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(3)今後に向けての提言
 我が国においても、特に2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、官民において順次テロ対策の強化が図られてきたところであるが、調査研究の結果を踏まえ、時間的制約や、警備実施上の観点から現状の対策をすべて明らかにできないため限られた内容ではあるものの、より一層の対策強化のため、以下に提言をまとめた。
 
イ 予防措置
・ 監視・警戒及び情報収集・分析体制の強化について、残念ながら現在不審情報を一元化して収集・分析する機関がないため、官民、関係者の連携を強化する観点からは、既存の枠組みとしてある各国際港湾に設置された港湾保安委員会及び港湾危機管理(担当)官の活用が有効と考えられる。なお、港湾保安委員会は、港湾管理者、警察署、海上保安部、税関、地方入国管理局(出張所)、地方整備局、地方運輸局その他国・地方公共団体の部局・機関及び海運事業者等の民間事業者等で構成され、監視資機材の整備・運用における連携・協力、監視・巡回等における連携・協力等を審議・調整事項としている。また、港湾危機管理(担当)官は、港湾保安委員会の委員等の参集を求め、情報連絡、警戒強化等についての連携の確認、必要な助言等の業務を行うとされている。また、海守その他の自主防犯活動の強化を図り、テロ情勢に限らず港湾域の不審情報を広く集めることが肝要である。
・ また、監視・警戒に関することとして、国際船舶・港湾保安法に基づき、同法が対象とする国際船舶・港湾については、自主警備の強化とともに海上保安庁による入港規制が実施されているほか、原子力発電所等においても法律に基づく自主警備の強化が図られているところだが、港湾域にあるすべての施設が法律の規制対象となっているわけではないので、経済性等を考慮しつつ、内航船や危険物取扱施設等の自主警備の強化について検討していく必要がある。一方、監視・警戒を行っている場合にも、不断の見直しや法律上に定められた保安職員に加え、警備員ほか職員全体のセキュリティに関する知識向上に努めることが大切である。
・ 身元確認、本人確認等については、例えば港湾域に入ってくる船舶にはパイロットやタグボート、サプライ船等が接触し、港湾施設においても港湾運送事業者、トラック事業者その他の作業員が出入りするなど、港湾域では多種多様な者がいるため相互に身分証明ができる仕組みが必要である。身元の確認、身分証明所持の義務づけ、身分証偽造防止のための措置等については、現時点では各事業者等による自主的な措置とならざるを得ないが、関係者の理解が進むこと及びそのために関係省庁・団体の検討が進むことが望まれる。一方、船舶・施設等の管理者等において、アクセスしてくる者に対する身分証明書の確認を徹底することについては、船舶では国際的なガイドラインが示されるなどの動きがあるが、まずは現場の保安担当者が意識を高く持って対応するよう教育訓練が徹底されることが必要である。
・ テロリストを我が国に入国させないための措置等については、平成16年12月10日に政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部が決定したテロの未然防止に関する行動計画により入国審査・輸入管理の強化、乗員・乗客名簿の事前提出の義務化、旅館業者による外国人宿泊客の本人確認の強化、病原性微生物等の管理体制の強化、テロ資金対策の強化等が順次行われている。これらは政府による規制強化が主な内容であるが、事業者や一般市民の協力が不可欠であり、政府が説明責任を果たし理解と協力を求めていくことが重要である。
 
ロ テロリストの追及
・ テロ行為の刑罰化、捜査体制・手段の強化については、国際的な取組み・情勢を踏まえつつ、政府において検討を進めるとともに、国民の間での真摯な議論が行われることが望まれる。
・ テロリストを追及していく上で必要となる情報収集については、港湾域で活動する幅広い者の協力が必要であることから、上記の港湾保安委員会等を活用した情報共有、広報活動とともに、自主防犯活動の強化により多くの者が不審情報に関心を持ち、不審情報を発見した場合には速やかに関係機関に伝達されるようになることが、有効な対策となると考えられる。
・ テロが実行された場合における現場の証拠収集については、施設の管理者等による監視記録等の適切な保存・管理や、証拠保全の協力が必要であるため、関係者による理解・協力を通常から深めておくことが肝要である。
 
ハ 被害管理
・ 事案発生時の初動体制の強化についても、港湾保安委員会等の枠組みを利用して、種々の訓練を実施しながらフィードバックする形で、点検・確認、不断の見直しを行うことが適当である。その際、実効性を考慮し、不慣れなうちは完全な振り付けの訓練をすることから始め、練度が上がってきたら状況付与型の訓練をするようにしていくことも一つの方法として考えられる。いずれにせよ、種々の訓練を通じてより一層の対処能力の向上が求められる。
 一方、港湾保安委員会や港湾危機管理官は調整機関であり、事案発生時の指揮権等はないため、迅速かつ柔軟な対応をするための体制について引き続き検討していくことが望ましい。
・ テロの被害管理のうち避難等に関することについては、緊急対処事態として国民保護法に規定する枠組み等が存在するが、港湾保安委員会等の枠組みの活用にとどまらず、自治体(消防を含む。)や医療機関その他との連携強化、実践的な訓練に努めることが望ましい。
・ 電力、ガス等のエネルギー供給停止や、港湾機能、漁業活動の停止といった中長期的な経済活動・市民生活への影響を考慮した代替施設の検討等については、政府や自治体等の主導により、防災対策との関連も踏まえつつ、広く関係者が参加して検討を進めることが望まれる。
・ 政府関係機関による広報対応、被害者対策等については、官邸危機管理センターをはじめとする体制が整備されているところであり、迅速な情報集約と意志決定が適切に行われることが期待される。
 
2 おわりに
 以上、港湾域の特徴を踏まえたテロの可能性、内容及びその対策を示してきたが、他の交通機関や重要施設等がテロのターゲットとなる場合と比較して、その最大の特徴は関係者が極めて多い上、ひとたびテロが発生すれば大規模な被害が発生すると予想されることにある。このことは、テロの未然防止の観点からも発生時の対応の観点からも関係者の役割分担、さらにはコスト負担等の問題が大きく存在することを示すものであり、さらには各種対策を実施する上でその意志決定に時間を要する可能性が高いことを示すものである。しかしながら、もう一つの特徴である甚大な被害ということからは、こうした困難を乗り越えて、迅速かつ的確にテロ対策を実施していくことが求められるのである。その意味において、本委員会における検討結果が、今後も様々なレベルで進められる港湾域におけるテロ対策の検討の際に、関係者の連携強化や相互理解の進展に役立つことを期待するものである。


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