日本財団 図書館


まえがき
 近年の国際的なテロ情勢は、一層緊迫化し、そのターゲットは、地下鉄・列車・石油ターミナル・船舶・海上施設・学校など比較的警備が脆弱で、かつ市民生活に密接に関係している公共施設などのいわゆる「ソフトターゲット」へと移行する状況を呈している。
 また、「テロの未然防止に関する行動計画」(2004年12月、国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部)によれば、我が国と密接な関係を有する東南アジア地域においても、国際テロ組織によるテロが続発していることから、国内におけるテロ発生の可能性は否定できないと言われている。
 このような状況から、我が国はもとより、国際的にもこのようなテロ事案への対応を極めて重要な課題と位置付け、対応強化が図られている。
 特に、人口密度の高い沿岸都市部の港湾域においては、大規模なテロが発生することにより、人的・物的損害は元より、港湾機能の停止、沿岸漁業活動への支障など、経済活動に重大な損失をもたらす事態が危惧されている。
 就中、四周を海に囲まれ、経済活動の多くを海上輸送に依存している我が国としては、2004年7月に改正SOLAS条約に基づき、海上分野におけるテロ対策の強化を図るべく「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」が施行され、船舶及び港湾における自主警備体制の強化が実施されているところである。
 これらの状況を踏まえ、平成16年度に実施した「海上におけるセキュリティ対策の調査研究」に続くものとして、我が国の港湾域における海上テロを防止し、安全かつ活発な経済活動を維持するために官民が連携して推進する効果的なテロ対策等について調査研究した。
 本テーマは、その重要性・特性などから対象が極めて広範囲に及ぶものであり、これらを逐一具体化し網羅することは至難である中で、この報告書が取りまとめられたものであり、今後、港湾域におけるセキュリティ対策の強化・向上の一助に寄与することができれば幸甚である。
 なお、本調査研究事業は、競艇公益資金による日本財団の助成事業として実施したものである。
 
平成18年3月
財団法人 海上保安協会
会長 永井 浩
 
I 調査研究の概要
1 調査研究の目的
 2001年9月の米国同時多発テロ事件を契機として、国際的なテロ情勢は、依然緊迫化の様相を呈しており、近年においては、地下鉄・列車やレストラン等の爆破、石油ターミナル爆破未遂など、その内容は、軍施設や政府公館等のように警備が厳重ないわゆる「ハードターゲット」と呼ばれる標的から、公共施設等のように比較的警備が脆弱ないわゆる「ソフトターゲット」と呼ばれる標的までをも狙った大規模かつ無差別なものへとエスカレートしており、その対策が喫緊の課題となっている。
 このような情勢の下、我が国港湾域においては、海上輸送や漁業活動の拠点としての機能に加え、旅客ターミナルその他の多数集客施設や、エネルギー関連施設その他の国家や社会にとっての枢要な施設が集まっているほか、沿岸都市部では人口密度が高い状況にあり、大規模なテロが発生した場合には、甚大な人的・物的損害や深刻な環境汚染は元より、我が国経済活動全体への重大な損失をもたらす事態が想定され、我が国本土でテロが発生したという大きな衝撃とともに、その影響は計り知れない。
 一方、港湾域における我が国のテロ対策としては、改正SOLAS条約の発効に併せて「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」(以下「国際船舶・港湾保安法」という。)を平成16年7月1日に施行し、入港規制の実施や自主警備体制の強化等を実施しているほか、官民連携による訓練、治安機関等による重要施設の監視・警戒、その他関係機関による水際対策やテロリストの活動規制強化方策が講じられているところである。
 しかしながら、多種多様な人・物が出入りする等これらの対策を講じる上で種々の困難が予想される港湾域において、的確かつ効率的なテロ対策を実施し、安全かつ活発な経済活動を維持するためには、官民を問わず、関係者がより一層の認識の共通を図り、それぞれの役割を見定めた過不足のない連携を図ることが何よりも重要であると考えられる。
 これらを踏まえ、本事業においては、我が国港湾域にある旅客船、危険物積載船その他の船舶、埠頭その他の港湾施設、多数集客施設、エネルギー関連施設その他の重要施設を攻撃の対象として、船舶を用いる等して海上から攻撃してくるテロリズム及びその対策を調査研究することとした。
 具体的には、現状分析と傾向に基づき、今後想定される港湾域における海上テロの態様等について研究し、諸対策が互いに隙間なく、円滑に実施できるための方策を官民相互の立場から検討を行い、もって今後の港湾における海上テロ対策の推進に寄与することを目的とするものである。
 
2 調査研究の方法
 海上セキュリティに関する有識者9名からなる「平成17年度海上セキュリティ委員会」を設置し、平成17年8月から平成18年3月までの間、計5回にわたり調査研究を実施した。
 なお、本調査研究委員会には関係官庁等として、国土交通省、海上保安庁、日本財団からも関係者にご参加頂いた。
 
3 委員会の構成等
(1)委員会の名称
「平成17年度海上セキュリティ委員会」
(2)委員会の構成
委員長
邊見 正和 (社)日本海難防止協会顧問
委員
池田 晃康 海上保安大学校教授
夷子 健治 海上保安大学校国際海洋政策研究センター 客員研究員
江本 博一 (社)日本船長協会常務理事
筧 隆夫  (社)日本港湾協会理事
樋口 久也 日本郵船(株)安全環境グループ危機管理チーム長
宮坂 直史 防衛大学校助教授
宮坂 真人 (社)日本船主協会海務部課長
山崎 正晴 コントロール・リスクス・グループ(株) 代表取締役社長
(五十音順)
 
関係官庁等
大野 秀敏 国土交通省海事局総務課 海事保安・事故保障対策室長
安藤 昇  国土交通省海事局安全基準課長
池上 正春 国土交通省港湾局総務課港湾保安対策室長
東井 芳隆 海上保安庁総務部国際・危機管理官
岩男 雅之 海上保安庁警備救難部管理課長
星島 伸至 海上保安庁警備救難部警備課長
中西 良次 海上保安庁警備救難部警備課
岩並 秀一  同上
伊地知英己  同上
谷川 仁彦  同上
 
佐々城 清 日本財団海洋安全チームリーダー
 
協力 横浜市港湾局
 
事務局 (財)海上保安協会
 
(3)委員会の開催
○第1回
日時 平成17年8月24日 1400〜1650
場所 海事センタービル八階会議室
議題
(1)委員会事業計画について
(2)海上テロに関する現状と傾向について
(3)テロ防止に関する講演
(国際テロリズムの動向とテロ対策〜海上・港湾テロの可能性〜)
 
○第2回
日時 平成17年10月11日 1130〜1700
議題等 港湾域におけるテロ対策について
〜京浜港横浜区、海陸からの調査等〜
 
○第3回
日時 平成17年11月16日 1400〜1600
場所 海事センタービル八階会議室
議題
(1)港湾域におけるテロ対策の現状と課題について
(2)望まれる対策について
 
○第4回
日時 平成18年1月31日 1400〜1600
場所 海事センタービル二階会議室
議題 望まれる港湾域のテロの対策について
 
○第5回
日時 平成18年3月1日 1400〜1600
場所 海運クラブ
議題 報告書案について


目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION