director, Programme Management
 WHOは保健分野における国連の専門機関であり、全ての人々が最高レベルの健康に到達できることを目指す。現在の加盟国は192カ国にわたり、WHOはジュネーブにある本部(Headquarter)を中心として、6つのRegional Officeを持つ。Regional Officeの一つはマニラにあるWPROである。WPRO委員会には、この地域に領土を保持するアメリカ合衆国、フランス、イギリスも参加し、発言権を所持している。(ただし、北朝鮮とインドネシアは含まれない。その理由は、インドネシアはインドと同じエリアに属し、北朝鮮は韓国との南北問題が解決されないためである。)委員会では、新興・再興感染症、非感染症疾患の対策や政策支援、脆弱な保健システムの見直しなどが議題として挙げられ、問題解決に向け、各国とのパートナーシップを深めながら協力支援している。
 
9:00〜9:30 Environmental Health
Dr. Hisashi Ogawa
Regional Adviser, Environmental Health
 WHOでは、本部から6つのRegional Officeへ共通課題が出され、国別に行動計画を策定し実施している。現在、アジア地域において、人々を取り巻く環境問題は深刻化しており、屋内・屋外の大気汚染、水資源、地球温暖化、労働衛生と様々な要因が問題視されている。西太平洋地域における死亡者の1/4が何らかの環境要因によって引き起こされたものであり、その中では1位Indoor Smoke 2位Unsafe Water、3位Urban Air Pollutionとなっている。しかし都市部ではUrban Air Pollutionが上位となるなど、国や地域によって環境も変化する。
 環境問題の解決に向けWHOはUNEP(国連環境計画)と協力して、地方に対する幾つかの戦略を掲げている。(下記参照)
1. 各国のキャパシティーを高めてリスクマネージメントへ力を注ぐ
2. 保健省と環境省の協力体制の強化
3. 越境環境問題への取り組み
 1位Indoor Smokeにおける問題は、現在多くの家庭で使用されている固形燃料による排気不全である。固形燃料を直ちに別のものへと変更するのは不可能であるため、調理中は窓を開けて換気をする等の指導を通して改善を図っている。また、燃焼効率の良いストーブや調理器を使用することも推奨している。しかし、燃焼効率の良いストーブは値段が高いため、購入可能な値段にまでコストを落とすことにも重点を置いている。
 
10:00〜10:30 Sexually Transmitted Diseases Including HIV/AIDS
Dr. Bernard Fabre-Teste
Regional Adviser, HIV/AIDS and STI
 HIVへの感染の背景と現状は、(1)感染者に対する差別や偏見(2)貧困と男女間の不平等(3)アジア全体における行き来の増加(不法な入国を含む)(4)同性間の性行為の後、異性との性行為によって、リスクのなかった人にまで感染が拡大(5)次世代を担う若い世代への感染拡大であり、WHOが対策を行っている。しかし西太平洋地域における感染防止活動とケアの現状は、適用範囲が全体の30%と低いため効果が出ず、女性異性愛者への適用が19%、注射器による薬物使用者54%、男性同性愛者1%、高リスク性交時の避妊具の提供8%にとどまっている。
 現在、2010年に向けWHOは以下5つの対策を掲げて西太平洋地域での活動を実施している。
1. HIVのテストとカウンセリングを実施する
2. 現在活動しているHIV健康部門が最大限に感染防止に貢献できるようにする
3. HIV/AIDSの治療とケアの規模の拡大を図る
4. 現状を効果的に調査・把握できるよう戦略を練る
5. 現行の保健システムの拡大、強化をする
 これらを進める上でWHOが全体の調整や技術面での援助をしていく体制をとっているが、政策実施地域内での政治上のリーダーシップと相手側の遂行と投資、有効な保健システムとそれへの提供・維持可能なアクセスを強化していく必要がある。
 
10:30〜11:15 Non Communicable Diseases
Dr. Gauden Galea
Regional Adviser, Non Communicable Diseases
 心臓血管疾患・がん・慢性閉塞性肺疾患・糖尿病などを含む慢性非感染症疾患Non Communicable Diseases(NCD)は、経済や社会的発展の妨げの原因となるだけでなく、人々の生命や健康をも脅かしている。NCDが問題となっている地域では、急速な都市化や工業化によって収入の増加、保健医療の改善がみられ、それに伴う著しい人口増加や社会的変化が特徴的である。
 NCDで死亡する人は東南アジア地域を中心に急増しており、西太平洋地域も例外ではない。NCD発症へは血圧値、喫煙状況、コレステロール値、果物・野菜の摂取量、アルコール摂取量などが大きく関連してくる。
 生活習慣と環境の変化もNCDの増加に大きく関係している。食料が豊富になり、摂取カロリーの高い物が増えた。伝統料理さえも以前と比べて高カロリーになり、量も増加している。これは都市部に限られた問題ではなく、地方においても移動手段の変化、低所得者にも購入可能になった市場経済の変化、医療サービスの変化などが影響を及ぼしている。
 WHOでは、(1)政策の強化(2)情報の拡大と共有(3)ヘルスプロモーションの実施(4)予防活動の質や費用、平等性の見直し(5)地域ネットワークの強化を達成課題とし、教育や資源の提供を通して改善を図っている。
(文責:原田)
 
11:15〜11:00 Communicable Disease Surveillance and Response
Dr. Takeshi Kasai
Regional Adviser, Communicable Disease Surveillance and Response
 大きく分けると、WPROの感染症対策活動の概略、感染症のSurveillanceが如何に大切かということ、国際機関で働くための心構え、の3点について説明していただいた。
 
様々な話をしてくださったDr. Kasai
 
1. WPROの感染症対策活動で重要なものはCountry Officeを通じて、Member Statesにアドバイスや直接支援をすることである。その際は、10年後を見据えて、10年後から逆算してFrameworkを提示していく。また感染症の大流行対策は主に3本の柱からなる。疾患の公式情報のDisease-base Surveillance、メディアなどから流れる非公式情報のRumor Surveillance、そしてOutbreak時の対応、の3本である。Disease-base Surveillanceは患者数・致死率の推移などから、ウィルスの変異があるか、Pandemicの危険性は差し迫っているかなどを分析することである。Rumor Surveillanceは巷に流れている情報が本当なのかどうか調べることである。最後に、Outbreak時の対応であるが、これについては興味深い説明があったので、詳しく述べる。
 Phase-wise Interventionと言って、予防時と迅速封じ込め時とPandemic発生時の異なる3つのPhasesでは、対応する組織が異なるのである。予防時では地方自治体が様々な役割を果たす。迅速封じ込め時では、中央政府や国際機関の働きが重要である。しかし、Pandemic発生時では、中央政府、国際機関はほとんど協力することができない。Pandemicが発生した地域の自治体が自分たちで解決しなければならない。なぜなら、外から人が入るとその人たちもPandemicの犠牲になってしまうからだ。
2. 感染症のSurveillanceが如何に大切なのかを、実際のSARS・鳥インフルエンザの事例を通じて教えてくださった。Surveillanceの3つのKeywordsは「人、時間、場所」である。これら3つがぴたりと当てはまったのがSARSの時の香港のホテルのエピソードである。この情報がWHOに入った時は、スタッフから歓声が上がったという、実際の職場のお話も伺った。また、WHO 50年の歴史で行ったことのない、渡航延期勧告を決断する時のスタッフの苦悩についても伺えて興味深かった。
 患者数・致死率の推移を見ることでPandemicの発生が予期できる。鳥インフルエンザの患者数が突然増え致死率が減った時は、ウィルスの変異が疑われたので、一時騒然とした。感染症対策で重要なのは疫学である。正しいことを見極めるツールとしてとても大切である。
3. 国際機関で働く上で、日本人にとって一番の問題は、国際機関就職の作法を知らないことである。そもそも、WHOで働く多くの人は40歳代であり、早くても30歳代である。20歳代の経験の浅い人は相手にされない。求人の枕詞には必ずMinimum of 5 Years of Experienceと書かれている。はじめの一歩をどこで踏み出すかが重要だ。(Dr. Kasaiは直前のDr. Galeaの講義を聴いていらっしゃったのですが)たとえば先ほど講義したDr. GaleaもWHOに入る前の専門経験を話していた。このようにしっかりと専門を身につけることが、国際機関で職を得るためには重要である。
 
13:00〜13:30 Stop TB
Dr. Pieter Van Maaren
Medical Officer, Stop TB and Leprosy Elimination
 西太平洋地域での結核の実態について伺った。また、結核の患者数、結核による死者数をどちらも2010年までに半分に減らすことが目標のStop TB Special Projectについても伺った。
 
 
 古代エジプトのファラオも結核に罹っていたというエヴィデンスがあるほど、人類とは長い付き合いの結核だが、現在、結核患者数は歴史上最も多い。世界全体では毎年900万人も結核患者が増えている。当地域では毎日900人が結核により亡くなっている。
 中国、フィリピン、カンボジア、ベトナム、ラオス、モンゴル、パプアニューギニアの7カ国だけで、この地域の90%の結核患者を占める。貧しい人々が密集しているため、感染は広がりやすい。また貧困層の声は政策に反映されにくいことも問題の解決に影響を与えている。中国、フィリピンでは多剤耐性結核が問題となっている。また、中国、カンボジア、ベトナム、パプアニューギニアではHIV患者が増えており、これが結核の猛威を増強している。パプアニューギニアではそれに加えて、貧しい政府と十分ではないインフラのため、結核問題に満足に取り組むことができない。
 結核を押さえ込むことができない理由として以下の要因がある。十分でない政治的取り組み、財政不足、人的資源の不足、地方自治体レベルの知識不足、薬の供給が妨げられること、AIDSの広がり、である。
 結核に効果的な治療法はDOTSである。DOTSにおいて重要なのは、すべての結核患者がDOTS療法へのアクセスを持つことである。Stop TB Special Projectではまず2005年までに、70% Case Detection Rate(=正式にWHOに報告された事例数/予測される事例数)、100% DOTS Coverage(=Detectされた患者に対してのDOTS施行率)、85% Cure Rateを目標にしてきた。しかし、まだ目標が達成されていない地域は多い。
 2008年から2010年ごろには新薬が開発される。服薬期間が現在の6ヶ月から3ヶ月に短縮されるので、DOTSを最後までしっかり完遂することが現在より容易になると期待される。また、The Global Fund to Fight Aids, Tuberculosis and Malaria(グローバルファンド/世界基金)による資金援助も非常に大切だ。


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