日本財団 図書館


8月3日(木)
本日のスケジュール・内容
国立保健医療科学院にて国内研修
 
9:30〜10:00 開会挨拶
国際医療福祉大学総長 大谷 藤郎 先生
 最初に、この国際保健協力フィールドワークフェローシップ企画委員長である大谷藤郎先生から開会挨拶を頂いた。フェローシップは、学生紛争の激しかった時代に日本全国の医学生を集め、冬期大学として日野原重明先生や武見太郎先生などの講演会を開いたことに原点を持つ。その後ハンセン病の医師不足を受けて、養成するために夏期大学を行ってきた。現在は、国際社会で活躍する日本人であるWHOの初代総長の中嶋宏博士や、WHO西太平洋支部局(WPRO)局長の尾身茂先生に次ぐ国際人を養成するという目的である。
 またハンセン病問題については、これが歴史的事実として重要なことは断種手術のみならず、患者方の人間としての権利を政府が率先して侵害し、それを医師、行政が認めていた事実であることを忘れてはならないと述べられた。
 
9:40〜9:45 来賓挨拶
国立保健医療科学院院長 篠崎 英夫 先生
 今年から国内研修会場として国立保健医療科学院を使わせて頂くこととなり、挨拶とご説明を頂いた。
 国立保健医療科学院は、国立公衆衛生院、国立医療・病院管理研究所、国立感染症研究所・口腔科学部の一部を統合したものとして、平成14年に設置された。保健分野における医療・福祉を統合したものであり、これらに関する研究や実務に従事する人々の養成を行っている。研修企画部は院内17の部門の1つであり、その中に国際協力室がある。国際機関や独立行政法人国際協力機構(JICA)等の研究者や海外からの学生の受け入れを企画、実施し、またこの国内研修の調整も行ってきた。今回の国内・海外研修が実り多きものになることと共に、将来、国立保健医療科学院の研修生や指導者として再会できることを願っている。
 
9:50〜10:30 「国際社会に生きる日本−日本の国際協力とは?」
前駐中国日本大使 谷野 作太郎 先生
 まず、グローバリゼーションの進むこの現代社会における日本の国際化を、以下のように定義された。「(日本の優れた伝統、長所を維持、発展させる一方)排他的、独善的になることなく、我々の行動、社会規範をより普遍的な価値を持つものに高め、国際社会と調和を図るとともに、わが国にふさわしい国際貢献を行なう。」
 この上で、我々は日本のよさをどの様に活かし世界でイニシアティブを取っていけるのだろうか。日本の一つの国際貢献のあり方として経済的側面がある。政府開発援助(ODA)としての協力以外に、今日の日本経済の復調はアジアヘの貢献の向上に向かうという観点からも捉えることができるだろう。もちろん、経済的な側面のみならず、日本のポップカルチャーやボランティア活動なども挙げられる。系列を重んじる日本人の常識は世界の非常識であることを踏まえ、個人として自分の意見を持ち、話す言葉を持ち、伝える術を身に付け、真の国際人たれ。そして東アジア共同体を目指して日中関係や日韓関係もしっかりと考えていく必要があるだろう。靖国問題に始まる“歴史解釈”の問題や、アジア諸外国における買春など、日本人の品格を様々な形で問われることはあるけれども、日本人としての徳力、平等な社会、安全な社会、安定した経済、教育水準の高さ、これら全てを活かして一目置かれる日本にしていってほしい。
 
10:35〜11:15 保健医療分野における国際協力
独立行政法人国際協力機構人間開発部技術審議役
小野 喜志雄 先生
 JICAの行っている国際医療協力の中に、人材派遣とODAがあり、ODAは開発途上国の安全と発展への貢献を通じて、国際社会の平和と安定に重要な役割を果たすものである。そして現在の世界の人口動態、推移、その他子どもや女性に関する健康データ、感染症の状況をレビューされた後、日本のODAの実績、歴史を述べられた。ODAは1997年をピークに減額の一途を辿り、平成17年度予算は7,862億円であるものの、開発援助委員会(DAC)諸国内では2位である。ODAは技術協力、有償資金協力、無償資金協力、多国間援助からなり、1989年初めてDAC諸国の中でODA実績が第一位となった。2003年から「人間の安全保障」など新たに盛り込んだ新ODA大綱が示され、援助の需要を正確にすることや、結果重視のアプローチに立つこと、国民参加の促進を目標としている。またこれからの国際協力のキーワード、「人間の安全保障」、「ミレニアム開発目標(MDGs)」、「Capacity Development」を示された。その後、人材派遣分野の各論として、保健医療分野の派遣人数は減少傾向・短期化傾向にあり、結核と寄生虫対策の派遣日数が長いことを述べられ、感染症や寄生虫への対策や人材開発促進について、実際のプロジェクトの例を引用して、説明された。最後に、「人間性の無い国際医療協力は空虚であり、科学性のない技術協力は盲目である。」と科学の目と人間性を持つ重要性を述べ、講義を締めくくられた。
 
11:15〜11:55 国際医療協力の課題
東京女子医科大学客員教授/笹川記念保健協力財団理事長
紀伊國 献三 先生
 笹川記念保健協力財団の初代理事長である石館守三氏は、薬種商の御子息として育ち、ハンセン病の施設に薬を届けていた経験から薬剤師を目指した。その後、日本における特効薬の開発や、世界のハンセン病の撲滅に果たした役割は極めて大きい。一つに、日本財団の支援によりWHOと協力し1994年から5年間にわたり多剤併用療法(Multi-Drug Therapy = MDT)を全世界に無料配布したことが挙げられる。
 国際協力を考える際に重要なことは、自助努力の必要性であり、国際「援助」ではなく「協力」、Medical Careに止まらない広い概念であり、国際「医療」ではなく「保健」という考えである。同時に、自分の行動に対する報いを望まないこと、「日本人」よりむしろ、「世界人」の一人として活動する態度が必要だと述べられた。
 
12:00〜12:40 開発途上国における寄生虫症の現状と対策
慶応義塾大学熱帯医学・寄生虫病学教授 竹内 勤 先生
 最初に、寄生虫による経済的損失は診断や治療に費やす費用のみならず、障害や死による労働時間の損失、感染期間が長期に渡る小児における、身体発達の遅れや知能低下にまで至ると述べられた。「重症度」は大きいが、費用対効果の面で寄生虫疾患は非常に安価であり、撲滅は不可能ではない。途上国の寄生虫対策を大きく変えた出来事の一つに、元総理大臣の故橋本龍太郎氏が1998年に発した「Hashimoto Initiative」がある。その内容は、日本の寄生虫感染症の撲滅の経験を活かした「学校保健」という手段を用いて、効果的な国際協力や研究の活性化、途上国におけるインフラや組織・骨組みの開発、G8の国々の共同ネットワークの強化などを達成しようとするものだった。以前に、WHOがマラリア撲滅に失敗した要因として「持続性」と「主体性」の欠如が挙げられるが、学校保健はまさにこの2本が枢軸であり、先生や生徒を中心とすることで、地域や年少時への働きかけが持続した。また、アジア諸外国における学校保健の責任団体をWHOやUNICEFを含めて決定したことが、より大きな効果をもたらしたと言える。現在、学校保健はSocial Vaccineと言われ、HIV/AIDSにおいても行われている。ただ寄生虫の関与する要因には森林伐採なども含まれ、医療従事者として改善出来る範囲は1/3から1/4程度である。そのため他の分野と協力し、広い視野を持つことが重要である。
 
14:00〜14:40 米国CDC専門家からみたField Epidemiology Training Program Japanの展望
Foreign advisor to FETP-J、国立感染症研究所感染症情報センター
Dr. John M. Kobayashi
 
Dr. John M. Kobayashiの講義
 
 疫学とは何か、実地疫学とは何か、どのように進めていくのかについて実例を用いながら詳しく紹介していただいた。まず、疫学とは何か。疫学とは、病気および健康状態の分布とその決定因子を研究する学問であり、その調査は生態学的観点から、病原体、宿主、環境の3者を均等に見つつ進めていく。その使用目的は(1)健康状態に対して起こったことを記述する、(2)病気の原因を同定する、(3)危険因子を同定する、(4)病気の臨床的な症状の型を記述する、(5)病気を抑制・予防する手段を明確にする、の5点である。
 では、実地疫学とは何か。それは以下の状況下で疫学を適用することである。(1)問題が予測できないものの場合、(2)緊急の対応が必要とされる場合、(3)公衆衛生疫学者が問題を解決するために現場(事件が集団発生した場所)に頻回に赴く必要がある場合である。実地疫学と研究的疫学の違いは以下の3つといえる。(1)実地疫学は明確な仮説なしで始まることが多い。(2)実地疫学では、仮説を生み出すために、まず記述疫学が必要であり、その後分析疫学を行うこととなる。(3)実地疫学では、地域の健康を守りかつその事件に取り組まなければならないというより切迫した状態があるため、公衆衛生活動を更に迅速に行わなければならない。
 実地疫学はどのように進めていくのか。基本的に、何を(診断)、誰が(人)、どこで(場所)、いつ(時間、潜伏期間)、なぜ/どうやって(原因、危険因子、伝播経路)の5つを調査し、進めていく。一方で、現在は集団発生の様式が変化しているという問題もあるようだ。従来の筋書きでは、小規模・局所的な集団発生で、大規模であったとしても、普通はその地域でよく知られている病気が関連している。しかし、現在では広範囲に分散した症例が多くなっている。それは、人やモノの動きが多様化していることから来ていると考えられる。また、媒介となる食物も多様化し、動物・生野菜・果物など様々な可能性が考えられるようになってきた。これらのことから、SARS伝播の連鎖も複雑なマップがかけるのである。
 
14:40〜15:20 日本のNGOの役割と活動
堀切中央病院院長 本田 徹 先生
 NGOのスピリット・ミッションについて、PHC(プライマリ・ヘルスケア)の理念と背景、また先生のご経験から感じてこられたこと、そして日本から発想・行動する国際協力と地域保健についてNGOの立場から様々にお話をいただいた。
 まず、NGOとは何か。P.ドラッカーの定義によれば、NGOとは治療された患者、教育された子ども、自尊心を持つ人々など、変革された人を作る組織である。
 では、PHCとは何か。PHCの概念は1978年のアルマ・アタ宣言にて提唱された。それは開発論や途上国での実際の経験、人権思想の確立・普及、障害者運動や地域リハビリテーションとの交流・相互啓発、参加型教育理論の進歩など様々な考え方との相互作用の中から生まれたものである。佐久病院での村芝居「はらいた」の事例から日本的PHCのあり方を、メキシコや東ティモールの事例から各国でのPHC活動のあり方をご紹介いただいた。また、世界各地での現地で生まれた知恵を世界に広める役割を担ったDavid Warner氏の功績もご紹介された。
 その他HIV/AIDSをめぐって起こっているARV(抗レトロウイルス薬)の「いのちの差別」の問題や、看護の視点と医師の視点の違いなど様々な問題を指摘された後、在日外国人との共生を目指すSHAREの活動から、日本から発想し、行動する国際協力と地域保健について触れられ、講演を締めくくられた。
 
15:40〜16:00 国立保健医療科学院の紹介
国立保健医療科学院国際協力室室長 西村 秋生 先生
 今回から国内研修会場となった国立保健医療科学院のビデオと紹介を、海外研修の引率者でもある西村秋生先生にして頂いた。
 
16:00〜17:45
フリーディスカッション 〜国際医療協力、公衆衛生活動を中心に〜
(座長)国立保健医療科学院院長 篠崎 英夫 先生
厚生労働省大臣官房国際課国際協力室室長 金井 要 先生
国立国際医療センター国際医療協力局派遣協力第二課課長 仲佐 保 先生
国立保健医療科学院人材育成部部長 水嶋 春朔 先生
厚生労働省健康局疾病対策課臓器移植対策室主査(フェローOG) 高岡 志帆 先生
 
 まず、先生方の簡単なバックグラウンドと、学生に向け各先生方からのメッセージを頂いた。
 
金井先生:高校のときからAFSの奨学金でアメリカに行くなどして、英語力を磨いてきました。現在は医系技官で厚生労働省の国際課で国際協力室室長をしています。国際保健に向かないのは、アピール力の弱い人だと思います。日本語でできないのに、英語でできるはずがない。コミュニケーション能力、相手に合わせて動く力のある人が国際協力の現場には向いているのではないか。
仲佐先生:実際、国際協力に臨床の力は要りません。現在国際協力の現場では3つのことが問題になっています。1つは、現在世界では6つの感染症でほとんどの人々が死んでいるということです。下痢、肺炎、HIV、マラリア、TB、はしかの6つです。HIV以外の治療法はわかっており、まさに公衆衛生の問題です。2点目に、開発途上国には仕組みがないということが挙げられます。ここで必要とされるのは医師の仕事より行政の仕事です。最後に、携わる人間のコミュニケーション能力の問題が挙げられます。それは、言語の問題、そして異なる文化・社会に生きる人々との円滑なコミュニケーション能力が挙げられます。
水嶋先生:「〜であること」「〜できること」「〜していること」「〜すること」を認識しながら行動することが大切。10年後の自分のために今できることは何か。それを考える。例えば、宴会の幹事ができるか否かも重要。事務のいいトレーニングになります。WHOの2006年の白書であるWorld Health Report 2006では、「Working Together for Health」と題して、保健医療分野で働く人たちの課題を全7章に渡って取り上げています。(これを参考としてまとめて配ってくださいました)
高岡先生:元々バックパッカーで、学生のときから様々な国に行っていました。歯科医師の父親が、NGOで10年間ほど海外で活動しているのを見て育ちました。学生のときはIFMSA(国際医学生連盟)、AMSA(アジア医学生連盟)、国境なき学生など様々に活動し、2001年のフェローシップのOGでもあります。現在は、医系技官として平成11年から入省し、臓器移植法に関わっています。現在やっている仕事は直接国際協力に関わっているわけではないけれど、“Think globally, Act locally”をモットーに働いています。学生の内にしておくべきことは、「仲間を大切にすること」だと思います。
 
 この後、会場からの質問でフリーディスカッションは進められた。
 
Q. 薬学の観点からはどのような貢献ができるか?
仲佐先生:薬は、国内の病院では簡単に手に入るが、途上国ではそうではない。流通を知ることが大事だと思います。
 
Q. 途上国の政策アドバイザーになるために、取るべきFirst Choiceは何か?
高岡先生:自分もわからない。最初は笹川で働かせてほしいと頼んだこともあった。私は、医系技官として日本の行政を見ることから始めた。海外に行くなど、もっといろんな選択肢はあると思います。
仲佐先生:いろいろな道はあるけれど、しっかり語学を身に付け、自分の専門性を磨く必要がある。一つ一つ積み重ねていくのがよいでしょう。
篠崎先生:長崎なら熱帯医学研究所もあるし、国内では恵まれた環境。それを活かしていくとよいと思います。
 
フリーディスカッションの様子
 
Q. 医学以外の分野の人たちとのコラボレーションについて教えて下さい。
水嶋先生:国際協力の現場では、様々な人との協力の中進められています。
 
Q. どういう人が研究者として優れているでしょうか?
水嶋先生:Scienceを統合している人。
金井先生:会う人によって言葉を選べる人。
仲佐先生:自分自身を伸ばし続けられる人。チャンスがあったら直接行動する人。
 
Q. どんなスタンスで関わっていったらいいでしょうか?
高岡先生:Think globally, Act locally
水嶋先生:予防に近い臨床、国際機関、行政など関わり方は様々。それぞれの立場から考えられることはある。自分が立ったところで考えていきましょう。
仲佐先生:常に格差が存在していることを頭に置くこと。
金井先生:知ってしまったから関わりたい。医療に直接ではなく、調整する立場として関わっている。
紀伊國先生:何事にも怒らない根気が必要。好奇心を持ち続けることも重要。
(文責:齋藤)
 
8月3日 今日の一言
齋藤:やっと6年生で参加できたフェローシップ。教科書持ち込んだけれど、去年の先輩たちに「読まないよー」と釘をさされる。さて、これからの運命や如何に?
西:あ〜、、はじまったなという感じ。なぜか少し緊張した。公衆衛生の分野において一流の研究者とはどういう人なのかについてたくさんの話が聞けて充実していた。
内田:快晴。日差し強い。スーツケース重い。重みでよれよれしながらどうにかバスから下車。同じバスから降りた一人の乗客が、真夏の陽の光を顔に浴びながら、爽やかに声をかけてきた。「(研修会場は)どっちですかね?」関西弁の彼、かじ(梶本君)である。さぁ、始まりだ。
佐野:ついに始まったフェローシップ。とっても個性的な13人が集まりました。共に学び、いい旅行にしていきたいな。
白神:先生と話せた懇親会・2次会すごくよかった。夜は友達と語り明かしたし、充実した11日間になりそう♪
高谷:初めまして!これからの11日間は、私自身にどんな変化をもたらすのだろう?
田畑:いよいよフェローシップがスタート!みんな個性豊かでこれから11日間楽しみ。
舛岡:初日でしたが、講義、懇親会に2次会にとも盛りだくさん。フィリピンヘ出かけるメンバーみんな全てはよく覚えられていなかったけれど、満足しました。
梶本:内田君に誘われ、張り切って一列目に座ってしまいました。講義中に書いたメモの量は、大学での授業とは比較にならないほど沢山になりました。大学でも一列目に座ったほうがいいんかなぁ。
中野:「英語で自己紹介を」と言われた瞬間、血の気がひき、手が冷たくなっていくのがわかりました。前途多難です。
:心待ちにしていたフェローシップがついに始まった。まだ仲間の素顔が見れず不安だが、楽しそう。今年から行程が変更されたとのことで、ハプニングが期待できるかも?!
原田:スケジュールを見て、研修の濃さに改めて驚く。選ばれたことに感謝。この先が楽しみ!


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION