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 脳の機能の中でも、特にわかっていないのは、どのように発達していくかです。ハーバード大学のガードナー教授は、発達するあるいは獲得できる機能が、年齢に応じて段階を持つと考えています。
 
 この発達の段階を科学的に理解していくには、生まれてから死ぬまでの脳の機能を詳細に調べていくしか方法はありません。しかし、生まれてから死ぬまで脳の機能を計測できる方法はあまりなく、光トポグラフィのように新生児でも計測できる技術が望まれていました。これまでの、機能的MRI法では、被験者が動いている状態では計測できず、じっとしていられる成人にのみしか使えませんでした。従って、この観点から光トポグラフィはとても有用であるといえます。
 
 
 この計測結果は、光トポグラフィを用いて、初めて乳児の脳機能を計測した結果です。この子は、重度の水頭症で、頭の中はほとんど水でした。しかし、お母様はこの子が目が見えているのか知りたいと係りつけのお医者様に相談されました。MRIの画像をみると、後頭部にある視覚を司る領域の大脳皮質が残存していることがわかります。しかし、形態から機能があるかどうかはわかりません。また、年齢も1歳余りで言葉や行動から見えているかどうかを判断することも不可能でした。
 
 そこで、お医者様が、光トポグラフィを用いて、脳の機能の計測をして判断することを決めました。ここでは、この子に光を見てもらったときの脳の活動を計測しています。
 
 その結果がグラフに示されています。グラフを見てもわかるように、この子が光を見たときに、大脳皮質の部分では血液量が増加し(活動あり)、視覚と関係のない小脳ではまったく変化が出ませんでした。
 
 この計測結果から、この子は光を感じていることがはじめてわかりました。
 
 
 前の臨床的な計測から、私たちは、光トポグラフィによって、簡単に赤ちゃんの脳機能が計測できることを教えられました。
 
 そこで、これまで未知であった、脳の発達を科学的に理解していくことに、この方法を適用することにしました。発達が科学的に理解できれば、臨床・社会的な問題(自閉症や学習障害など)へも活用できるからです。
 
 この研究では、新生児や乳児発達の世界的権威である、イタリア国際高等研究所のジャックス・メーラ教授(“赤ちゃんは知っている“の著者)と共同で行いました。
 
 この研究では、いつから赤ちゃんは言語を言語として認知するかという課題に取り組みました。光トポグラフィを生後2-5日以内の新生児にかぶってもらい、いろいろな音を聞いてもらいました。その結果、音声言語を聞いたとき(A)には極めて顕著な活動が観測されましたが、その逆回し音(B)を聞いたときにはあまり大きな活動が観測されませんでした。もちろん、何も聞かないとき(C)には、活動は観測されませんでした。
 
 この結果から、生後間もない新生児でも、言語音を他の音と区別して聞き分けていることが、世界で初めてわかりました。


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