第22回献体実務担当者研修会記録
公開シンポジウム
「コメディカルの解剖学実習教育―大学としてどう取り組むか―」
日時:平成16年11月26日(金)14:00〜16:30
場所:聖マリアンナ医科大学病院別館8階臨床講堂
開会のことば:平田和明(聖マリアンナ医科大学教授)
黙祷
会長あいさつ:熊木克治(篤志解剖全国連合会会長・新潟大学医学部教授)
歓迎のことば:田所衛(聖マリアンナ医科大学医学部長)
シンポジウム:座長 坂井建雄(順天堂大学医学部教授)、佐藤巌(日本歯科大学教授)
講演1「コメディカル解剖学教育の現状と展望」
大谷修(富山医科薬科大学・日本解剖学会コメディカル教育委員会委員長)
講演2「コメディカル解剖学教育の取り組み−私立大学の立場から−」
井出 吉信(東京歯科大学)
講演3「コメディカル解剖学教育の取り組み−国公立大学の立場から−」
青山裕彦(広島大学医学部)
講演4「救急救命士解剖学教育の取り組み」
川岸久太郎(信州大学医学部)
講演5「コメディカルの人体解剖実習アンケートの結果から」
与那嶺司(臨床福祉専門学校理学療法学科)
質疑応答
総括と提言:内野滋雄(財団法人日本篤志献体協会理事長・東京医科大学名誉教授)
閉会のことば:田中重徳(篤志解剖全国連合会副会長・金沢大学医学部教授)
懇親会:聖マリアンナ医科大学東館3階会議室17:00〜
コメディカル解剖学教育の現状と展望
富山医科薬科大学
日本解剖学会コメディカル教育委員会委員長
大谷 修
近年、チーム医療の高度先進化、生活の質を高めるためのリハビリ医療の重要性の増大等のために、コメディカル教育における解剖学実習の必要性が叫ばれております。また、コメディカル教育機関が多数新設され、設置基準を満たすためにも解剖・生理学教育を大学に依頼する事例が増大しております。本日は、篤志解剖全国連合会第29回団体部会と大学部会の合同研修会(平成16年3月、京都府立医科大学)でも報告しましたアンケート調査の結果を基に、コメディカル解剖学教育に大学がどのように関わっているかという現状と、将来の展望について提言したいと思います。
コメディカルのための解剖学見学実習(以下、見学実習と略)を行っている医科・歯科大学は92%、剖出作業を伴う解剖学実習(以下、解剖実習と略)を行っている大学は約20%でした。1回の見学実習は3時間以下が約58%、1教育機関に対する実習回数は1回が74%、2回が13%でした。大学の講座あたりの見学実習時間は、10時間以下25%、10〜20時間27%、20〜30時間10%、30〜40時間9%、40〜50時間9%で、平均29時間でした。一方、コメディカルのための解剖実習を実施している大学は約20%でした。1教育機関に対する実習回数は1〜20数回と様々でした。実習のためのご遺体、場所、時間、および教員を提供しても、わずかの非常勤講師料を受け取る以外は、社会的貢献、あるいは教育実績として一部で(30%以下)評価されているに過ぎませんし、遺体収集・保存・火葬・遺骨返還等に要する経費も大学が負担しています。要するに、コメディカルの解剖学教育は医科・歯科大学の解剖学講座の“厚意”に大きく依存しているのが現状です。
条件が整えば解剖実習を受け入れるとする大学が80%を超えるものの、剖出を伴う解剖実習は望ましくない・断るが60%でした。一番の理由は、献体者の了解が十分に得られていないことと、大学本来の教育・研究の妨げになることでした。「無条件、無報酬で献体しているのだからコメディカルであっても医学教育に供して欲しい」とする意見が優勢かもしれません。しかし、本音では、「医科・歯科大学の教育・研究以外には使って欲しくない」と考えている方が多いことを認識する必要があります。医学科でも、実質150時間あるいはそれ以上の時間をかけて実習しても、十分に人体の構造を学習させるためには教員の相当の努力と工夫が必要です。「わずか数時間の見学で何を学ぶことができるのか」、「数回の解剖実習で何を学習できるのか」、「模型やマルチメディアによる学習で十分ではないか−むしろ時間と経費の節約になるのではないか」、「“怖いもの見たさ”の実習は、献体者に失礼ではないか」等々、様々な問題が提起されております。
コメディカル学生の教育に解剖実習を行うことによってコメディカルの質が一層向上し、チーム医療の質が一層向上するとの社会的コンセンサスが得られた時、コメディカル教育のための解剖実習も死体解剖保存法に言う「医学の教育・研究のため」であると解釈しても何ら問題はなくなるでしょう。そのためには、何よりもコメディカル側の努力が必要であると考えられます。献体者の十分な了解を得るための努力はもとより、十分な学識と死体解剖資格(単なる有資格者ではなく、優れた人格で、実際に解剖学の十分な指導ができる者)を持った教員を雇用または養成し、十分な事前教育と実習指導を“自前”で行い、遺体収集・保存・火葬・遺骨返還・実習施設の償却等に要する経費を応分に負担する体制の構築が期待されます。
コメディカルの解剖学教育の取り組み
−私立大学の立場から−
東京歯科大学解剖学講座
井出吉信
近年、医療の進歩にともなって医師、歯科医師のみではなく、コメディカル従事者にも複雑な医療サポートに対応できる高度な技術が求められるようになってきている。技術の向上を目指すことは勿論であるが、対象となる人体の構造と機能についてもこれまで以上に詳細な知識が要求される。
東京歯科大学では、実際にご遺体に触れることによって人体の構造を三次元的に正しく理解し、生命の尊厳を体得できるとの考えから、コメディカル機関に対して解剖学実習(解剖学見学)を前向きに受け入れている。見学を希望する学校は年々増え、現在では年間、約30校・約1500名の学生が来校している。コメディカル機関の内訳は、歯科衛生士学校、看護学校、鍼灸専門学校、理学療法士・作業療法士養成校、盲学校などである。
通常、解剖学見学は、解剖学実習および標本室での骨格標本、血管鋳型標本、種々の奇形などの標本見学を行なっている。これに要する時間は、学生数によって多少異なるが、解剖学実習に約90〜120分、標本室見学に約30分の時間を費やしている。
解剖学実習は、本学解剖学講座の教員と大学院生が担当し、事前に剖出したご遺体(筋・神経・血管が観察できる標本、開胸・開腹し内臓が観察できるようにした標本と摘出した臓器の内腔・断面標本、中枢神経の標本など)についてグループごとに説明した後、実際に触れていただき勉強する方法をとっている。これまでは、コメディカルの学生がメス・ピンセットを持って直接、剖出することはなかった。しかし、数年前からコメディカル機関の中でも特に、人体構造の詳細な理解が要求される鍼灸、理学療法士・作業療法士の学校から学生が剖出できる解剖実習をさせてほしいとの要望が多くなってきた。
近年、献体を希望されている方々の同意が得られる場合には、コメディカルの学生が剖出実習(解剖実習)を行うことができるような道筋がつくられはじめている。そこで、年1回行っている献体の会(東京歯科大学白菊会)総会の度に、コメディカルの学生に解剖実習が必要であることを説明して会員の理解を得るようにしている。
このような経緯から、現在、2〜3校のコメディカル機関に対して筋・骨格、関節、神経など必要な部分に関して学生がメス・ピンセットを用いて剖出する解剖実習を解剖学講座の教員がついて行っている。期間は、3〜4日の実習である。実習を行った学生からは、人体の構造が立体的に理解でき、大変有用であったとの声を聞いている。しかし、次第に剖出の実習を希望する機関が増え、解剖学講座の教員のみでは負担が大きく対応しきれなくなっているのが現状である。
そこで、当講座では、これらのコメディカル機関の教員が直接、解剖実習の指導ができるように専修科生として勉強できるシステムを設けている。東京歯科大学では、研修期間が1年の第一専修科生と3カ月の第二専修科生のコースが用意されている。これは本来、臨床を行っている歯科医師がもう一度勉強したいときに受け入れるためのコースとして設置されている。このコースを利用して理学療法士科・作業療法士科などで指導に当たっている教員の養成を行いはじめている。すなわち、コメディカル機関の教員が専修科生として入学し、2学年〜3学年にわたって週1回行っている歯学部学生の解剖学実習(全身についての系統解剖)に参加し、学生と共に同じ課題について剖出を行い学ぶシステムである。この方法により勉強した専任教員の指導の下で、現在2校が剖出の実習を実施し、成果が現れている。
これからもコメディカル機関の専任教員による解剖実習が充実できるように努力する所存である。そのためには、コメディカル専任教員に解剖学の知識・技術のみではなく、献体の会の登録手続き、ご遺体の防腐処置なども習得していただき、解剖できるまでの一連の作業についての協力が必要であると考えている。
コメディカル解剖学教育の取り組み
―国公立大学の立場から―
広島大学大学院医歯薬学総合研究科
解剖学及び発生生物学研究室
青山 裕彦
広島大学医学部では、学外のいわゆるコメディカル教育機関から人体解剖学実習の要請に応じ、また、各機関の教員の協力のもと、今年度は、学外より13機関のべ17学科から1300人以上の学生を受け入れてきた。これはここ3年間の試行的なものであり、実習の形態もそれぞれの機関・課程に応じて様々である。限られた時間と経費の中で、それなりの効果は上がってきているが、より学習効果を高め、またさらに多くの機関からの要望に応えるためには、今後どのような実習が望ましいか再検討する必要がある。
今回は、広島大学におけるコメディカル学生の人体解剖学実習の現状を報告し、その間に明らかになってきた問題点を指摘するとともに、その打開策を探る。
[現状]
現在「解剖学実習室」で行われている全ての実習を、医・歯学科のものも含め、その形態から分類してみる。
1型:専任の教員が指導し、学生自身が解剖する。
2型:医学科・歯学科の学生実習の中に入り、観察する。現場での指導は主に学生の説明に頼る。
3型:医学科・歯学科の学生実習中の解剖体を使うが別の時間帯に単独で実習する。指導は、各機関の教員と医学科解剖学教員が協力して行う。
4型:展示用標本を作製し、単独で実施する。指導は、各機関の教員と医学科解剖学教員が協力して行う。
1型は通常の医学科・歯学科の学生が行う実習で本学では、保健学科(理学療法学、作業療法学)もこれに含まれる。10回から60回(1回は半日から実質1日)にわたる。2-4型は、いずれも1回のみの実習である。2型で実施するか3、4型にするかは、それぞれの機関に解剖学の専任教員がいるかいないかにかかっている。特に医学部で解剖学教育に携わった経験の豊富な教員がいる場合、標本作製も含めた4型の実施が可能である。
それぞれの参加学生数は、1型220名、2型450名、3型320名、4型710名である。
[問題点]
1. 指導体制:2型は、解剖の中間過程にある一断面のみの観察となり、たとえ臓器などをある程度復元し示したとしても、全体像をつかむには困難である。しかし、未熟であるとはいえ、実際にそこまで解剖してきた医学・歯学学生自身による説明は丁寧なものであり、また同年代の実習(見学)者にとって質問しやすく、これが逆に医学・歯学生にとって反省の材料となるという、相互の教育にもなるという効果もある。内容面とは別に、希望観察部位が共通になりがちであることから、受け入れ学生数の上限があるという問題点がある。3、4型は、教員による系統だった指導が出来る利点があるが、学生に対する個別対応は不十分となる。
2. 経費:4型で、用意する専用の解剖体に関する経費は厳密に言えば大学が負担できないことになる。一方、2、3型では今のところ、新たな経費は発生していないが、情報の供与と見れば4型と同様、対価が支払われるべきであろう。従来は、そのような制度がなく、仮に施設利用費を徴収してもそれは解剖体経費として還元されないので、可能な限り奨学寄付金の形をとらせていただいてきた。
[今後の展開]
1. 指導体制の整備:現在、複数の機関の教員が共同で指導にあたっている。この指導陣を拡充する必要がある。死体解剖資格を持つ教員の配置、あるいはその研修制度を整えたい。実習を履修済みの学生の参加も一法であろう。
2. 経費負担:2004年度より、国立大学は国立大学法人となり、会計制度も変わりつつある。その中で、学外機関からの実習受け入れに関しては、解剖体経費の応分の負担をお願いできるような制度を整えたい。もちろん、これは収益を得るためでない。
3. 以上の2つを機能させていくためにも、実習参加校の間での緊密な連携が必要である。そのための組織作りに取り組みたい。そこで、実習方法や、教員研修、経費負担などを議論し、単に「大学の実習室を借りる」のではなく、医療者養成機関全体で解剖学教育を作っていくのである。
救急救命士解剖学教育の取り組み
信州大学医学部人体構造学講座
川岸 久太郎
「救急救命士」は、救急医療充実を求める世論の高まりを受け平成3年に制定された比較的新しい国家医療資格である。その業務内容は看護師の行う診療補助業務の一部を救急車内で行うというものであった。しかし、さらなる救命率向上を目指し、今年度より従来医師にしか認められていなかった気管挿管を、一定の講習を条件に救急救命士にも認められるようになった。
このように救急救命士には比較的高度な処置が認められる一方、その解剖学に関する教育内容を調査してみると他の医療資格の養成過程に比較して非常に少なく、養成施設が解剖学教育の充実を切望している実態が明らかとなった(平成15年の日本救急医学会においても救急医療関係者より解剖学教育充実の要望が出されている)。また救急救命士の生涯教育においても解剖学を学習する機会はほとんどなく、救急救命士は自身の解剖学的知識に不安を覚えながら救急救命業務に従事していることも明らかとなった。
上記の調査結果に加え、救急救命士に解剖教育の充実が早急に必要と考えられる理由は、以下の様な事があると考えられる。それは、(1)生命の危機に瀕している傷病者に接する機会が多い、(2)その傷病者の状態を医師のいない現場で判断しなければならない事が多い、(3)この判断をCT/MRIやエコー等がない現場で解剖学的知識を元に判断しなければならない、(4)今後救急救命のために可能な処置が高度化してくる(気管挿管や除細動、薬剤投与等)、(5)医療現場で医師の指導を受ける教育の機会が他の職種に比べ少ない、等である。
救急救命士が行うこれらの救急業務は研修医でもなかなか難しく、教育充実の必要性は明らかであろう。
このため信州大学では長野県内の救急救命士を対象に平成12年度より人体解剖見学(実習)を実施し、その内容等を改善し、救急救命士に対する効果的な解剖学教育を研究しており、その内容を紹介する。各養成所における通常の解剖学教育終了後、その知識の定着を目標としたコースであるため、半日の復習・テスト・献体等の説明等を行った後、半日の人体解剖見学(実習)を行っている。人体解剖見学(実習)には解剖体より摘出した標本と、男女の解剖体を使用しており、基礎的な解剖学から一部臨床解剖学の範囲を包括している。
一般的にコメディカルに対する解剖学教育においては、短時間でその職種に適した内容を効果的に教育する必要があるため、この様な人体解剖見学(実習)においてはやはり解剖学教員による適切な指導が必要不可欠であろう。
しかしながら、現在のコメディカル解剖教育は地域連携の名の下に各大学の解剖学教室に大きな負担を強いながら実施されているのも事実である。一方、死体解剖保存法では正常の解剖体を用いた解剖学教育は大学の医・歯学部でのみ行えるとされており、他で実施することは出来ない。解剖学教育の充実は医療の高度化とともにますます求められていることも事実であり、これらの解決策を早急に見出す必要があろう。
コメディカルの人体解剖実習アンケートの結果から
臨床福祉専門学校理学療法学科
与那嶺 司
はじめに―文部科学省の委託事業
臨床福祉専門学校では全国のPT・OT養成校教員の有志を集め、文部科学省の委託事業として「コメディカル教育における人体解剖実習の本格的導入に向けての養成校側の準備体制整備」事業を行う事になった。今回のシンポジウムでは本事業の一部である現状把握調査を中心に現在までの集計状況を報告する。
集計状況の中間報告
【調査対象】PT172校、OT養成校161校。10月12日の段階でPT:95校55.2%、OT:76校47.2%の回収率である。
【剖出実習の実施】剖出実習を実施しているのは、PT養成校で29.5%、OT養成校で25%であった。未実施の養成校でもPTで97%、OTで93%は剖出を伴う実習を希望し、見学のみの実習で十分とする養成校を大きく上回っていた。実施している場所では近隣の国公立あるいは私立の大学に依頼していた。実施している学年は1年次が両学科ともほとんどであるが、複数学年にわたる養成校も多く見られた。実習期間は1日のみがPTで53.6%、OTで36.8%と多く、期間が不十分であると答えている。実習前のオリエンテーションとしては「生命あるいは医の倫理」や「篤志献体についての説明」が両学科とも全校で行なわれていた。養成校教員のトレーニングに関しては、実施校のほとんどが「死体解剖資格」を取れるように研修すべきと考え、未実施校の多くも解剖セミナーヘの参加経験者あるいは資格者が実習補助をすべきと考えていた。
【慰霊祭その他】慰霊祭への参加を実施している養成校はPTで25%、OTで42%のみであった。不参加校の理由は「機会が与えられない」「大学の意向で不参加」などであった。解剖実習を行なっていない養成校でもPTで78.5%、OTで81%が解剖実習を実施するなら慰霊祭には参加すべきと答え、その他と答えた養成校も、「他のコメディカルと歩調をあわせる」「大学の判断」などとしている。
【卒後教育】卒後の人体解剖実習はPTで74.7%が必要と答え、不要は11.6%であったが、OTでは必要とした養成校が55.3%、不要とした養成校も27.6%あった。PTとOTの人体解剖実習に対する対応の違いを表す結果となった。卒後教育調査として行った現職PT、OTへの無作為抽出調査はPT2500人、OT2000人を対象に実施した。現在入力と集計の途中であるため結果を記載できないが、卒業後に人体解剖実習を望む意見が多くを占めるようである。
日本篤志献体協会理事長
東京医科大学名誉教授
内野 滋雄
日本解剖学会にコメディカル教育委員会が誕生したのは1992年のことである。それ以前からコメディカルの人体解剖実習についての意見・要望などが多く出され、学会として考慮せざるを得なくなってきていた。
それには二つの大きな理由があった。一つは全国の解剖学教室のスタッフに医学部・歯学部の出身者が少なく他学部出身者の力に負うところが大きくなり、その処遇を放置することは学会の活性化のためにも良くないという点、二つ目はコメディカルの教育の充実が日本の医療の更なる向上・発展に必要であり、コメディカル側からの要望が強く、必要にせまられて全国各地でいろいろな方法で実習が行われていたこと。この点を法的にも献体登録者の了解の面からも明確にすべきであるとの2点からであった。
その後、解剖学会のコメディカル教育委員会・篤志解剖全国連合会がこの面の活動を行い、また(財)日本篤志献体協会が日本財団から多額の補助金を得て支援を行ってきた。今回の公開シンポジウムでは過去の実績をふまえて新しい取り組みが語られると期待している。特に従来、希望は強くても行動に乏しかったコメディカル側が、文部科学省委託事業として専修学校先進的教育研究開発事業の委託を受け、「コメディカル教育における人体解剖実習の本格的導入に向けての養成校側の準備体制整備」を全国的にアンケートを行い方向性を明確にすることは極めて大きな意義を持つ。
全ての講演を伺ってからでないと、現時点では総括の要旨は述べられないが、私は、今後の問題として三つの大きな問題が残ると考えている。
一つは、人体解剖実習を行える場所が、医歯系の大学の解剖学教室に限られているので、場所と教育に必要な時間の問題。大学側の理解と協力がどの程度まで得られるか。
もう一つは教育スタッフの問題。現時点では、人体解剖実習では解剖学の教授若しくは助教授の指導が必要とされる。現実には教授の負担が多くなり過ぎ実現は困難である。私は、解剖学会の「人体解剖実習認定指導者」制度をつくり、一定の講習、研修を課し、試験を行い、合格した者に指導者としての資格を与える。臨床で行っている学会認定医制度に準ずるもので、日本解剖学会再会員であることが条件の一つとなる。この指導者にはコメディカル養成校側の教員がなることになるだろう。そしてコメディカルの人体解剖実習に限って教授の了解と指導の元に教育に当ることにする。これを文科省等行政の了解をとりつけること、又は法制化することも必要であるかもしれない。
最後は献体登録者の理解と協力である。自分は医学教育のため、良いお医者さんになってもらうために献体するという方が多い。誠意をもって理解を深めることが何よりも必要である。
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