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特別講演1 「ドイツにおける新生児聴覚スクリーニングの現状」
Universal Newborn Hearing Screening in Germany
座長:安達のどか 埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科
Priv. -Doz. Dr. med. Gottfried Aust
Assistant Professor at the Free University Berlin
Medical chief of the Cochlear Implant Center Berlin-Brandenburg
 
Abstract: ドイツにおいての新生児聴覚スクリーニングは、遅れている。その検査の普及の遅れより、補聴器装用や、早期療養の遅れが生じているのが現状である。
 その問題解決に向けて、ベルリンで早期発見を志し、3ヶ月以前に発見された難聴児に対しての早期補聴器の装用を働きかけている。しかし、検査結果の評価については、信頼性が100%ではない為、慎重に熟練した医師の判断のもと、結果を両親に説明することが必要と考えられる。また、経過観察の期間について、一回目の検査結果がrefferと出た場合は、なるべく早くの再検査が良いとされる。4週間以上あけての再検は、両親への不安をつのらせるものとなり、なるべく早めの検査が勧められる。
 
スライド1: ドイツでのスクリーニングは遅れているのが現状であるが、今後の課題として以下のポイントについて考察が必要である。
 
スライド2:
 
1)スクリーニングを施行したかどうか
2)母体が地域の検査でのスクリーニング検査なのか、それともリスクファクターがあったために施行されたスクリーニング検査なのか。
3)検査は片側か、もしくは両側施行したか。
4)スクリーニングの時期と場所
5)スクリーニングの方法:ABRかOAEか
6)スクリーニングにかかるコスト
〈スクリーニングを施行したかどうか〉
 ドイツの新生児聴覚スクリーニング検査は、様々な試みを行っているが、最近の傾向としては、遺伝性の難聴児発見に注目している。
 リスクのあるグループに対してのスクリーニングは重要で、約30〜50%の割合で難聴が発見される。一般的に両耳の検査が必要と考えられるが、まれに片側のみの検査を施行している施設が存在する為注意を要する。
〈スクリーニングの時期と場所〉
 スクリーニングを施行する施設として推奨されるのは、大病院でかつ訓練された検査技術師による判定が可能な所がよい。時期としては、生後4〜6週間が良いとされている。しかし、その際の検査費用の問題、また熟練した検査技師の判定を受けることができない場合が多い。
〈スクリーニングの技術〉
 OAE検査が現在のところ検査の時間が早く、方法も簡便という点で使用頻度が高い。AABRは、OAEに比較するとやや検査方法に時間がかかる点が挙げられる。しかし、検査結果の鋭敏性に関してはOAEよりAABRの方が優れている。結果の再現性については、OAEの方がAABRよりも優れているという報告がある。また、機械の費用については、AABRの方が高い。
〈スクリーニングの資金運営〉
 新生児のスクリーニングにかかる費用問題については、大きな課題の一つである。難聴児発見の為の医療対策としては、生後一年目となるので、小児科での対応となる。(U1-U9という時期)その期間の検査については、健康保険で補われる。しかし、実際は、その小児科の技量にかかっており、ばらつきが非常に大きい。国として、聴覚スクリーニング体制を整えない限り、検査施行率は上がらないと考えられる。国としての対策としては、2002年よりベルリンで施行開始され、現在では、広い地域での普及が徐々に広まっている。
〈ベルリンでのスクリーニング検査〉
 ベルリンでは、年間31000人が出生し、95.6%が新生児病院で出生し、4.4%が自宅出産している。新生児病院では、スクリーニングの為の機材はそろっており、ほとんどがOAEである。それらの機材は、ベルリンのライオンズクラブにより寄付されたものである。小児病院での出生の場合、AABRを使用する可能性が出てくる。
〈第一のスクリーニング検査〉
 全ての新生児に対してのスクリーニングは。熟練した検査技師がその病院にいる場合は、生後3日目に施行すべきである。しかし、十分な人材がいない場合は、大体2〜4週間以内に施行し、その解析は熟練した検査技師が施行する。
〈第二のスクリーニング検査〉
 第一でのスクリーニング時に要検査という結果が出た場合、もう一度再検が必要となるが、その再検査がすぐに施行可能でない場合、専門の耳鼻咽喉科や小児科への受診が必要となる。遅くとも4週間以内に第二回目の検査は必要と考えている。2回目の検査で正常の場合は、その時点でのフォローは終了となる。要再検の場合は、聴覚専門機関での精査へと進む。
 
スライド3、スライド4:
 
 
〈検査結果の解析と対応〉
 両親にスクリーニング検査についてと、第二のスクリーニングについてのインフォームドコンセントをしっかりと行い、納得した上で、用紙にサインしてもらう。その際、検査が必要と判断された場合で、両親の拒否があった場合は、マネージメントセンターという対応機関によって説得してもらうことになる。全てのスクリーニング結果は、ベルリンの大学病院と聴覚障害センターに収集され、そこから必要な結果を適宜に関連施設へと連絡がいくようになっている。
 
〈ベルリンでの新生児聴覚スクリーニングの結果〉
スライド5: 我々の施設においては、第一、第二のスクリーニング検査を施行しており、チームとして患者に対応している。そのスペシャルチームは、耳鼻科、小児科、聴覚言語士、心理療法士、整形外科、ソーシャルワーカーで連携をとっている。
 
スライド6: もしも、感音性難聴がある場合の対応として、精査を進めるとともに、可能な場合は補聴器の装用をする。その過程は、スペシャルチームによって説明があり、具体的には難聴、人工内耳、成長発達、学校、教育、専門性、障害程度、その障害に対しての補償などを両親へ説明を行う。
 
スライド7: 我々の施設においては、TAOAE(trasitory evoked oto-acoustic emission)という器材を使用している。OAEと比較すると、ノイズやアーチファクトなどの点より優れている結果が得られている。OAEで要再検の結果が出た場合、ABRでの精査へ進む。
 


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