5. 主要港湾における津波の到達時間や最大高さ等の伝播特性の解明実験
プレート境界型の地震で最も怖いのは津波である。房総半島沖から九州南沖にかけて伸びている南海トラフで発生する地震の震源は3つに分類され、その中で瀬戸内海沿岸に一番影響を及ぼすのが南海地震である。「宝永地震(1707年)」では、紀伊半島沿岸から四国に6〜10mの大津波が襲い、大阪でも3mの津波が押し寄せて、多数の死者がでたという記録が残っている。また、平成15年に発表された中央防災会議専門調査会による被害の推定では、南海地震と東南海地震が同時に発生した場合、津波による建物の全壊棟数は4万棟、死者は避難意識が低い場合8,600人(死者数は和歌山県、高知県、徳島県の順に多い)と見積もられており、津波対策の重要性が指摘されている4。
地震に伴って海底面の変位が生じると、直上の海面にも変位が起き、うねりが生ずる。このうねりは、発生場所では波長が長く波高も高くない。このうねりが、波として海面を伝わり、陸地に近づくにつれ、波高が増幅され津波となって陸地に押し寄せる。津波の高さは、水深が浅くなると急激に高くなる。津波の伝わる速度は、水深が深いほど速い。また、海底の地形や海岸線の形に大きく影響されるため、単純に震源からの距離では津波の高さは決まらない。
津波の水理模型実験では、模型内に南海地震津波を想定して与え、その影響を評価することにした。なお南海地震津波は、紀伊水道および豊後水道において津波波形を設定し与えた。
水理模型内に津波を発生させる方法として、水理模型に設備されている起潮装置を活用することにした。写真5-1に、紀伊水道に設備されている起潮装置を示す。
図5-1は、起潮装置による津波の発生方法を示したものである。紀伊水道、豊後水道からの津波は、図に示したゲートを油圧シリンダーにより1回動かして発生させることにした。
写真5-1 起潮装置(紀伊水道、水道幅55m)
図5-1 津波の発生方法(起潮装置による方法)
津波はゲート操作によって発生させるが、図5-1の右図に示すようにゲートの動く幅や動かすタイミングによって津波の規模は決まる。そのため予備実験より津波の規模や再現性を検討し、実験条件を決めた。
表5-1は、ゲート操作による津波発生の実験条件を示したものである。CaseAは紀伊水道のみ、CaseBは豊後水道のみ津波を発生させたケースであり、それぞれのゲート変動量は15%、5%とした。CaseCは、紀伊水道と豊後水道の両水道から津波を同時に発生させた。なおゲート変動量は、値が大きいほど大きな津波を作り出すことができ、この値は想定されている南海地震の震源地より決めた。想定されている震源地は、豊後水道側よりも紀伊水道側に近く、そのため津波の影響は紀伊水道側の方が大きいものと推測される。
実験では、津波の到達時間や最大高さを評価するために主要港湾55地点において津波波高の測定を行った。津波波高の測定位置は、第3章で示した異常潮位実験の測定位置と同じにした( 図3-3参照)。津波波高データは、A/D変換器を介してサンプリング間隔0.1秒でWindowsマシンに収録し解析を行った。
表5-1 ゲート操作による津波発生の実験条件
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紀伊水道ゲート変動量(%) |
豊後水道ゲート変動量(%) |
CaseA
(紀伊水道から津波) |
15 |
- |
CaseB
(豊後水道から津波) |
- |
5 |
CaseC
(紀伊、豊後の両水道から津波) |
15 |
5 |
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