5. 総括と質疑応答
座長
(社)日本解剖学会コメディカル教育委員会委員長
富山医科薬科大学医学部解剖学第一講座教授
大谷 修
丸山氏:千葉大学白菊会の丸山ですが、会員の立場から申し上げますと、私たちは基本的には良いお医者さんを作ってくださいということで自分の体を提供しているわけで、コメディカルの皆さんも医療に関わっていることであれば容認できることですし、千葉大ではすでにコメディカルの方々の実習見学もされており、医療はチームプレイですからその意味では医学部が中心になり今後のさらに検討していただきたい。
大谷氏:医学部・歯学部が中心になりコメディカル教育を推進していくのはそのとおりですが、解剖センターの創設や、コメディカルの方々が利用しやすい環境作りが必要です。
藤原氏:わたしも医学部・歯学部が中心になり人体構造の研修センターをつくることは賛成です。しかし、看護、PT、OT系のコメディカルの学生数が圧倒的に多いので教育上からも、相互の指導者を配した機能的な研修センター、実習センターを目指しているわけです。
大谷氏:解剖学会としてもそのような意見を念頭において検討していきたいと思います。
後藤氏:昭和大学の後藤です。現在のチーム医療の立場からは制度よりもコメディカルの学生を積極的に実習に参加させることが大切で、私たちのところではすでに実施しております。
阿部氏:秋田大学の阿部ですが、今本先生のところでは4から5回の実習見学をなされているとのことですが、先生の提唱しておられる生体観察技法の時間配分から解剖は見学に制限されているのでしょうか。
今本氏:見学の回数は増やしたいのですが、実際の解剖にかける時間を考えますと他にもしなければいけないことが多くあります。看護学ではむしろ生体を見る。これが大事ですから、見学が妥当と考えております。
阿部氏:藤原先生に質問ですが、先生の御提案なされた全国10ヶ所のセンターで1万人の研修の中での10回という数の根拠はなんですか?
藤原氏:まず、PT、OTでは看護と異なり、カリキュラム的にも系統解剖を十分しなければならず、その意味で解剖をお願いしたいのです。ですから、10回とは解剖を10回するという意味です。
大谷氏:医学部で行なわれている解剖実習では300から400時間解剖しています。その間、解剖しながら詳細に観察し、スケッチさせたりしているのですが、テストをしてみると、かならずしも期待した答えが得られないことがあります。時間を掛ければいいという訳でもないようです。
井出氏:東京歯科大の井出です。私の大学にも年間たくさんの学校が見学に来ておりますが、そのときの講義と実習指導できる教員の有無が問題です。指導者がいるところとそうでないところではかなり差があります。小関先生のところではどの程度まで教員が行なっているのでしょうか。
小関氏:講義を担当し、解剖実習に出る前には一通り終了しております。
井出氏:現実には多くの学校ではそのような指導者が少なく、解剖実習を受け入れる側でもその点が大変になると思います。
大谷氏:ありがとうございます。解剖学教育では実際の人体をみて勉強することが効果があるので、そのときに同時に人間性の教育も行えると思います。だから、長く人体に接していればいいというものでもなく、必要性と要求の高まりの問題だと思います。
田中氏:金沢大学では献体は無条件、無報酬という理念で行っておりますが、献体業務に携わる方々の尽力も見直す必要があります。さらに、教育の評価が今後の課題となると思います。
藤原氏:PT、OT、看護の学生の教育評価について調査しましたところ、医学部の学生の成績よりも上回った結果が出ました。そういう意味では教育熱意ではたいへん強いものがあると考えております。
今本氏:滋賀大学では多くのコメディカルの学校への見学提供を行なっております。これが社会貢献として評価されるかの判断はわかりませんが、出来るだけ指導教員を確保し、責任ある指導にあたっております。
佐藤氏:札幌医大の佐藤です。死体解剖資格者とは死体解剖保存法第2条1項に規定する認定者のことですか。
大谷氏:その通りです。
佐藤氏:その有資格者は医師、または歯科医師ですか。
大谷氏:医師、または歯科医師が修得できる最短ですが、一定以上の解剖経験があればそうでない者も可能です。
佐藤氏:その認定の基準が厳しくなっているので、おのずと大学の解剖学教室の講師等の教員が必要となるわけですが、病理や法医と比べ、系統解剖ではそのような指導者の養成は必要だと思います。
大谷氏:教員の職位は別として、指導者の養成は今後の大きな課題です。現状は大学との連携が大事かと思います。以上で質疑は終わりますが、コメディカルの教育に解剖学実習、人体を直接観察する実習が求められていることが明白となりましたが、今後は大学を中心とした実習センター、研修センターの設立へ模索してゆく方向も視野に入れて行きたいと考えております。
6. 日本救急医学会総会サテライトシンポジウム報告
「救急医療従事者(コメディカルスタッフ)に対する解剖体を用いた解剖学及び外傷学教育」
篤志解剖全国連合会事務局長
順天堂大学医学部解剖学第一講座教授
坂井 建雄
昨日(平成15年11月20日)、第31回日本救急学会総会の表記のサテライトシンポジウムが、東京フォーラムにて開かれた。大谷修教授と私が、解剖学サイドからの講演者として招かれたので、その報告をする。
コメディカルの人体解剖実習は、以前から必要に応じて行われていたが、10年前には誰もが、許されるものかどうか、不安な気持ちを持っていた。この問題を初めて真正面から取り上げたのは、1998年に東京歯科大学で行われた第16回実務担当者研修会で、2000年には日本財団からの補助を受けた公開シンポジウム「解剖学と献体その新しい展開」として、コメディカルの各方面からの講演者が集まり、解剖体を用いた実習ならびに見学の必要性が強く訴えられ、また弁護士の加藤済仁先生からは、立法の趣旨から見て解剖体を用いたコメディカルの教育は認められると解釈できるが、献体者の了解を十分に得る必要があるという見解が示された。その後、解剖学会のコメディカル教育委員会委員長で篤志解剖全国連合会会長の外崎教授が、コメディカル教育の現状について2度にわたるアンケート調査を行い、その結果を解剖学雑誌に報告している。篤志解剖全国連合会を中心としたこういった取り組みの結果、コメディカルに対して解剖学教育は必要なもの、やるべきものであるということを、多くの人たちが認識するようになった。しかし、これが法的に許されたものというところまで行かない、グレーゾーンであるということも、忘れてはならない。死体解剖保存法の解釈についての問題は、厚生労働省から公式の見解が出される必要があるが、それについてはコメディカルの学協会から厚労省に働きかけていただきたい。先日、篤志解剖全国連合会から文科省に挨拶に伺ったときも、コメディカルの人たちからの働きかけがないのがおかしいという指摘を受けている。
今後、解剖体を用いたコメディカルへの教育がさらに広まるとすると、考慮しておくべき大きな問題がある。教育に携わる解剖学者の人件費を支払っていただくのは当然のことであるが、さらに献体によっていただいた解剖体を保存処置し、解剖後に火葬してお返しするのにかかる経費、献体者やご遺族への日常的な連絡に要する経費として、大学は非常に大きな費用を負担しているが、これまでは公表してこなかった。しかし実際には、解剖体1体当たり30万円から50万円の費用を各大学で負担している。解剖実習の専用の実習室、解剖体を保存処置し保管する設備の減価償却費、さらに解剖体の処置に関わる技術職員の人件費などは、ここに含まれていない。こういった大学の負担に対して、解剖体を用いた教育の恩恵を受けるコメディカルの人たちにも、応分の負担をしていただくべきであるが、無条件無報酬という献体によりご遺体を頂戴しているということを考えると、我々解剖学者が決して収益を目標にしてはならないのは、あまりにも当然のことである。しかし、必要な経費を全く無視して、単なる善意だけでコメディカルの解剖学教育が立ち行かないのも、これまた当然である。この問題をスマートに解決し、献体の精神を受け取りながらコメディカルも含め多くの人たちに、解剖学教育を広めて行く道を、関係者の叡智を集めて探っていきたいと願う。
7. 日本篤志献体協会理事長あいさつならびに閉会のことば
(財)日本篤志献体協会理事長
東京医科大学名誉教授
内野 滋雄
今回のご講演でコメディカルの方々の人体解剖学に対する多種多様の要望があることがわかり、益々、献体運動の中でコメディカル教育での人体解剖実習の大切さを認識いたました。今後は解剖学会を中心に全国の大学にご支援、ご協力を仰ぎ、さらなるスタートとしたいと存じます。また、今回のシンポジウムの件で文部科学省に伺う機会がありましたが、その中で、大学の関係者のご意見は了解しましたが、コメディカルの方々の要望やご意見がまだ十分届いてはいないとの回答でした。今後はコメディカルの方々も厚生労働省も含め、行政の方に働きかけてゆく必要があるかと考えております。人体解剖実習は最終的には日本の医療の向上につながることで、コメディカルの方々とも歩調をあわせ進めて行きたいと考えております。来年は3月末に京都府立大学での開催となりますが、大学部会と団体部会との合同でのコメディカルの人体解剖実習に関する討論会等の開催を企画しております。
最後に
高齢者人口が急速に増加し、進歩した医療技術と医療従事者の育成が急務であります。現実的には現代医療は、まさに数多くの職種の医療従事者が協調して携わっており、医療技術の発展と医療の質的向上に貢献してまいりました。このうち、コメディカルの教育現場でも、人体解剖学教育の必要性、重要性が認識され、数多くの医療技術者養成施設で人体解剖学教育が行われております。コメディカル教育機関は、医・歯学科の解剖学講座と連携して、指導者の養成と、医・歯学科の解剖実習室をコメディカル教育にも十分利用できることが緊急の課題であると考えられます。しかし、医学・歯学部に医学・歯学の現場ではいまだ多くの問題があると考えられてきました。そのため、「コメディカル教育における人体解剖実習についての調査」報告と公開シンポジウム「人体解剖実習をもとめるコメディカルの声にどう応えるか」を開催し、医学・歯学部の関係者の方々にご理解を得、また、同時に医・歯学生はもちろんコメディカル養成機関の学生感想と献体登録者の声とともに掲載した文集を多くの人たち広く理解していただくために発刊しました。この献体啓蒙運動は生と死、生命の尊厳はもちろん、医療技術の発展と医療の質的向上に寄与するための人体解剖学教育普及を促進させ、今後の人体解剖学教育のさらなる環境を整備し、社会の大きな期待がある医療技術者養成機関の今後の課題を提示し、意義ある医学・歯学の教育の現場を目指すものです。特に、今回の事業を通じて、1)献体啓蒙活動の重要性の再認識、2)医・歯学部とコメディカル教育現場との連携、3)社会と監督省庁への理解の必要性が与えられました。
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