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基調講演−「難聴児への療育音楽」〜音楽と音振動を楽しく伝える〜
(財)東京ミュージック・ボランティア協会会長 赤星 建彦 先生
 
音楽療法とは
 日本音楽療法学会による音楽療法の定義は、「音楽の持つ生理的、心理的、社会的働きを、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上に向けて、意図的、計画的に活用して行われる治療技法である」とされている。
 また、アメリカ音楽療法協会の定義では、協会が認定する音楽療法士または臨床医によって行われることと、定められた臨床手続きによって行われることを付け加えている。
(1)療法受託契約
(2)アセスメント(診断、事前調査)
(3)プログラム計画
(4)実践過程
(5)評価
(6)契約終了
 音楽療法の定義や理論は、療法士の専門領域、見解、文化や対象者の違いによっていろいろあり、目的、対象、行われるところなど、必要に応じて時代と共に変わるであろうとみられている。
 
音楽療法の歴史
 有史以来、病や悪霊を取り払う儀式などに、音楽(のたぐい)による癒しが世界各地にさまざまな形で存在していた。古代文明時代からすでに音楽の効用の原点ともいえる逸話や事例が残されている。音楽のカタルシス効果(悲しい時にはそれに共鳴する音楽から始め、吐き出させてから精神のバランスをとっていくようなこと)を最初に唱えたアリストテレスの理論はよく知られている。
 
音楽療法の形態
音楽活動には・・・
■(1)聞くこと、
■(2)感じること(振動、リズム刺激など)
■(3)歌うこと
■(4)運動すること
■(5)楽器演奏すること
■(6)創作表現すること(1部あるいは組み合わせで行われている。)
 
受動的音楽療法と能動(活動)的音楽療法
 施設側の要望、対象者の状態を基に・・・
(1)個別
(2)小グループ
(3)大グループ編成で行われることとなる。
 その中で、療育音楽は、能動的音楽療法である。
(1)脳を刺激する手法を確立
(2)楽器演奏に運動を加える
(3)身体的効果、グループで行うことによる社会的効果の両面を加味する
(4)認知症においては回想効果も含まれ、プログラムに一貫性がある。検証研究にて多くの効果例が報告されている。
 
音楽療法の対象
■身体障害者
■知的障害者
■発達障害者
■精神障害者
■老人性障害者
■認知症患者
■がん患者高齢者(健常)など。
■アメリカでは、エイズ患者、薬物/アルコール依存者犯罪者、妊産婦なども多く、非常に広範囲である。
 
音楽療法の役割
■痛みの緩和、治療に対する不安やストレスの軽減、ターミナルケア、リハビリテーションなどチーム医療の一環として
■ADL・知的・感情・コミュニケーション能力の維持向上、痴呆(周辺)症状の改善など高齢者介護の一環として
■社会復帰をめざした心身のリハビリテーションとして
■身体・知的機能のレベルに合わせた発達促進プログラムとして
■特殊教育の一環として、あるいは健常児との統合教育をめざしたプログラムの一環として
■チーム作り、コミュニケーションの活性化をめざした地域プログラムとして
■健康予防を目的としたウェルネスプログラム、生涯教育の一環として
 
療育音楽とは―療育音楽(赤星式音楽療法)
(1)心身の健康回復
(2)維持
(3)予防
能動的な音楽療法プログラムである。
 欧米で発達してきた精神治療を目的としたものとは違い、医師、理学療法士などのアドバイスを受けてプログラムが確立した。
 
療育音楽の医学的理念
(1)手を有効に使って脳を活性化する
(2)歌、発声、呼吸法を通じて呼吸器を強化する
(3)身体にリズム感をつけ、生活リズムの改善につなげる
 特に加齢の変化による
■難聴問題、
■声域の状態に対する曲のテンポと
■キーの設定
 
療育音楽の医学的バックボーン
I 手と脳
 約150億ある脳の神経細胞のうち最も多い領域を占めるのが、手(約30%)と顔面(約30%)と言われています。
*脳を刺激する為に私達は五感(味覚、視覚、触覚、聴覚、臭覚)を使います。日々の生活の中から多くのことを学んでいます。療育音楽の中では、ボディーパーカッション、楽器を通じて指先の刺激を促すよう考慮しています。歌を歌うことで、(口を動かす)顔面の刺激を促します。
II 呼吸機能の強化
 適切な酸素の取り入れ、炭酸ガスの排出は、血行を良くし内蔵機能を刺激します。
*胸式・腹式呼吸を行って、肺活量を増やし大きな声での発声を促します。
*最も簡単な方法としては大きな声で歌うことです。子ども達の歌いやすい状況を作るために、曲の選択、声域にあったキー・テンポを考慮します。
III リズム感の養成
 サーカディアンリズムとしても知られており、人間の身体、日常生活はすべてリズムと共に営まれています。リズムを整えてあげることで、心に安心を与えます。
*リズムトレーニングを行うことで、歌いながらリズムを取れるように促しています。
*繰り返し行うことで、脳が刺激され、自然なリズムの習得を目指しています。
 
療育音楽の方法
 上記の医学的理念をもとにして5つのプログラムに体系化されている。
■Aプログラム(基本プログラム・身体虚弱な高齢者対象)
■Bプログラム(認知症高齢者対象)
■Cプログラム(知的障害児者対象)
■Dプログラム(身体障害者対象)
■Eプログラム(元気な高齢者対象)
■Fプログラム(フリー、ファイナルケアー、など)
 
心身障害児者の療育音楽
■障害の種類
■年齢
■障害の程度によりプログラムを変化
 障害の程度が軽度であればAプログラムに近づけていくことを基本に考える。また、重複障害者や肢体不自由者と重度心身障害者混合グループなど、重度の障害者を対象とした場合には応用を考えていく。
 
[療育音楽のプログラムには、流れがあります。A(基本)プログラムの流れ(60分)]
 
高齢者施設での療育音楽療法風景
 
背筋を伸ばして身体的リハビリにつなげる
 
療育音楽用オリジナル楽器
 
難聴ベビー外来セッション風景
 
難聴ベビー外来で使用する直径1.5メーターREMOの大太鼓
 
音を感じたとき−赤ちゃんのとびきりの笑顔


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