日本財団 図書館


「スクリーニング後の療育―音楽療法と音源―」
埼玉県立小児医療センター 耳鼻咽喉科 安達 のどか 先生
 
 今回のシンポジウムにおいてのご報告として、以下の3点を主にご紹介させて頂いた。
1〕当院での難聴児に対しての診療体制の紹介
2〕難聴発見率と療育対象の判断基準
3〕難聴児療育の実際
 
 今回のシンポジウムにより、今後の難聴児に対しての療育の充実と益々の発展が必要と考える。
1)様々な専門分野との関わり合い
 難聴児にかかわるものは、耳鼻科医のみではなく、言語聴覚士、音楽療法士、聾学校教員、保健師、看護師及び関係行政機関など全てのコメディカル関係者と、様々な専門分野の人々により成り立っている。その相互関係が円滑であれば、難聴児にとって最も良い環境が提供できるのではと考える。耳鼻科医としての立場より、当科においての難聴児への関わり合いの現状を一部ご紹介させていただく。
 
 
2)難聴発見率と療育対象の判断基準
 埼玉県(1999年〜2004年)において自動ABRもしくは、OAEによって検査を受けた新生児46141例の内、要再検となったのは、312例(0.67%)であった。その内178例は精密検査の結果、偽陽性であった。85例は一側難聴か、両側50dB未満の軽度難聴であり、経過観察とした。両側50dB以上の感音難聴は49例で、これらを療育の対象とした。
 
3)当科においての難聴発見後の対応
 日常診療の現場で、きわめて早期に難聴が発見できた場合の対応方法は、その発見された施設、病院によって異なる場合が多い。我々の病院において、試行錯誤の末に現行している方法をご紹介させていただく。
 特に気を配っていることは、両親に子供が難聴であることを告げる場合少しでも不安材料を取り除いてあげるようなアプローチが必要である。なるべく十分な時間を設け、今後の対応を具体的に明確に説明するよう心がけている。病院には24時間電話相談のシステムある。
 両側高度難聴の場合、超早期発見であり、適切な対応が可能であることを説明する。今後のコミューケーションの獲得方法として、口話、手話、人工内耳、補聴器があり、いずれかを選択していくこととなる。五感の中の聴覚は、一番早くにから発生が始まり(胎生5〜6週頃)、一番遅く(1歳半頃)に完成される。その誕生から一歳半までは、聴覚は未熟であるため、あらゆる刺激による活性化が期待できる時期でもある為当科において以下のような療育を実施している。
 
 
 
 
4)当科における療育方法
 療育の基本は、健全な母子関係の構築であり、大きく3つのポイントがある。第一は親の教育で、各1時間の講義の12回コースとなっており、内容は「難聴について」「ことばについて」「育児の仕方」「補聴器のこと」など。第二は音楽療法で五感を使い脳を刺激するプログラムで、骨導補聴器を使用し全身を刺激させている。骨導補聴器を装用させることにより、胎内に近い環境が再現され脳が刺激される。第三は、補聴器の装用で超早期発見の場合は生後2ヶ月より骨導補聴器を使用開始し、その後もABR、COR、ASSRなどを用いて聴力を判定する。生後4〜5ヶ月より気導補聴器をフィッティング開始し、聴覚管理、診察、発達評価、育児支援などを同時に行っている。
 
 
 
5)音楽療法
 耳鼻科と、音楽療法との関わり合いのきっかけは、「難聴の早期発見」である。聴覚スクリーニングの導入に従い、年々高度難聴児の発見時期が早まり、それに対しての正しい対応が問われ始めている。一般的に、補聴器などの装用は早くても生後4ヶ月であるため、それ以前に発見された場合の対応は確立されていなかった。高度難聴であるという事実を告げられた母は、精神的ショックが大きく、子育てに自信がなくなったり、ストレスで母乳が出なくなってしまうケースもあった。そこで、まずは子供への療育の前段階とし、母への療育の開始が必需と考えた。4)で述べたような内容の講義をはじめ、音楽療法の導入により、健全な母子関係が構築することが可能となった。音楽療法という専門分野の助けにより、母子のQOLの向上へも結びついていると感じる。
 療育は、耳鼻咽喉科の医師のみに委ねられるべきものではなく、言語聴覚士、音楽療法士、聾学校教員、保健師、看護師及び関係行政機関など全てのコメディカル関係者と共にチームを組んで療育に当たっていくことが肝心である。
 


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION