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II 調査研究事項
1 港湾域におけるテロの現状分析とその傾向
(1)港湾域におけるテロに関連する実例の分析について
 これまでに発生した海上テロの中には、港湾域においてテロが発生しうること、港湾域におけるテロが発生した場合、我が国本土でテロが発生したことによる関係者への大きなインパクトとあわせて、原子力発電所や石油基地、LNG基地等の危険物取扱施設の爆発が伴うことによる一層甚大な被害や、港湾機能の停止、エネルギー関連施設の破壊による社会経済への重大な影響が容易に予測されることを示すものがある。
 ここでは、実際に発生したテロ事例のうち、港湾域におけるテロとの関連性について解説する。
イ イラク・バスラ沖海上石油施設テロ事件
 2004年4月に発生したイラク南部のバスラ沖に所在するアマヤ石油ターミナルに対する連続自爆テロ攻撃は、我が国港湾域にも多数設置されている石油ターミナルその他のエネルギー関連施設が、テロによる被害・影響の大きさといった効果から、テロの対象となることを具体的に示したものと言える。特に石油ターミナル等が港湾域にある場合には、周囲に集中する重要施設への波及的影響も大きく、テロの対象となる危険性、テロが発生した際の影響について、本事例は大いに警鐘するものである。
【事件の概要】
 最初の自爆テロ攻撃は、米海軍艦艇に対するものであった。事件発生直前、バスラ沖において、所属不明の船舶が徘徊していたのを哨戒中の米海軍艦艇が発見した。この海軍艦艇が、臨検のために当該船舶に接近したところ、当該船舶が突然爆発し、米海軍兵士2人、米沿岸警備隊員1人が死亡した他、海軍艦艇の乗組員4人が負傷した。
 この自爆テロから20分後、当該事件発生海域から約11km離れたアマヤ石油ターミナル近傍に所属不明の小型船舶2隻が接近し、相次いで爆発した。当時、当該石油ターミナルにはわが国の海運会社が運航するタンカーが荷役待ちのために停泊中であったが、小型船舶の爆発に伴う破片が当該タンカーまで飛翔した。幸いにして人命が失われることはなかったが、荷役施設はしばらく閉鎖された。この結果、イラク暫定政府の試算によれば、2,800万米ドル(約30億5,000万円)の損害が発生した。
 
<イラク・バスラ沖石油ターミナル>
 
ロ 「コール号」事件
 港湾に停泊中の船舶に対するテロ攻撃として有名なものは、米駆逐艦コール号に対する自爆テロが挙げられる。港湾域にある船舶については、各種作業船・ボートが接近することが通常であり、不審船の接近等を発見することが困難であることを結果的に示すこととなった事例である。
【事件の概要】
 2000年10月、イエメンのアデン港に燃料補給のために停泊中の米イージス駆逐艦コール号に対し、所属不明の小型ゴムボートが接近し、爆発した。
 この爆発によって、乗員のうち17人が死亡し、39人が負傷した。また、同艦左舷中央部に横12m、縦6mの破口が生じ、航行不能となった。小型ゴムボートは停泊作業中のコール号に対する支援船を装っていたものであり、事件の翌日に反米イスラム過激派が犯行声明を公表した。
 
<自爆テロ攻撃により生じた船体破口>
 
<自爆テロ攻撃を受けた米艦船コール>
 
ハ 「ランブール号」爆破事件
 テロ組織は攻撃対象を、攻撃困難なハードターゲットからソフトターゲットヘ移行すると同時に、テロ攻撃により世界経済の混乱をも念頭に置き、ソフトターゲットとしての一般商船を攻撃対象とするようになった。そうした一般商船に対するテロ攻撃事件として有名なものは、2002年10月に発生した「ランブール号」爆破事件である。
 本事例が示唆するものは、一般商船の危険物積載船舶がテロの対象となること、そして当該船舶が港湾域にある場合には、先に記載した「コール号」爆破事件と同様に小型船舶による自爆テロを敢行する上での好条件があること、そして当該危険物船舶の爆発により港湾域に集中する危険物取扱施設等の爆発を誘発し被害が拡大することが予測される点である。
【事件の概要】
 本件はロに掲げたコール号に対するテロ攻撃から2年後、ほぼ同じ海域であるイエメンのアデン湾において発生した。
 「ランブール号」はフランス籍のタンカーであるが、同船の船長によれば、小型艇が同船に接近し、これに引き続いて爆発が発生したというものであった。
 イエメン当局の捜査により、同船の船体から同船のものではないガラス繊維性の船体破片が発見され、外部からのテロ攻撃であることが明らかになった。
 
<自爆攻撃を受け炎上中の仏籍タンカー「ランブール」>
 


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