日本における新生児聴覚スクリーニングの現状
精密検査機関(耳鼻咽喉科)の現状と取り組み
小張総合病院耳鼻咽喉科 森田 訓子 先生
わが国では、1998年から新生児聴覚スクリーニングの試みが開始され、現在では全国的規模で実施され始めている。これに伴い、スクリーニング検査でリファー(要精検)となった子どもの耳鼻咽喉科受診数も急激に増えている。精密聴力検査機関の主な役割は、迅速な聴覚障害の診断とその後の速やかな療育機関紹介、聴覚管理フォローおよび関係機関との連携であるが、リファー(要精検)児の保護者の精神面に対する配慮、支援も不可欠である。今回は、日本耳鼻咽喉科学会でおこなったアンケート調査による全国の精密検査機関(耳鼻咽喉科)の現状や当科における精査状況を示すとともに、スクリーニングを受けた子どもの保護者へのアンケート調査の結果などから、新生児聴覚スクリーニングの問題点や取り組みについても述べる。
新生児聴覚スクリーニングに関するアンケート調査の結果
―日本耳鼻咽喉科学会福祉医療・乳幼児委員会調査―
<調査項目>
I. 新生児聴覚スクリーニングの方法、結果について
II. スクリーニング検査のインフォームドコンセント、結果説明について
III. 精密検査について
*全国47耳鼻咽喉科地方部会に対して調査を行った
I. 新生児聴覚スクリーニングの結果
スクリーニング検査結果をほぼ把握していた地域:13/47地方部会
13地方部会の回答結果
・スクリーニング総数:73,343名
・リファー(要精査):344名(0.47%)
・両側難聴:60名(0.08%)
・一側難聴:60名(0.08%)
1. 全国の精密検査機関(耳鼻咽喉科)の現状
2003年、日本耳鼻咽喉科学会の福祉医療・乳幼児委員会が全国の各耳鼻咽喉科地方部会に対して「新生児聴覚スクリーニングに関するアンケート」と題する調査をおこなった。これによると、同スクリーニングの実施状況を把握していたのは13地方部会であった。この13地方部会におけるスクリーニング(総数73343人)の結果は、要精密検査344人(0.47%)、両側聴覚障害60人(0.08%)、一側聴覚障害60人(0.08%)であった。精査のために耳鼻咽喉科を始めて受診した時期は、半数以上が生後1カ月以内であった。補聴器の装用に関しては、開始時期は生後4〜6カ月、常時装用は生後6カ月以内、両耳装用は生後7カ月以降の回答が多かった。聴覚障害が推定された場合の療育先は聾学校、難聴幼児通園施設が多かった。
III. 精密検査について
(回答:47/47地方部会)
1. 耳鼻咽喉科初回診察について
・初回診察の時期
生後、1カ月(28%)
紹介時点(28%)
1〜3カ月(17%)
・初回におこなうこと
診察 37
カウンセリング 29
聴性行動反応聴力検査(BOA) 25
聴性脳幹反応検査(ABR) 20
耳音響放射検査(OAE) 14
ビデオや発達検査 4
聴性定常反応検査(ASSR) 3
2. 初回診察後の検査の方針について
・生後3カ月まで
聴性行動反応聴力検査(BOA)
聴性脳幹反応聴力検査(ABR)
+自動ABR、聴性定常反応検査(ASSR)
耳音響放射検査(OAE)、ティンパノメトリー
CT、補聴器耳型採取、など
・生後4か月以降
上記+条件詮索反応聴力検査(COR)
発達検査、など
3. 療育の方針について
・聴賞障害が推定された場合の施設
聾学校 21
難聴幼児通園施設 17
その他 12
療育センター
病院内の聴能言語指導
私立の教室、など
・補聴器装用の時期
装用開始:
生後3カ月以内 6
4〜6カ月 26
6カ月以降 3
常時装用:
生後6カ月以内 22
7か月以降 10
両耳常時装用:
生後6カ月以内 14
7か月以降 17
・指導方法
トータルコミュニケーション 24
聴覚口話中心 14
手話中心 1
記載なし 9
日本耳鼻咽喉科学会では2002年9月に新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機関リスト(全国版)を作成し、2005年2月からは同学会のホームページ上でも同リストを閲覧することができるようになった。さらに、2005年4月には日本聴覚医学会主催の新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査に関する講習会(第1回)が開催され、定員を大幅に上回る受講の希望があった。このように、耳鼻咽喉科では新生児聴覚スクリーニングに対して学会全体として取り組み、耳鼻咽喉科医の関心も高まってきている。
2. 船橋・鎌ヶ谷地区協議会における新生児聴覚スクリーニングの現状
千葉県では医師会主導による新生児聴覚スクリーニングが船橋・鎌ヶ谷地区においておこなわれている。当科は千葉県の北部に位置するため、同地区のスクリーニングでリファー(要精検)となった子どもの精密検査機関となっている。2002年1月〜2005年3月の期間に同スクリーニングを受けた子ども13264名のうち、リファー(要精検)となったのは22名であった。このうち1名はダウン症候群で産科退院前に他院に転院となったため、その後の結果は不明である。その他の21名のうち、当科を受診した児は15名、他院受診は6名であった。両側高度および中等度難聴児は当科9名、他院1名の計10名で、スクリーニング総数の0.08%であった。
精査の結果(船橋・鎌ヶ谷地区協議会)
H14.1〜H17.3
1. 精査医療機関紹介 21名
・小張総合病院紹介例 15名
両側高度難聴 5名
両側中等度難聴 4名
一側難聴 5名
聴力正常 1名
・他院紹介例 6名
両側高度難聴 1名
一側難聴 5名
(一側外耳道閉鎖 4名)
2. 産科退院前に転院 1名(ダウン症候群)
その後の結果は不詳
*新生児聴覚スクリーニングを実施した13,264名中
両側高度・中等度難聴は10名(0.08%)
3. 当科における新生児聴覚スクリーニング児精査の現状
当科では、1998年から新生児聴覚スクリーニング児の精査をおこなっている。0歳児(初診時年齢)における同スクリーニング児の割合は、1998年以降50%前後を推移していたが、2004年は70%を超えた。スクリーニング検査機種は自動聴性脳幹反応(自動ABR)と耳音響放射(OAE)に大別されるが、2001年以降OAEによるスクリーニング検査が増加している。自動ABRとOAEを比較すると、自動ABRのほうが精度が高かった。船橋・鎌ヶ谷地区ではOAEと自動ABRを組み合わせた二段階スクリーニングをおこなっているが、同地区で2003年4月〜2005年3月の間にリファー(要精検)となって当科受診した子どもすべてに両側または一側難聴が認められた。当科において0歳代で両側難聴と診断され療育を受けている子どものうち、新生児聴覚スクリーニングを受けていた児は3分の2を占めていた(2003年4月〜2005年3月)。
0歳児における新生児聴覚スクリーニング児の割合
(小張総合病院小児難聴言語外来)
自動ABRとOAEの精度(当科症例)
0歳代で難聴が発見され現在療育を受けている子ども
(両側中・高度難聴)
―難聴発見のきっかけ―
T聾学校の乳幼児教育相談における
各年度の所属人数とスクリーニング児の割合 |
<初期の体制>
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